橋守の古靴
橋の補修に入った作業班から、橋脚の空洞に古い靴が挟まっていると知らせがあった。片方だけの革靴で、紐はなく、内側へ泥が詰まっている。森崎は持ち主を想像しかけたが、先に位置と向きを写真に残した。
土木技師は構造を傷めず取り出す方法を考えた。誰が履いた靴なのか分からずとも、排水を塞いでいるなら取り除かなければならない。相良は現場を一時的に封じ、作業員が安全帯を掛けられる位置を確保した。
取り出した靴の底には、古い修理釘が一列に並んでいた。奈央は指で触れず、紙の上へ置いて寸法を測った。河川敷の古い写真に、同じ形の靴を履いた橋守が写っているという情報が入ったが、よくある型かもしれない。
靴が外されると、橋脚の奥から冷たい風が一度だけ吹いた。森崎の耳に残っていた水音が、そこでぴたりと止まった。本人は驚いてしばらく動けなかったが、相良はその変化を治癒と決めつけず、医務室へ連絡した。
靴は文化財担当の預かりとなった。靴底に挟まっていた砂の種類が分かれば、いつの地層から来たものか手掛かりになる。汚れを落として綺麗にするのはその後だ。
革靴を引き上げる際、作業員は泥の重さに驚いた。片方だけでも相当な重量があり、長く水を含んでいたことが分かる。奈央は怪異に関わる品だとしても、素手で持ち上げないよう頼んだ。濡れた革は破れやすく、持ち主を知るための縫い目を傷めてしまう。靴は布を敷いた浅い箱で運ばれた。
帰路、森崎は靴紐を結び直した。以前の木戸の調査で律が靴紐をほどかれた話を思い出したが、自分の靴はいつもの重さのままだった。




