第20話「教皇聖下」
※長編作品です
「その馬鹿げた笑いを今すぐやめろ、不愉快だ」
「あら、口調変わってるわよ?威厳をどこかに落としたみたいね?」
そういうとまた笑い始める。教皇は舌打ちすると、足を組み替えた。
「私に聞きたいことがあるのだろう?」
セラでは話にならないとばかりにエルナリアへと視線を向ける。
「わたくしたちをなぜ乗せたのですか?あれでは教皇様は後々面倒になると思うのですが」
「あぁ、確かに面倒だな。顔を知られてしまったために外を歩きづらい。だがそれは大した問題ではない、お前たちを連れ出すためには致し方ないことだ」
「はぁ―はぁ、全くお腹痛いわ」
「セラ、お前は本当に変わらないな」
セラは目元を拭いながら言う。
「それって歳のこと?それとも性格?」
「どちらもだ」
「はぁー―それで、私達は預言のこと……聞きたいのよね」
「今まで女神生誕祝意祭に参加していなかったのはなぜでしょう?」
教皇は外に目を向ける。
「預言―女神から、とある者に対しての言葉を受け取った。曖昧な表現だからか私の解釈が女神の意思とは限らない。だが近いとは感じている。そして私が動く理由はまさに、預言のためだということ―理解できたか?」
「私達を乗せたのは教皇が解釈した預言に私達がいたかもしれない。今まで参加しなかったのは預言がなかったから―理解できたか?」
最後に教皇の真似をして、セラはまたもや爆笑する。
「なんだか今日のお師匠様……変です」
「いつも通りだろう」
エルナリアは教皇を一瞬見た後口籠る。
「なんだ?」
「その……先ほどとは全く印象が違いますね。人々の前では好青年だったのに今は素っ気ない青年に見えます……」
「素っ気なくて悪かったな」
「あぁいえ、そう言うことではなく……」
「わかっている。ただあれは私の本意ではない。教皇という存在は礼儀正しい好青年の方が都合が良い、それだけだ」
「確かに、信頼できそうなほど優しそうでした」
「―時が経っても未だ難儀なものだ」
教皇はそっと目を瞑った。
『主……』
「あ、ラーフィネ。起きましたか?でももう少し目的地は先なのでまだ寝ていても大丈夫ですよ」
頭の上で眠りから覚めたラーフィネに声をかける。すると、教皇は口を開いた。
「―その珍妙な白猫は精霊か?」
「はい、どうかしましたか?」
『なの……白髪から女神の匂い』
「ラーフィネ、この方は始原の女神様を信仰する神殿の教皇様です」
『母上に選ばれたの?興味深いの』
そこでエルナリアはふと首を傾げた。
「教皇様は始原の女神様を信仰していて、預言はその女神様から下っているのですよね?」
「あぁ、そうだが?」
「始原の女神アストリア様のことは女神、ならば三女神のことはなんと言うのでしょう?」
「三女神―伝承では『守世の後世三女神』と呼ばれている。だからか神殿では『守世の三女神』、一般の民では『三女神』と呼ばれることが多い」
「なるほど」
「それに、フラビトアのほぼ全ての民は始原の女神を信仰している。もちろん、三女神を信仰する神殿もあるがこの大陸以外の話だ」
『ふわぁ……つまらない話ばかりなの―主、今から向かう場所は安全なの、それに白髪がいれば心配ないの、戻るの』
もう1度大きく伸びをしてジャンプをすると、いつの間にか開いていた穴に落ちて消えてしまった。
その時、窓に張り付いていたセラがエルナリアの袖を引っ張る。
「―どうやらついたみたいね!……でも、教皇がいるからか、まるで私……超偉い人みたいだわ」
エルナリアも外を見てみると、人の多さに驚く。
「これ、もしかして神殿の神官が全員集まってるのですか……?」
「私には慣れたものだがな」
「大人ぶっちゃって。ところで、私の姿は隠さなくていいの?」
「必要ない」
「だって、バレたら面倒じゃない?ここはもう不可侵領域だし……魔法、使ってもいいわよね?」
「必要ないと言っている。お前の正体を知る者はもう私ぐらいだ」
「ふーん、ならいいけど」
馬車のドアが開き、教皇は慣れた様子で先に降りる。
「お師匠様、今の「2人とも、後は神官が付きますのでその間ごゆるりと」
(あ……これは……またまた聞くタイミングを見失いましたね)
この手の話題は不特定多数の人々がいる中で聞くのはダメだと……エルナリアは知っている。
(しかし、この話題を数十分後に聞くとなると……忘れている可能性が大きいですね……)
セラに続いて降りると、周りを見る。
神官は揃って教皇がいる方角に頭を下げている。教皇は神殿に向けて一礼すると神官2人を連れ添ってゆっくりと進んでいく。
「お師匠様……どうやらこれは信徒の方々にとっては突発的なイベントみたいですね」
少し距離を離したところで歩く2人は、そう耳打ちし合う。
距離が離れたところで歓声が沸いているのだ。
「運がいい人たちよね。教皇が神殿の外に出る時間は極秘事項だから知ることはできないし、ましてや帰りに出会うことも。きっとみんな自慢するわよね」
「わたくしも目撃したら自慢しまくりますよ。そう考えると、わたくしたちは運がいいのですね……!」
興奮した様子でエルナリアがつぶやくと、セラは笑う。
「そうね、本当に」
―「お嬢様方は教皇聖下のお客人ですか?」
「……?」
声をかけられ、2人は立ち止まる。
「エルディオラ本神殿へようこそ。教皇聖下はただ今より手を離せない状態……ですので、しばらくは案内人は私が務めさせていただきます」
「初めまして、神官様。お忙しい中案内を担当してくださりありがとうございます」
「えぇ、では。まずは馬車で揺られて大変だったでしょう、用意した部屋に案内しますのでしばらくはおやすみください」
「お気遣い感謝します」
2人は神官の後ろをついていき、道を横に逸れる。どうやら目の前の扉は関係者専用らしい。そして様々な人々が出入りする扉に近づいていく。
(神殿関係者専用の扉と……礼拝者、観光客専用の扉で分けているのですね?ここからあちらの扉が見えるのは教皇様が見えるようにという配慮から?)
神官に案内されているエルナリアとセラを不思議そうに見てくる人々もいて、何だか居た堪れない気持ちになり思わず肩をすくめてしまう。
「少し恥ずかしいです……」
「そうねぇ、分かるわよ」
そう言うセラはまるで気にした様子もなく、「ここの装飾がいいわね」「像も綺麗に掃除されてる」などと感想を並べている。こちらの空気など、どこ吹く風だ。
そんなセラを羨ましそうに見つめた後、軽くため息をつく。
「お師匠様が羨ましいですよ……うぅ」
『救済の運命が開花しますように』
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