第21話「聖樹」
※長編作品です
「お嬢様方は特別なお客人です。神官一同歓迎しております」
「私達は別に何も……」
セラが頬をかきながらいうと、神官はどこか憂いを帯びた瞳で前を見つめる。
「教皇聖下は滅多に心を開きません、そのため聖下がお招きした客人というのは数えるほどしかいないのです」
「立場上信用するのは難しいですからね……」
「あの性格も相まって……ね」
すると、神官はくるりと振り返る。
「え、ん?」
セラは困惑してあわあわと手を振る。なんと、神官は涙を流していたのだ。
「聖下にそのような軽口を叩けるお友達がいらっしゃったとは………感無量です」
「泣くほどなのですか?」
「―私は聖下がいらっしゃる前から神殿に仕えています。争いに巻き込まれ、大人の醜い欲望に晒される姿を幾度もみました……その度に―あぁいえ。悲しいお話をしたいわけではないのです。あの方が友人に向けて素直に笑える今がとてつもなく嬉しい、それだけなのです」
まるで子を見守る親のようにそっと微笑む神官を見て、エルナリアは心が暖かくなるのを感じた。
(こんな身近に見守ってくれる存在がいるなんて、わたくしも嬉しくなりますね)
―思えば、神立書館にて1人佇んでいた教皇は何を考えていたのだろう。
ふとその時の光景を思い出す。こちらを振り返り、伏せ目ながら見つめた物憂げな瞳は何を映したのか?
過去の記憶や孤独、書物……未来や預言……人々に神殿や信仰、女神。それらを一心に背負う彼は―
「―わっ」
左側から突如として風が吹き、思考の波から抜け出す。
ちらりと視線を向けると、大きく息を呑んだ。
「―き、きれい……」
思わずそう呟く。あまりにも幻想的で美しい、金色に輝く世界に迷い込んだかのようで密かに瞳が揺れた。
「女神の神木―聖樹と言います」
風が吹く度に金色の神木から葉が落ち、地面に触れると溶けるように消えていく。
「中に入ることはできないのね」
「神木ですから。教皇様以外の部外者は出入りすることを許されていません」
「それもそうですよね」
―あぁ、とても美しい。
「客人方、どうぞこちらへ」
神官が頭を下げ、手で示したのは部屋だった。
「ゆっくりとおくつろぎを。聖下の用事が終わり次第、また連絡致します」
……
「お師匠様、見てください。ここの窓、何故か反対側にあるはずの聖樹が見えますよ」
「本当ね。寝ながら見ることができるのは中々ロマンチックじゃないの」
セラは備え付けのベッドに寝転がると、大きく欠伸をする。
「わたくしだけだからといって、そのようなはしたない姿を曝け出すなんて……」
「エルちゃんだからいいのよ、もう見飽きてるでしょ?」
エルナリアは少し考えると、また聖樹の様子を眺める。
(不思議ですね……このスピードだとすべて落ちていても不思議ではないのに……落ちた葉っぱは元の場所に戻っているのでしょうか?)
頬杖をついたところで気づく。
(水―水が張ってますね……足首まででしょうか、やはり女神に関する全ては理解の範疇を超えています)
ペンダントを外し、机の上に置くと神紫石をツンツンとつついた。部屋の光を反射して美しく輝いている。
(これも、いまだによくわかりません。全ての攻撃から守ってくれると思っていたらそうではありませんでしたし。やはり帝国でしか分からないのでしょうか)
「グラナディス……だっけ、エルちゃんを狙う組織」
「……?はい、そうですよ」
セラは天井を見上げながら言う。
「あのクソ野郎と戦ってて分かったんだけど、私よりも強い、本当に手加減してて私と同じくらい。これでもね、街1番を争うほどの実力者なんだからあそこまでやられると鼻へし折られるのよ」
(拮抗してはなかったんですね)
「崩壊執行者は侮れないということですか」
「だからね、魔法師の私でもわからなかった。あいつは言ってたわよね、特別な魔法をもらえるって」
「グラナディスに認められるともらえるって言ってましたね?」
「あんなの一撃必殺よ、くらったら終わり。魔法をもらえるって意味がわからないわ、女神クラスじゃないと……」
不自然に言葉を止める。
「どうかしましたか?」
「ううん、別に……ね、グラナディスの目的って何?」
「目的ですか?……聞いたような、聞いていないような?」
「わかれば、エルちゃんとそれを狙う理由も分かるかもしれないわ」
「わたくしのことを鍵に守られしエルナリア……と、夢幻者は言っていました」
「鍵……ペンダントを指すのかしら、もう普通にお金を狙ってるとか?」
「それにしては行動が大きすぎるというか、王国を焼き払うほどのことでしょうか?」
「焼き払えるなら他国にも同じようにするだろうし……あぁ、難しいわ!1人とっ捕まえて吐かせたいわね!」
「あれぐらいの力を持つなら一斉に襲った方が、素早くわたくしとこれを連れ拐えるのではありませんか?」
セラはごろんと寝る向きを変える。
「仲が悪かったりしてね」
目を瞑ったのを見届けて、エルナリアは前を向く。
(拐おうとして拐わない……何か意図があるのか、はたまた出来ない理由があるのか―どちらにせよ、拐われないに越したことはありませんが)
ため息をつくと、机に突っ伏してペンダントを見つめる。
「わたくしも……なんだか眠くなってきましたね」
どこからか吹いてくる風に身を任せるかのように、そっと目を瞑った。
『救済の運命が開花しますように』
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