第14話「原初の七精霊」
※長編作品です
「ん……くぅ〜!」
夢幻者は空中で大きく伸びをすると退屈そうに地上を見下ろした。
魔物達は既に撤退し始めており、夢幻者の真下に展開されている黒い穴に吸い込まれていく。
(ほんと、魔物ってとろい……)
まだまだ時間がかかりそうな様子に、夢幻者は鼻を鳴らす。
(出すのは簡単なんだけどね、まぁ撤退させるのもすぐに終わらせることは出来るんだけど時間が欲しいから……ほら、休む時間っていう大事なね)
近くで浮かぶ大きな枕に抱きつくと、寝転がるようにして目を瞑った。
(はぁ、僕ってば優秀だね。エルナリアの回収は済んだから後は連れ帰るだけなんだけど物足りないなぁ、"預言者"が言うにはまだ序章のはずだからこの後何かあるんだろうけど……つまらないから……精霊王とか、出てきてくれないかなー)
―曰く軽く指を鳴らすだけで世界を容易く壊す……そう言われる精霊王と戦ったら……どうなってしまうか。
少し楽しみになり思わずくすくすと笑う。
「ん?―今から寝ようとしてたのに……」
そう言うと体を起き上がらせこめかみに人差し指を当てる。
『何かあった?不測の事態?それとも雑談かな?』
『冗談はやめてください、そろそろ連絡の時間だと思いましたので―確保はなされましたか?』
視線を横にずらして泡に閉じ込められているエルナリアを見やる。
『うん、確保はしたよ。驚くほど簡単にね』
『では時間を繰り上げましょう。夢幻者様はそのまま帰還を』
『なら君はそのままそこで情報収集をよろしくね』
『承知しました』
『―え、雑談やらないの?』
『やると思いで?』
「……―ぅ」
エルナリアは意識が覚醒した―薄く目を開くと口元を小さく動かす。
「……ラー……フィネ」
「―ん?」
なにかに勘づいた夢幻者は視線を動かす。
『どうかなされましたか?』
「―んーエルナリアが動いたように見えて、でも実際こんな風に終わるはずはなかったよねって思った」
『というと?』
「何を企んでるかは知らないけど、まだ序章だってこと。先導者が言ってたんだ―ペンダントに注意しろって―」
そう言うと夢幻者は地上に降りて、目の前に泡に閉じ込めたエルナリアを移動させる。
『―先導者様がそう仰るなら十二分に注意した方がよろしいかと』
「何せ飽越者の1撃を簡単に躱したらしいからさ、僕だってあれを食らったら死にそうになるのに、ね!」
夢幻者が瞬時に後ろに飛ぶと、次の瞬間―ついさっきまでいた場所に大きく穴が空いていた。
着地をすると、穴の上で浮く白い猫に目を向ける。
「初めましてだね?精霊王―ではないか」
白猫はエルナリアが閉じ込められている泡に近づくと、右足で軽く触れた。
その泡は一瞬のうちに壊れ、エルナリアはゆっくりと地面に足をつける。
「―ラーフィネ、お願いします」
『夢幻者様、解析致しましょうか』
「必要ないよ、僕の力で試したいんだ」
夢幻者は左隣に視線を向け、そこでは未だ黒い穴に魔物が繰り返し吸い込まれ、終わることは無い。夢幻者は軽く笑うと手を横に差し出した。
「―邪魔かな」
風圧が魔物の軍勢の動きを止める。すると一瞬にして魔物達の足元に黒い穴が現れたかと思うとそれに吸い込まれてあれほどの行軍の魔物達が姿を消した。
黒い穴も役目を終えたため透明になって消える。
「これでよかったよね、僕たちの間に邪魔はいらない」
「……」
エルナリアは軽く埃を払う。右肩近くが淡く輝くと―ラーフィネが瞬間移動して現れた。
「その白猫は不可思議だね、君の精霊かな」
「―ラーフィネ」
ラーフィネは地面にゆっくりと降り立つと、夢幻者をじっと見つめる。
「―待ちきれないみたいだね。君たちにどんな意図があるにしろ、乗るよ。さぁ、始めようか」
夢幻者が笑った瞬間―ラーフィネの目の前で巨大な爆発が起こる。
しかしラーフィネもエルナリアもぴくりとも動かずにやり過ごした。
「中々に肝が据わってるね、まぁでもそうでないとやる気が起きないけど」
エルナリアは顎に手を当てた。
視線の先では夢幻者とラーフィネが睨み合っており互いに見極めているよう。
(―上手く行けばいいのですが)
……
「支部長、やっぱり応援に行った方がよくないですか?」
「私もそう考えています。しかし偵察に向かった1人によると自分では戻ってきてしまうと」
「ということは、セラとエルちゃんだけが通れたってこと?魔物達は撤退しちゃったし私たちは見守るしかないって……?」
―支部長室にて、ミーちゃんと支部長は深刻そうに話し合いを重ねていた。
「指導者の目的が定かではないので動くことはできません。私たちが助けに向かって街を狙われては元も子もない、それに……エルナリア嬢が任せてと言ったので……はぁ、信じてみようと頑張っています」
2人は同時に天を仰ぐ。
「くぅぅ……!確かに支部長が助けに行ったら危なくなるよね……でも傍観するだけなのもやだし……」
「貴方達にはしばらく街の防衛に専念してもらいます。その伝達をお願いしますよ」
「はぁーい……支部長……2人は大丈夫だと思いますか?」
支部長はため息をつく。
「―そう願う他ないと思いますが?」
「……うぅ……」
(セラとエルナリア嬢がこの街にやってきた途端、指導者は動き始めた……そしてエルナリア嬢は何かを確信しているようだった、もしや指導者とエルナリア嬢には誰にも言えない関係が……?)
「そうだ、2人が帰ってきた時に盛大にお祝いするって言ったんだった!支部長も街を救ってもらうんだからそれ相応の報酬が必要なんじゃない?―準備してくるよー!」
風のように消える。
「―そうですね、街を救う……英雄ですから。ふむ……」
……
(ラーフィネはわたくしが契約した上級精霊です。実力が未知数なので少し緊張しますね……)
夢幻者とラーフィネは見つめあったまま動こうとはしない。
「にゃー」
ラーフィネが先に動く。
一声鳴いたあと、ラーフィネが1歩踏み出すと地面に色とりどりの花が咲いた。それはまた次に踏み出すと同じように。
夢幻者は視線を動かしてラーフィネに狙いを定めると自らの周りに青い炎を浮かべて集中的に攻撃する。
「……」
エルナリアはペンダントに身を守られているため一切攻撃を受けない―しかし無意識のうちにペンダントを握りしめる。
するとピタッと攻撃をやめて煙の中の様子を見た夢幻者は少し驚いたように目を見開く。
「今の攻撃は中級精霊だとすぐに終わるんだけど、もしかして、君は上級精霊なのかな?」
夢幻者はどこか嬉しそうにつぶやく。目の前に佇む白猫は全くの無傷であり、何と毛づくろいをしていたのだ。
ラーフィネはまた地面を歩き始める。すると夢幻者の足元から突然、大木が生えて幹を伸ばす、枝からは次々に花を咲かせ、次第に大きくなる。次第に熟した実は枝を離れて、落下するとそれは光線となり、曲線を描きながら夢幻者を襲い始めた。
夢幻者は楽しそうに笑うと空を飛びながら結界を張る。
何千もの光は夢幻者を追い続ける。夢幻者は若干逃げるのが億劫になりそれに触れようとしたが体をすぐに逸らした。それが隕石ぐらいの力があると悟ったからだ。
(これは流石の僕でも死んじゃうよ……というか、エルナリア……君ってばやばい精霊と契約したんだね)
大木の前の空中で佇むラーフィネを見て思う。その額には紋章が輝き始めていた―。
(まさか原初の七精霊の1柱を呼び覚ますなんてね。あれはたぶん原始を司る精霊かな……ということは自然がテーマか)
夢幻者は思わず心の中で突っ込んだ。
(いやいや、あれって自然なんかじゃないでしょ)
夢幻者が何かを切る仕草をすると大木の根元がキラリと光り、夢幻者は瞬時に横に頭を逸らした。髪の毛の先端が少し切れているのが見える。
(反射も……一応は自然か)
ラーフィネは軽く鳴く。すると、突然夢幻者は血を吐いた。
(―今のは、っ)
肩を何かに撃ち抜かれていた。不意打ちかと思ったがセラは寝てるしエルナリアはペンダントの結界の中だから無理だろう。そこで気づく。
(光―光は自然の一部だ。結界を張ろうとも光を防ぐことは出来ない、守ろうとも僕の目が外を見ようとする限り光を通す、それにどんなに小さい隙間も光は通れてしまう―そうでないにしても光を操るのだから……反則じゃないか?)
(流石の僕でも想像できたとしてもこの威力は出せないし何より光を操る過程が……これが人間との違いか?)
どこかわくわくしている様子で目を細めた。
『―夢幻者様、預言者様より伝言があります』
「今いいとこなんだけど」
『終章に足を浸した、君は失敗を経て即時帰還するだろう』
「それって僕が失敗するってこと?ていうか助けに来てくれたらいいのに、預言者ってそういうとこあるよね」
『預言にはない』
「あーはいはい、これも預言してたんだね。帰ったら慰めてよ」
―すぅ……
エルナリアは大きく息を吸った。
「支部長様、今です!内通者を捕まえてください!」
『救済の運命が開花しますように』
ー
改善点等ありましたら是非ご指摘ください




