二つの朝食
翌朝、澪が高層住宅を訪れると、家族は朝食の支度を終えたところだった。食卓の位置を変えてから娘は落ち着いているという。しかし姿見には今度、食べ終わった皿が一枚だけ残って映った。実際の机には何もない。
父親は不安そうに鏡を布で覆った。澪はそれを止めなかった。原因を調べることと、家族が穏やかに暮らせることは同じではない。管理会社へ相談し、鏡の一時撤去と壁内の採光口の点検を頼むことになった。
作業員が来るまでの間、澪は娘から朝の様子を聞いた。娘は皿を見ていなかったが、食卓で牛乳をこぼして母親に叱られたことを話した。澪は鏡の話へ急いで戻さず、その時の出来事をそのまま聞いた。
壁の小窓は、隣の部屋だった空間へ通じるものではなかった。建築当初、廊下へ採光を通すための浅い穴で、現在は完全に塞がれている。作業員は穴の寸法を計測し、配線の安全を確認した。
鏡を外すと、壁の白い塗料に椅子の背に似た跡があった。家具を長く置いた日焼けの境目かもしれない。母親は「前の住人のことも調べないと駄目でしょうか」と尋ねた。澪はまだ必要ないと答えた。
作業員が壁の点検口を開けると、古い釘の頭が見えた。鏡を支える金具ではなく、以前の棚を固定したものだった。父親は知らずに大きな家具を掛けていたことへ驚いた。澪は壁の強度の検査を勧めた。怪異の原因が分からなくても、落下事故を防ぐことはできる。
作業員は鏡を運ぶ動線に置かれた花瓶を避けた。小さな配慮に、母親は礼を言った。
その日は鏡を倉庫へ預け、玄関に小さな花の絵が掛けられた。娘が選んだ絵だった。




