遠回りの記録
踏切の古い地図を机に広げると、閉鎖時の住民説明会の議事録が見つかった。相良は資料を読んで眉を寄せた。そこには当時の町内会長が、車椅子で陸橋を越えられない人がいると訴えた記録が残っていた。
「代替路は、二百メートル先と書かれています」
森崎が指した赤い線は、図面ではなだらかだった。実際の陸橋へ行くと、傾斜がきつく、車椅子一台が通るにも介助が要る。二百メートルという数字は、利用する人の体力を説明していなかった。
相良は退魔師協会から区の道路課へ連絡することを避け、鉄道側の安全担当者に状況を伝えた。長い説明が必要になるが、架空の理由で工事を頼むわけにはいかない。駅員は同行を申し出た。
現場を再確認すると、古い道路の跡で鈴が鳴った。誰かが渡ろうとしているのではなく、向こう岸に誰かを待たせているような間隔だった。
森崎は歩行用の杖をつき、車椅子の車輪を想像して足を運んだ。線路へ届く前に、草の生えた段差へつまずきかけた。その時だけ鈴が強く鳴り、踏み出した足を止めることができた。
「危険を知らせていますね」
森崎が測った陸橋の勾配は、地図の数字より実感としてずっと急だった。休憩できる踊り場も少なく、手すりは途中で途切れている。相良は改善要望を押しつけるのではなく、歩く人の目線で問題点をまとめた。退魔術を使わずに変えられることもあった。
相良は「そうかもしれん」と答えた。廃止された道を守り続けることが、今の人間を守ることになるとは限らない。
二人は迂回路の現状を写真に撮った。帰り際に踏切の隅を振り返ると、車輪の跡は乾いた砂利に残っていた。草むらの奥では、一本の白い花が風に揺れていた。




