橋脚の補修印
河川橋の老朽化調査が一区切りつき、橋上の通行制限が一部緩和された。下部通路は閉じたままだが、歩道の工事柵が移され、買い物へ行く人の道幅が広がった。相良は道路管理の職員と案内板を付け替えた。
橋脚の補修印には、作業班の番号と施工日が小さく刻まれた。奈央はそれを見て、古い補修の痕が消されず残っていることに気づいた。どの時代の仕事も、次の人へ手掛かりを渡すために印を残していたのだ。
相良は橋の下へ札を一枚設置した。外側へ声が届く距離を短くするためのものだ。怪異を倒すことも、封印を完成させることもしなかった。新しい札が人や動物に影響しないか、別の班が時間を置いて検証する。
配達員からは、迂回路の案内が以前より分かりやすくなったと礼が届いた。森崎の描いた図は、道路管理者が正式な掲示に採用した。彼はまだ記録係だったが、自分の仕事が外で役立ったことを知らされた。
奈央の手の痕はほぼ消え、写真で見比べなければ分からなくなった。彼女は次の検査日を手帳へ書いた。痕が見えなくなっても、現場で起きたことを忘れる必要はない。
配達員の代表が橋へ来て、森崎に紙袋を一つ渡そうとした。中には店で焼いたパンが入っていた。森崎は礼を言い、受け取りの規定を確認してから、休憩所で皆に分けた。案内図を描いたのが自分だけの手柄ではないと伝えると、代表は『歩いて調べてくれたのが助かった』と答えた。
補修工事の伝票も、橋の管理台帳へ別に綴じられた。
夕方、橋を渡る人の足音が規則正しく響いた。相良は遠くの声に耳を澄ませず、まず歩道に落ちていた小枝を拾って端へ寄せた。




