見落とすための会議
東部支所の月例会議で、井波は『判断できないまま置いた案件』の一覧を配った。河川橋、木戸、旧井戸、港の倉庫。どれも急いで結論を付ければ、無理な説明になりかねない。支所長は「終わった仕事まで未解決にするのか」と眉を寄せた。
井波は二種類の欄を提案した。人命の危険についての対応完了と、現象の正体についての未解明。混ぜて扱えば、現場が安全になっても報告書が閉じられない。逆に原因が分かっても人が危険なら、仕事を終えてはいけない。
三崎は茶舗の衝立と石工の木枠を例に挙げた。宮野は日々店を開けられているが、木戸の奥を調べたわけではない。相良は橋の通行を守れている一方で、下部通路を開放できないと説明した。
支所長はしばらく黙ったあと、一覧の書き方を認めた。ただし報告を増やすだけでは負担になる。井波は既存の台帳から転記できる項目を減らし、休みの日に誰かが書類を持ち帰らなくて済むようにした。
会議が終わると、新人の鷲尾は自分の手帳を見直していた。未解明の案件が増えるのは失敗だと思っていたが、仕事の区切り方が少し変わったらしい。
支所長は会議が終わってから井波を呼び止め、窓口の新人が記入欄を間違えて困っていたことを話した。井波は説明文が短すぎたと気づき、翌日一緒に試し書きをすることにした。制度の改訂が正しいかどうかは、作った人の理屈だけでは分からない。使う人が迷わない形で初めて役に立つ。
試用期間は一か月と決まった。
夕方、井波は新しい様式を印刷した。白紙の欄は多くない。大事なのは、分かっていないことを狭い枠へ押し込めずに済むことだった。




