第24話「禍々しい魔力」
※長編作品です
「ここが祭のメイン広場のようですね!思ったよりも多くの店が営業していますし、人もいます……!」
「何でかしらね……まだ1ヶ月も先なのに」
2人は互いに顔を見合わせ、とりあえず近くの露店に足を運ぶ。
「どれが特産なのか、お師匠様には分かりますか?」
「色々変わってる……はぁ……歳を取るって嫌なものね」
「―虫を踏んだような顔して、どうしたの?もっとシャキッとしないと」
声をかけてきたのは露店の店主だ。姉御肌のような女性で心配そうにセラを見ている。
「歳をとったな、って実感してるのよ。時々思うのよね、そういう時あるでしょ?」
「そうねぇ、子供の成長を感じた時が特に。それで、娘ちゃんなんかムスッとしてるけど喧嘩中?」
「私が他の人と話してるから嫉妬してるのよね、もうかわいいんだから」
頭を撫でられ、エルナリアはさらに不機嫌そうに首を振る。
「お師匠様……分かってますよね」
「ふふっ、大丈夫よ―とりあえず、この街の特産品を教えて欲しいわ。えぇっと、いつでも身につけられてこの街の特産!って感じのをね」
「なら、これはどう?」
そう言って並んであるブローチを手に取る。
1輪の花が彫られており、エルナリアは目を吸い寄せられた。
「この国ではメイメイっていう花が国花でね。これを見たらすぐにエンクイックだ!ってなるわよ。それに……」
女性はニコリと笑ってエルナリアの隣までやって来ると、さも当然かのように胸元に手を伸ばした。
―バチッッ!
鋭い静電気が女性の指を攻撃する、しかし女性はニコリと笑うと何事もなかったかのように話を続けた。
「ふふっ、そのペンダントきれいねぇ。じっくりと見たいわ」
エルナリアは拒否をするように首を振る。
「ここの店主さんを返してください……それと、隠す気ありませんよね。こんなにもたくさんいるなんて」
「あら、何のこと?」
女性は気づかれないよう1歩後ずさる。
エルナリアは周囲を見渡した後、セラの裾を軽く引っ張った。
「……お師匠様、やはり変です。ずっと歌が流れています」
「聞こえるわ、禍々しい魔力が乗せられてる。少なくとも私達を見つめてる人々は操られてるでしょうね」
セラは目の前の女性を牽制し、ぴくっと眉を動かす。
(あのクソ男以来音沙汰なかった組織が動き出したんだろうけど、まさか街のど真ん中でやるなんて度胸があるのか、それとも捕まらない理由が?……どこかきな臭いわね)
「どうします?」
「これは……悩むわね。私達が手を出すと後々面倒になりかねない。最悪捕まるかも」
目の前の女性はにこやかに微笑んだまま微動だにしない。
「―あ、歌が止まりましたね」
『あー、今日はちょっと調子が悪いのかな』
拡声された声が辺りに響く。どうやら主犯は目の前の女性ではない、また別の女性のようだ。
「お師匠様、もしかしてやばいのでは?」
「大元を叩いたらいいんだろうけど、どこなのか把握できないのよね」
セラは杖を取り出すが数秒後にすぐ仕舞う。
「魔法が使えないようだし、街も占拠済み。あの歌、魔法阻害の術がかけられてるかも。エルちゃんはどう?」
「―リワール様」
1冊の魔法書が現れる。エルナリアは捲られていくページが止まったのを確認して呟いた。
「解除せよ」
途端に人々は呻き声をあげ、地面に膝をついたかと思うとそのまま倒れてしまう。
「どうやら使えるようです。しかし術者が歌を歌えば再度デバフがかかるようなので根本を断ち切る他ないようですね」
すると、勝手にページが捲られていくのが見えてエルナリアは密かに首を傾げる。
「あ、また歌が。今度はロックね、歌手ってすごいわ〜」
人々は人形のように立ち上がり、ふらふらと横に揺れながらエルナリアたちに襲いかかってきた。
「沈黙せよ」
魔力で織られた布が魔法書から飛び出すと、次々に人々に巻き付いていく。
「辿れ」
つづいて呟くと、光がエルナリアの頭上に集まり……まるで道標のように地面に落ちていき、それは遠くまで続いていく。
「詠唱、短いのね。普通ならみんな『ドミナティス・ブレイン!』とか言うのに。でもエルちゃんみたいなやり方が正直実践向け、だってあんな長い言葉、戦闘中に言ったら瞬殺よ」
「ふふっ、試してみたら出来たのでよかったです。それに短い方がかっこいいと少し考えてましたよ」
「言えてるわ」
2人は光の案内に従いながら進む。すると急に目の前が拓け、中央でマイク片手にノリノリで歌う女性を見つける。女性はこちらに気づくとピタッと歌うのを止めて笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。
「こんにちはー、わたしはグラナディス崩壊執行者の1人、『操歌者』を授かった……えっと、一般女性よ」
グラナディス崩壊執行者『不変音階十二奏』
操歌者―??
「……えっと」
操歌者―そう名乗った女性はどこか挙動不審に目を彷徨わせる。
「……どう?わたしの歌、楽しんでくれた?」
「ロックやラップ、さらには国歌とか。ラインナップがたくさんで驚いたわよ」
「えへへ、なんていったってわたしは………っと、危ない危ない。崩壊執行者たるもの、そう簡単に名前を言ったらダメダメ、マニュアルにもそうあったわ」
エルナリアはびっくりしたように目を見開いた。
「マニュアルなんてあるんですね」
「そうよ!もうびっしり!なんとかぜーんぶ覚えたのに、オリヴィアスを滅ぼしたからって刷新されちゃって。エルナリア王女誘拐マニュアルとか変なのが出来てね!まだ読んでないけどきっと面倒、はぁー」
「えーっと、今回は何故ここを襲ったのですか?」
操歌者はあっけらかんと言い放つ。
「普通に命令されたからよ。先導者には抗えないのー!」
「先導者というのは?」
「グラナディスの1番偉くて強い幹部のこと。上下関係がすごいのよ、弱いわたしは従うしかないってわけ」
「―その話は置いておいて。エルナリア王女がどこにいるか知ってるの?」
ふんっと鼻を鳴らす。
「知らないわよ、逆にこっちが聞きたいものね、どこにいるの?―ん?そういえばあなたたち怪しいわね、なんで普通に話せるの?」
「さぁ?わたくしたちもよくわかりません。綺麗な歌声が聞こえてきたので来たまでですよ」
「そ、そう?照れるわ。気分がいいから見逃してあげる、じゃあね」
消えると同時に世界が揺れた。次の瞬間、周りはいつもの光景に戻り、人々が行き交うようになる。
「どうやら幻を見せられていたようですね。まさか街一帯と同じ幻を作るなんてすごい魔力です」
「なんか腑に落ちないけど、まぁ気を取り直して楽しみましょ」
「それもそうですね」
特に何もない嵐だったと、2人は笑い合いながらついさっき来た道を戻るのであった。
……
―とある部屋にて。
「あれ?みんなどこにいったの?」
操歌者はガランとした室内を見て思わず呟く。
「おかえりー、各々行動してるから今この部屋には僕しかいないよ」
ソファからヒラヒラと手を振る夢幻者の声が聞こえ、操歌者は近づく。
「あなたは何もしなくてもいいの?」
「だって顔見られてるのにする必要ある?みんな張り切りすぎなんだよね、初めてエルナリアに会いに行くからっておめかししちゃってさ」
「初めてだからおめかしするんでしょ―あ、そうそう」
操歌者はソファに肘を置きながら話を続ける。
「結局エルナリア王女ってどこにいたの?あわよくば捕まえて帰れっていわれても姿知らないし……先導者って言葉足らずなとこあるわよね、そう思わない?」
「え、分かりやすかったけどなぁ。あんなに純粋な金色の魔力は見たことないや。それでいて濃密な圧―ん?もしかして操歌者、見てないの?魔力もそうだけど、マニュアルにでっかく載ってたのに。ほら」
夢幻者に手渡されたのは特定のページで開かれたマニュアルだった。
「んっえ?え?これ、あの時話しかけてきた女の子……あぁもう!あの子知ってて素知らぬ風装ってたのね!なんて策士なの!うぁ、でもよく考えたら一般人が操られないわけないもん!くやしいぃぃ!」
「バカじゃん、あんなにマニュアル見てたのに最新のやつは見てないとか、アホじゃん」
「バカアホいうなぁ!!」
『救済の運命が開花しますように』
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