第22話「道標」
※長編作品です
『涙に暮れ、何を想う?水に浸せばすべて平等だというのに』
「……っ」
―エルナリアは少しずつ目を開く。
(あれ……わたくしは―)
視界いっぱいに広がるのは澄み渡る青空。自らが仰向けになっていることを自覚し、上半身を起こす。
「聖樹……?」
視線の先には聖樹がある。枝を揺らすとゆっくり葉を落とし、エルナリアに触れ消えていく。不思議に思い視線を落とした。
(―水?何故わたくしはここに?)
『仲間がソナタを呼んでいる。しかし、待ってもらわなくてはならない、まだ終わっていないのだから』
どこからか聞こえてくる声に、エルナリアは聖樹に目を向けた。
「もしかして、聖樹……様が話しておられるのですか?」
『左様。しかし長くは持たない、ソナタは器ではないゆえに』
「わたくしに……用があるのでしょうか?」
その場で立ち上がると、聖樹を見据える。
「―エルちゃん!エルちゃん!返事をしてちょうだい!」
セラの声が聞こえる。咄嗟に振り返るとこちらを見つめる多数の瞳があった。
「―っ」
「何故あの少女は中に!?」
「教皇聖下はどこにいらっしゃる!緊急事態だ、即刻少女を引き摺り出せ!」
「枢機卿に報告を!」
「でも聖樹は拒否してないんじゃ」
「水かさ増してない?」
神官達は興奮しているようで、ドタバタと動き回る。エルナリアは聖樹に向かって叫んだ。
「聖樹様!」
―『ふむ、面倒この上ない』
景色が揺れると、エルナリアの目の前が金色の葉で覆われる。
そしてすぐに光に包まれて姿を消した。
……
「ふぅ……助かりました」
エルナリアは聖樹のふさふさとした葉っぱの上に落ちる。ここから葉の隙間を見ると、神官達が見えた。
『赤髪の人の子がうまく事を収めたようだ』
「お師匠様のことです―やはり、人の目に晒されるのは慣れているとしてもあまり心地よいものではありませんね」
『さて、あまり猶予もない。端的に言うがソナタをここに呼んだのは来るべき時に備えるためだ。そのためにソナタを時限的な授かり人として任命する』
「わたくしも預言を受け取れると?」
『ソナタは授かり人であり授かり人ではない。ゆえに受け取ることはできない、来るべき時にいずれ分かる』
風が強く吹く。
「来るべき時―それはいつでしょうか」
『直接的な言葉を人間に与える行為は我等の法に触れる。女神はそれを回避するために預言という形でソナタたちに道標を与えるのだ―さぁ行くがいい。我は力を使いすぎた、しばし眠りにつこう』
途端に金色の葉に包まれて、エルナリアは無意識に目を閉じる。
『……世界が滅びを抱えたままでは、法など無意味だ。そうだろう、因果律よ』
そして、金色の葉は水面に落ちゆく。
……
(夢……?それにしてはあまりにも現実味がありすぎました……)
手で何かを握っているようだ。そっと開くと金色の葉が1枚、まるで枯れる事を知らない様子で佇んでいる。
「本当……なのですね」
体を起き上がらせたタイミングで勢いよくドアが開いた。
「エルちゃん!―あぁよかった!」
セラは安堵したように息を吐く。
「―もう、エルちゃんったら……あの騒ぎを収めるの、大変だったからね!」
セラはエルナリアに近づくと両頬を包み込んで動かす。
「あう……いあいえす」
手を離すと、セラは心配そうに顔を覗き込む。
「神官達はエルちゃんがいなくなった後も騒いでいたの」
…
―「どうゆうことだ!いなくなった?!」
「教皇聖下がまもなく到着なさるぞ!」
セラは周りに聞こえるように大声で言う。
「あーよかった!夢だったのね!でも、それもそうよね、聖樹の領域に教皇様以外は入れないもの!」
すると少し雰囲気が変わる。
「でも確かにそうよね、入れるはずないもの」
「葉が舞いすぎて幻覚を見ただけなのか?」
途端にざわつきはなくなり、静かになる。教皇が多数の大神官を連れてやってきたのだ。
「私が聖樹に確認しますので皆様はお待ちください」
教皇は厳粛な面持ちで聖樹の領域に入る。
しばらく佇んでいたかと思うと、踵をかえして戻ってきた。
「―聖樹によると、私以外に入った者はいないと。集団幻覚を何者かによって見せられ分断を煽られた可能性があるため結界強度を最上位に引き上げます―皆様にはもう1度言いますが私以外に領域に入ることが出来る者はいません、それは神殿が永い時を経ても変わることはないと断言できます。誤った情報に惑わされず、真偽を見定める心を持つように心がけてください」
そう言い終わると歩き始める。
「教皇聖下がそう仰るならそうだよね」
「我らは分断されないぞ!」
「見たって言ってもたまたま風で舞ってた葉っぱがそれっぽく見えただけよね、騒いでいた人誰よ」
「ただの勘違いでしたね、安心しました」
口々に神官達は呟くと自らの持ち場に向かう。その時、教皇がセラの隣を通り過ぎる際―
「少女を連れて神に祈りを捧げなさい」
セラは胸元に手を当て、軽く頭を下げた。
「―女神に祈りを」
…
「ということで、私と一緒に神立書館に行きましょう?教皇に問いただされるから何があったのかまとめておくのよ」
「怒られそうですね……」
「私は別に聞く必要はないと思うけど、でも教皇はたくさん聞きたいことがあるんでしょうね。怒られることはないと思うわよ、少し笑ってたから、興味あるんでしょうね」
エルナリアは複雑な面持ちで目の前の顔を見つめる。
「これが終わったら……何か買いに行きませんか?」
「もちろんよ。少しずつ出店が並び始めてるからたくさん買いましょうね!」
『救済の運命が開花しますように』
ー
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