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黎幻光夢  作者: ルネッターナ
第1章「フラビトアの旅路」
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悪善の君「善のみの世界へ」

―世界が、まだ安定をしていなかった時代。負の感情の溜まり場として生まれた君主ーツァイメートという者がいました。 

ツァイメートはその身に流れる穢れた感情を憎み、次第に世界に存在する者たちをも憎み始めました。


「生きている奴らが憎いーあいつらのせいで俺は苦しんでいる……」


ツァイメートにとって、唯一安らげるのは植物と共に寝ることでした。寝ている間は理想の夢を見ることができるからです。

しかし、夢に後少しで落ちようとした時―


「―あ!倒れてるのか?おい、大丈夫か!?」

「……人間か、私の邪魔をするな」

「おい!起きろ!死ぬな!死ぬなぁ!」


そこでツァイメートは気付きます、この男はただ者ではないと。


「なんだ、貴様……人間ではないのか?」

「よかったぁ、生きてたんだな……」

「答えろ」

「俺は人間でもあるし人間でもない、そう言うお前はどうなんだよ」

「俺は……ふん、貴様なんかに教えるか、帰れ」

「そこまで隠されると知りたくなるな……毎日ここにいるのか?」

「何か不都合か?お前も俺を追い出そうと?」

「違うって、お前と仲良くなりたいんだよ。毎日ここにいるなら会えるだろ?」

「……好きにしろ」


それから、男は毎日のようにツァイメートの元にやってくるようになりました。最初はうんざりして殺そうとしましたが、男は全て避けるのです。次第に、ツァイメートは絆されていることに気づきました。


(……悪意を溜め込まないこいつなら……世界を滅ぼすときに生かしておいてやろう、善者を殺したくなどないからな)


「ツァイメート!街に来いよ!仲間に紹介したいんだ、な、いいだろ?」

「断る。俺はこの世に存在する者が大嫌いだ」

「俺のこともか?」

「知らん」

「おいおい、俺のこと大好きかよ!」

「ふん」

「なぁ、最近知ったんだけどよ。この森って立ち入り禁止らしいな」

「今更か?」

「ツァイメートは大丈夫なのか?俺ん家住むか?」

「余計なお世話だ、何故俺がお前の家に住まわなければならないのか、ここで充分だ」


実は自分のせいなんだと、ツァイメートは言えませんでした。男が去ってしまうかもしれないと思ったからです。


―「なぁ、これ食べてみろよ!収穫したての赤りんごだ!」

「いらん、俺は何も食わなくとも生きてゆける」

「それじゃ、食い物の美味さも知らねえってことか!?なら、俺が最初に教えてやるってこと!なんだか嬉しいぜ!」


ツァイメートは、照れるように頬をかく男の手からリンゴを奪い取って食べました。


「……うまい」

「だろ!?次はもっと美味いの持ってくるぜ!」


ツァイメートは、男の去る後ろ姿をじっと見ていました。すると、近くの植物が突然、黒い沼に吸い込まれていきます。


「……そろそろ、か……」


ツァイメートは悲しそうに首を振りました。



―次の日


「……来ないな」


ツァイメートはつぶやきます。普段なら、もう隣にいるはずの男が今日に限って全く来ないのです。

迎えに行こうとツァイメートは歩き始めます。ここから動くなどツァイメートには初めてのことです。


そして麓に降りた時、ツァイメートは衝撃の光景を目にします。


「……ぅ」


道端でうずくまっている男がいました。そして遠くには駆け足で去る集団がいます。


「……何故、ぼろぼろなんだ」

「ははっ、あいつらはただ食べ物が欲しいだけなんだ。今日は何もなかったからな……怒っても仕方がない」


そう言って笑う男を見て、ツァイメートは一言言いました。


「行くぞ」


男を抱えると、来た道を戻ります。


「……なあ、ツァイメート。俺は何が正解か分からないんだ」

「慰めはしないぞ、自業自得だ」

「……ツァイメート、お前は俺の親友だよ」

「ふん」


それから、男が来ない日はツァイメートが迎えに行き、ぼろぼろの男を抱えて来た道を戻ることが普通になりました。

ツァイメートは何も言いません、男の青あざがひどくなっても、痩せ細って来ても―。


―負の感情を意識した時、ツァイメートは自らを抑えきれないのです。男のことを極力何も考えず、平常心を保とうとしました。しかし、ついに事件が起きます。


いつものように男を迎えに行ったツァイメートは、男がいないことに気づきます。


「……隠れているのか?」


進み続けていると、広場に出ます。そこには―吊るされた男がいました。


「おーおー、やっときたか!なんだっけ、ツー……ツーメイト!」

「俺達が、悪を倒す!森に住む悪の君主よ!そこになおれ!この男を使って街を滅ぼそうとした罪を償ってもらう!」

「ははっ!俺達にびびってやがる!所詮魔物って弱っちいんだな!」


前に立つのは―あの日男の善性を踏み躙り、逃走した集団でした。

どうやら、男はうっかりツァイメートととの出会いを語ってしまったようです。


「どけ、失せろ」

「攻撃してこないのか?できないのか!やっちまえー!」


棒で叩いてくるが、ツァイメートは気にせず男の元に向います。血まみれですがまだ息はあるようです―その時。


「―っ、おら!どうだ!死ね!」


集団の1人が手に持った剣で、ツァイメートを刺したのです。


「―ぐっ……っぁ」


ツァイメートに刺された剣は、男の腹をも貫いていました。男は大量の血を吐き、ツァイメートは即座に剣を叩き折ります。


「―おい、起きろ」

「あぁ……ツァイメート……逃げろ……っ……はぁ、もうすぐ軍が……」

「話すな」


ツァイメートは自分の感情を意識しないように努めました。


「なぁ……ツァイメート、俺の何がダメだったんだ……?」


男はぽろぽろと大量の涙を流します。


「じいちゃんに教わった通りに……生きていたら……死ぬなんてな、俺の人生は……何だってんだ」

「―話すなと言っている!」


辺りが吹き飛び、ツァイメートと男を中心にして少しずつ黒い沼が広がり始めます……もはや今のツァイメートにはこの負の感情を意識外に飛ばすことができません。ふつふつと溜まっていた負の感情が―少しずつ解放されていきます。


「じいちゃんが言ってた……悪の君主……ツァイメート……お前のこと、だったんだな」

「怖いか?」

「冗談きついって……お前は……ずっと……おれのしんゆう……だろ……」

「……そうだ」

「……あのな、ツァイメート……おれ、魔族とのハーフなんだ……」

「話すな」

「あぁツァイメート、たのしかったぜ……」


男はツァイメートの手を握り、不器用に笑みを見せます。


「ははっ……秘密なんて……隠す意味ないよな……」


男はパタリと言葉を閉じました。ツァイメートは溢れ出る悪意を抑えることができません。


「あそこだー!ツァイメートを殺せー!」


軍がやって来ました。


「……お前は……俺の親友だ。これからも……俺が死ぬまで……」


―すると一気に悪意が解放され、街一帯を黒い沼が覆います。


「―俺が、全てを壊そう」


一瞬、辺りを静けさが包みます。そして数秒後……悲鳴が街を覆い、ドロドロとした沼が人々を溶かします。


「誰か!助けてくれー!」

「いやー!」

「あ、あぁ……溶けていく」


「この街は悪意の塊だ、善人などいない……」


ツァイメートは指を鳴らします―すると覆っていた沼は街と共に極限に小さくなり、プツッという音で跡形もなく消え去りました。


「やはり……ダメだ、悪意を抑えることなど……!」


次は、ツァイメートの天上に少しずつ円に広がり始める黒い沼があります。


「くっ!うぅ……」


胸元を抑え、悶え苦しみます。ツァイメートが扱いきれない悪意が今度は世界を飲み込もうとしているのです。

意識があるうちに、意識外へ―


―『ツァイメート、お前の負の感情、俺が持っていってやるよ』


瞬時に痛みが消えます。


「お、お前……なぜ……」

『親友だからな!最後にできる善行だ!じゃあな、ツァイメート―!』


天上で広がっていた沼は消え、ツァイメートはそこで、溜まっていた負の感情がなくなっていることに気づきました。


ツァイメートはしばらく放心した後、男の墓を作ります。


「俺の悪意を持って行ったあいつは……魂が耐えきれず、消滅してしまうだろう……名を、聞けばよかった」


そして、ツァイメートは憎しみのこもった目で自らの手を見つめます。


「必ず……必ず、世界から悪を消し去ろう。あいつのような善が踏み躙られる前に……悪は生きてはならないのだ……」


その日からツァイメートは、世界を放浪し―悪の心を持つ悪い者を殺し始めました。

―もしかすると、次は……貴方の番かもしれません

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