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黎幻光夢  作者: ルネッターナ
第1章「フラビトアの旅路」
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第6話「精霊検査」

※長編作品です

しばらくして、アッちゃんは微妙な顔で2人の前に立つ。


「この街に長期間滞在するという条件を飲むのなら、特別予約としてすぐにでも用意させよう……だってさ、どうする?」


セラは顎に手を当てると、1拍おいて答える。


「そうね―命を狙われる、またはこの街に留まれない事情が出来た場合、そのような時は例外として条件に加えないようにって伝えてくれる?」

「あたし怖いんだけど、交渉ってこんな感じなのね」

「お互いの着地点を見極めているだけよ」


そう言ってジョッキを傾ける。

それをジト目で見つめていたアッちゃんは大きくため息をつくと投げやりに言う。


「仲介役はもう嫌、真正面から話し合ったら?」

「そんなのどうなるか分かってるでしょ?」

「……あはは、確かにそうだったわ……はぁ」


諦めたようにトボトボと歩き、またその姿を消す。


「落とし所はどうなりますか?」

「私の言った通りになるわね」

「支部長が出した条件は長期間滞在。でもわたくしたちは元々そのつもりでしたよね」

「そこが大切なの、交渉において相手に手札を見せてはならないことは誰だって知ってる―今回で言うと支部長の言う条件は私達には意味をなさない……つまり何の条件も無しに精霊検査を受けられるってわけ」

「相手はその事を知らないから手札となり得るわけですね……なるほど、勉強になります」


隣で頷くエルナリアを横目に、セラはジョッキに酒を並々と注ぐ。


「エルちゃんも交渉術は覚えておいた方が楽よ〜まぁこれからってとこかしらね!」

「わたくしもお師匠様みたいになれるよう精進いたします」


そう宣言した数秒後、アッちゃんが疲れた表情で扉を開いたのが見えた。


「……2人とも、準備終わったよ〜……精霊適性検査専用部屋に向かって……はぁ」

「あらあら、とっても疲れてるようだわ」

「後で労いましょう」


……


「その精霊召喚陣は地下にあるようですね、一体何故なのでしょう?」

「ほとんどの冒険者支部は地上にあまり土地を持てないから代わりに地下をふか〜くしたのよ」

「意外ですね、冒険者支部は儲からないのですか?」


セラとエルナリアは長い螺旋状階段を降りた後、重厚な扉の前で足を止めた。


「儲かっているわ、ただ冒険者のみんなに最大限お金を払おうとして結果的にお金が無いのよ」

「それはなんとも冒険者思いですね」

「ふふっ、とっても嬉しいことだわ」


『認証致しました』


機械音のような女性の声が響く、するとひとりでに扉が開き始めた。


「―エルちゃん、中に入ったらやり方を説明するからしっかりと聞くのよ」

「はい」


1歩踏み出して中に入ると、物凄い悪寒が全身を駆け巡る、その直後―背後で扉が閉まった。


「……想像よりも殺風景な広い部屋ですね」


くまなく周りに視線を巡らせると、小さくつぶやく。

ゆらゆらと揺れる青いロウソク、全体は見えるがどこか物々しい雰囲気が漂っている。それに中央にある陣―あれこそが精霊召喚陣だろう。


「あそこの中央で祈詞(いのりことば)を唱える、10秒しても光らなかったら適性は無し、光り始めて精霊が現れると適性ありでその子と契約ができる―分かったかしら?」

「祈詞の内容は定められているのですか?」

「えぇ、もちろんよ。陣に入ると自然に頭の中に浮かぶよう魔法が設置してあるから安心してちょうだい」

「1つ質問し忘れていたのですか、そもそも精霊とは何でしょう?」


それは初歩的な質問だった。

セラは知っているものとばかり思っていたため説明を省いていたのだ。


「精霊―それは女神アストリアの溢れ出る魔力から生まれた神聖なる化身、今は眠りについているアストリア様の代わりに精霊王が精霊を作り出してるって言う話ね」

「神聖なる化身と契約してこき使うなんて恐れ多いと感じますね」

「ふふっ、勝手に人間が考えた話だからあまり深く考え込まない方がいいんじゃないかしら?」

「それもそうですね、嫌ならそもそも出てこない話ですから」


セラはニコリと笑うと、エルナリアの頭を撫でる。


「精霊は下から順に下級、中級、上級、精霊王っていう感じよ」

「分かりました、では行ってきます」


エルナリアは数歩前に進み、陣に入ろうとした―しかし、躊躇いを見せ何故か中々入ろうとしない。

セラは不思議そうに首を傾げると問いかけた。


「―どうかしたの?」

「……わたくしがこの部屋に入った瞬間、全身を悪寒が駆け巡りました……しかし、すぐに治まったために大して気にもしていませんでしたが……その、この陣に近づくにつれ誰かから見られているような感覚が拭えないのです」

「エルちゃん……もしかして、その誰かから見られている感覚って―」

「この陣からです―」


そう指差した直後、白い霧が突如として部屋を完全に覆い尽くし周りが全く見えなくなった。


「お師匠様!」


そう叫ぶが返事がない、エルナリアは焦りを感じながら無意識にペンダントに触れる。


「……っ、光ってる……」


ペンダントを見ると淡い光を放っており、それは数秒おきに消えては明るくなることを繰り返しているのだ。


(わたくしとお師匠様が話している間に誰かによって意識外から霧が放たれていたのですね、だからわたくしもお師匠様も全く気づけなかった……)


ペンダントを服の下に戻し、微かに音が聞こえる背後を振り返った。

その奇妙な音は精霊召喚陣から放たれており、ペンダントと呼応するかのように淡い光が点滅している。


(少なくとも神紫石の力が発動していないということは害は無いということ……そして霧の正体はこの陣なのでしょう―周りは白い景色だというのに、この陣だけははっきりと場所が分かるんですから……)


エルナリアは入るべきか迷う。


(未だに視線を感じます……どうしましょうか……やはり、この陣が元凶なので手早く終わらせた方がいいのでしょうか……)


足に力を込め、勇気を出して1歩陣の中に立ち入る。

また数歩進み、中央にしゃがみ込んで祈りの体勢を取ると頭の中に言葉が浮かんできたため、それを言葉にする。


「―我の祈りに応え、我の願いに耳を傾けよ。万物の子らよ、汝らに選ばれし栄光を、汝らと共に運命を探る瞬間を……約束と共に訪ね、夢を叶えん」


唱え終わった直後―点滅がなくなり青白い光が少しずつ陣を囲むように壁を作った。


―ドクンッ


「っ………うっ―」


突然、心臓が大きく飛び跳ねたかと思うと―まるで癇癪を起こしたかのように激しく痛みを炙り出した。

あまりの痛みに胸元を両手で強く抑えながら地面に頭をつける。


「ぁ……ぅ…………うぅ」


心臓を直接横に伸ばしている感覚に、目眩がした。声にならない小さなうめき声と共に、脂汗が体中の至る所から溢れ出る。


―『其方の器は成熟しきっていないようだな』


そう聞こえた美しい男性の声、それは幻聴かさえ判別がつかない。

エルナリアは強く唇を噛んでこの痛みから意識を逸らそうとする、しかしもはや意味をなさずにただ血を流すだけだ。


『……すまない、離そう』


一気に体が楽になり、エルナリアは失いつつあった意識を取り戻す。大きく息を吐くと強く考えた。


(このような痛み……もう2度と経験したくはないです……)


『興味がある、其方と1度会って話したいものだ―』


……これは幻聴ではなかったのか……

安心すると同時に、エルナリアは軽くため息をつくと目を閉じた。

『救済の運命が開花しますように』


改善点等ありましたら是非ご指摘ください

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