第18話「死を散らす」
※長編作品です
「支部長様に聞きたいことがあるのですが……何故招待をされたのでしょうか?舞踏会でもあるのですか?」
「正式に言うと『女神生誕祝意祭』ですね。貴方達は街を救った英雄なので特別に招待されています」
支部長は机の上にある封筒を2枚手に取ると、それぞれに手渡した。じっくりみてみると、どうやら王家の紋章が押されているようだ。
「年に1度、女神の生誕が祝われる祭なのですが、神殿と国家共同で行われるので大変賑わうのですよ。都市では今頃、祭りの準備で大忙しでしょうね」
「ふふん!それなら早く行かないと!軽く都市を周って楽しまないといけないわ!」
セラは嬉しそうに鼻を鳴らす。
支部長はクイッとメガネをあげると言い聞かせるようにつぶやいた。
「1ヶ月後に女神生誕祝意祭があります。そのため1週間前から王城にて宿泊をするので忘れないようお願いします」
「では、いつ都市へ行っても構わないのですか?」
「えぇ、ですが宿泊用意を忘れないように。もし忘れてしまえば参加は出来ませんからね」
エルナリアは不思議そうに首を傾げた。
「それほど大層な行事なのですね……1週間前から泊まり込みとは随分と厳しい警備のようです」
「それはもう、例年通りとてつもなく厳しいですね。ですがそれほど大切な要人や王族方が来ますので当たり前ですが」
「今回は教皇も来るのよね、初めてって聞いたわよ」
「……アリアセレイナに聞いたのですね」
「えぇ、なんで今回は来ようって思ったのかしら?節目?」
「神殿の声明によると預言が下ったようですね」
「神託のこと?なんだか不穏ね。教皇が動くってことはそれほど大切なことみたい、ちなみにどんな預言が?」
「それは明かされてはいません」
会話を聞き流しながらエルナリアは思考を巡らせる。
(当然のように名前を言いましたが、一体誰でしょう?アリアセレイナ……アリア……セレイナ?)
「―それならエルちゃんも話したことあるでしょ?」
「え、はい……」
すると、支部長は大きくため息をつく。
「貴方達ときたら……はぁ、どこで出会ったかは知りませんが、無礼を働かないようにお願いします。―神殿の最高権力者である教皇様はとてつもなくお忙しいというのに一体何をしたら出会うのですか?」
「ちょっとね、縁があったら会えるわよ」
「教皇様のことですか?優しいお方でしたね」
しみじみとつぶやく。教皇とはたった数分の出会いだったが鮮明にその表情を思い出すことができた。
「……っ、はぁ……縁を作れるのであれば苦労はしません。王族方と同等の権力をお持ちになられ、女神様からのお言葉を受け取る……顔を見るのさえ一生に1度見れるか見れないかというのに……ちっ、羨ましいものです」
すると、セラは驚いたように支部長を見た。
「えっ?支部長って案外信心深いのね」
「知らないのですか?『教皇と出会えば死を散らす』これは教皇様と出会うことさえできれば死をも乗り越える運を手に入れるだろう、という意味です。私は死にたくありませんからね、あやかれるのであればあやかりたいのです」
セラは意外そうに笑う。
「初めて聞いたわね、でもその理屈で言うと私は一生生きることが出来そうだわ」
「わたくしは1度だけですので……1回だけなら死を散らせそうです―あ、でも……」
エルナリアは思い出したように懐から宝石を取り出す。
「エルちゃん、それは?」
「教皇様から頂いたものです。魔力を流し込めば1度だけ助けてくださると。今ここで使ったら会えますよ」
「軽々しくそのようなことを言うなんて……しかし魅力的な提案ではありますね。使ったら即殺されそうですが……はぁ」
ため息ばかりだ。エルナリアは不憫そうに支部長を見つめる。
「ふふっ、もうエルちゃんったら。冗談もほどほどにしないと支部長が死んじゃうわ」
「支部長様、冗談ですよ。面白かったですか?」
支部長は元気がなさそうに首を振る。
「こうも教皇様と気軽に会えているとなると、神聖さが失われてしまいそうです……はぁ」
「ため息ばかりですね……大丈夫ですか?」
「心配ありがとうございます―それで、話を変えますが貴方達はいつ都市部へ向かうつもりで?」
エルナリアとセラは互いに顔を合わせると、同じように首を傾げた。
「どうします?お師匠様」
「そうねぇ……早く行く?」
「お祭りがありますからね。頑張った分、たくさん楽しみましょう!」
「それもそうね!なら今からいきましょうか!」
セラはどこかワクワクしているようで目が輝いている。
「支部長様も一緒に行きます?」
「ダメダメ、仕事一筋だからギリギリまで来ないわよ」
そう聞いて、エルナリアは支部長の部屋を見まわした。
(確かに、一切私物が見当たりませんね。もしかして、これがいわゆる仕事人間でしょうか)
「ではお土産を買いますね」
「ありがとございます―そうだ、都市へ行くことはどうか内密にお願いしますよ。知られてしまってはとんでもない量のお土産を頼まれますからね」
「わかりました」
「よし、エルちゃん!都市までは結構遠いから馬車で行きましょうか―ちなみに、これは経費で落とせるわよね?」
「えぇ、もちろんです。領収書を忘れないようにしてください」
「真夜中だから少しお高めだけど、仕方ないわよね。さ、行きましょう」
「あ、渡し忘れていましたが―これを」
そう言ってエルナリアとセラに手渡したのは1枚の小切手だった。
支部長はその紙を凝視する2人の顔を見やると優しく微笑む。
「街を救った英雄へ、冒険者支部と国からの謝礼金です」
……
2人は支部長が呼んだ馬車に乗り込むと、窓から手を振る。
「支部長様、お先に失礼しますね」
「じゃあ、また都市で会いましょう」
「はい。道中気をつけるように」
カーテンを閉め、外からの視界を遮断する。
「―お師匠様、都市部までは何日ほどかかるのですか?」
「たぶん数日はかかるわね。途中で宿に泊まるから揺られている間はゆっくりしてましょ」
―セラが言い終わるとすぐに馬車は動き始めた。
エルナリアは思い出したように質問する。
「そういえば、アリアセレイナとは一体誰のことでしょう?」
「ふふっ、それであの時首を傾げてたのね。アリアセレイナちゃん、アッちゃんのことよ。本人は名前が長いからってアッちゃんを好んでるのよね」
「なるほど。アッちゃん様の本名はアリアセレイナというんですね。突然その名を呼んだら驚くでしょうか?」
悪戯心が芽生えてきたようだ。
「それはそうね、その名で呼ぶのってもう支部長ぐらいだから。たぶんびっくりするでしょうね」
「アリアセレイナ……アリアセレイナ様」
「―ほらほら、エルちゃん。いい子はもう寝ないと」
エルナリアは頷くと、寄っかかりながら目を瞑る。
(―女神生誕祝意祭……グラナディスが余計なことをしなければ良いのですが)
―ほどなくしてセラの耳元に寝息が届いた。視線を上げると規則正しく肩を上下させるエルナリアがいたのだ。セラは嬉しそうに首を傾げると月光に照らされながら移り行く外の景色を、目を細めながら見つめた。
(…この道のり、もしエルちゃんが辛そうにしてたら転移してしまいましょうか。あぁ、もう私ったら……ふふっ―きっと思うまでもなく分かってたのね。親のように過保護な存在になりたいって)
そしてもう1度エルナリアに視線を向けると、愛おしそうに微笑んだのであった。
『救済の運命が開花しますように』
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