代わりに立つ人
相良の休暇が決まり、橋の担当を一時的に三崎が引き継ぐことになった。二人は机へ地図を広げ、危険な場所だけでなく、警備員の交代時刻や配達員の通る道を確認した。現場を知るとは、怪異の気配を覚えることだけではない。
森崎は監視の資料を整理し、橋脚下の音が聞こえなかった日を別にまとめた。三崎はそれを見て「助かる」と言った。現場へ入る人間は、何も起こらない時間がどれだけあるかを知らなければ警戒の仕方を誤る。
休暇前の相良は、私物のマグカップを洗って棚へ入れた。飲み残したコーヒーをそのままにして出ていくのが嫌だという。鷲尾は大げさに送別会を提案したが、奈央は「三日後に帰ってくるんだから」と笑った。
午後、道路管理者から案内板の修理依頼が届いた。三崎は自分で直そうとせず、担当部署へ回した。慣れていない作業を勝手に引き受け、かえって怪我をしては困る。相良はその判断に頷いた。
支所を出る時、相良は入口の当番表をもう一度確かめた。自分がいない日にも、電話を受ける人がいる。現場には交代で立つ人がおり、誰か一人がすべてを背負う必要はない。
三崎が橋の引き継ぎ資料を読み始めると、相良の筆跡は思ったより細かかった。封鎖札の交換時刻だけでなく、雨の日に滑る階段の位置まで書いてある。三崎は自分が追記した地図の余白へ、夜明け前に眩しくなる街灯の位置を入れた。次の交代者にとっては、そんな情報の方が術名より役立つかもしれない。
翌朝、橋の歩道ではいつもと違う制服の警備員が立った。それでも案内の声は丁寧で、通勤客は迷わず橋を渡った。




