第13話「私の隣」
※長編作品です
エルナリアside
「…お魚様方はずっとここにいるの??」
宮殿の庭の一角にあるこの池には数匹のお魚様が生息している、どうやらわたくしが産まれる前からいるようだ。
「……お話はできないの?ここに長年いると飽きは来ないの?」
お魚様が飛び跳ねて肌に水滴が飛び散る、答えたくはないのだろうか。
「―王女殿下ーー!どこにいらっしゃるのですかー?」
「……」
この声はイアナ……どうやって逃げ切ろうか。前回は呆気なく捕まったので策を練らないと。
「―わっ」
―ぶくぶく……
池に落ちてしまった―すると何故かお魚様達が集まってくる、水の中だというのにはっきりとお目目が見えるのが不思議だ。
「ぷはっ」
どうやらイアナは違うところを探しに行ったようだ。池の中にいるとは思いもよらないだろう。
―もう一度入ってみよう。
どうやらお魚様方はわたくしのことは怖くないようだ。
上を見上げてみる。ここから見るお空がとてもきれい、水の中から見るとこんなにも違うということを感じる―あぁ、煌月様にも見て欲しいなぁ。
……ん?今、わたくしは何を思ったのだろう?煌月……?
「ぷはっ」
「―あ!王女殿下!かくれんぼはもう終わりですよ!」
「なんでここにいるの?ついさっきあっちへ……」
「あっちに行ってもいなかったら戻ってきたんです。そしたらタイミングよく―」
「お母様とお父様は?今どこにいるの?」
イアナに持ち上げてもらってわたくしは地に足をつける、やぱり地上の方が安心すると息を吐く。
「お2人は……ふふっ、私の口から言うと楽しみが半減します。王女殿下は自らの部屋に向かえばいいのです」
爽やかな風が吹くとあっという間にわたくしの全身が乾いた……精霊?うぅ、分からない……
「王女殿下?」
「今から部屋に戻る」
何かを忘れているような……?朝食べきれなかった菓子パンを放置していたか、それともへそくりを机の上に置きっぱなしにしていたか……
「あ、お父様!お母様!今からどこへ向かうの?」
「……」
「……」
「お父様、お母様……?」
声……わたくしの耳はおかしいの?
ふわふわして溶けていくような、優しい微笑みなのに、声が聞こえない。
近づくとそっと撫でてくれる白い手は冷たくて気持ちいい、お父様もお母様も必ず頬を撫でてくれるから。
でも、声が……わたくしを呼ぶ大切な声がまるでここから掻き消えたかのように……
「……あっ」
2人はわたくしの手を引っ張って部屋に連れて行ってくれようとする。
「わたくしは声を聞きたいの。何故話してくれないの?もしかして、わたくしをからかっているの?」
わたくしは……忘れてしまったの?大切な声を……わたくしはどうしたらいいの?
……
セラside
「セラー、貴族さんから指名の以来だよーやっぱり英雄である私達にはたっくさんの依頼が来るんだねー」
「……頭痛い……2日酔い……」
昨日は眠れなかった。だって久しぶりに酒を浴びるように飲んだから……
「セーラ〜!行こうよー!お金が私達を待ってるってばー!酒場で待ってるから!早くしてよね!」
「……行くよ……後でね」
目の前にうつる私の首には優しく光を反射するネックレスがある、でもね、分かってる。
違和感を知れば知るほど、種は大きくなる。1晩経てば嫌でもわかる、このネックレスは彼女が私の元を去った記念に買って身につけてる物。
「みんなの顔が見えないのも、このネックレスが存在してるのも、視界の端が割れているのも全部……全部、現実じゃないってことでしょ?」
彼女がいなくなってから私は自らを隠し続けた、ありのままの自分を嫌いになったんじゃないか?本当は私のことが嫌で……とか。本来の彼女の性格じゃそんなこと有り得ないんだけどね。でもやっぱり不安だったよ。
でもね、エルちゃんと一緒にいたら彼女は来てくれた、なら……もう1度彼女に会えるのなら、エルちゃんが目的の敵であっても、この目でその姿を見ることができるならエルちゃんと一緒にいた方がいいんじゃないかって。
「……ごめんね、エルちゃん」
打算でエルちゃんと旅をしてるのってほんとうに不誠実だよ、でも少しずつ共存してきてる気もしてる、助けてあげたいってね。
「セラー!早く〜!お貴族さん怒っちゃうぞー!」
「今行くから!」
どうして私の元に1度も来てくれなかったの?私はこんなに寂しかったのに、ずっと……臆病な私は来てくれるのを待ってた……でも、それじゃダメだって……いやでも気づくよ
「あっやっと来たー!でも遅かったねー、貴族さんぷんぷんで怒って帰っちゃった!見て欲しかったなー、なんなら今から見に行こっか?」
最後に会った日に彼女は言う。
『ねぇ、私がいなくなったらセラはどうするの?』
私は笑いながら言う。
『一人寂しく冒険者かなー』
彼女はため息をついて言う。
『はぁー、私がいないとダメか。それじゃ、ずっと死ぬまで傍に居てあげよっかなー』
私は笑った。
『助かるわー!』
―「ねぇ、私の親友。私は私らしくいてもいい?ありのままの私を嫌いになったりしてない?」
「セラ?」
あぁ、何で分かるんだろう。ゆっくりと振り向いた顔に浮かぶのはありったけの笑顔なんだって。それを壊すのはいつも私ってことも―。
「ずっと探すよ。どこまでも、いつまでも。だって私のいい所って長生きってだけなんだから」
「―セラ、やっぱり……」
ほらね、やっぱり笑ってる。
「過去も未来も、セラが私の隣に相応しいよ!」
私は私でいてもいいんだね、ありのままの自分を振り返るよ―だからもう少しだけ、隣にいて……。
…
エルナリアside
わたくしの部屋に戻るとお母様とお父様はゆっくりと……白い猫を指さす。
「ぁ……―ラーフィネ……」
「にゃ〜」
視界の端で亀裂が走るのが見え、わたくしは少し驚いた……でも、それと同時に安心もした。
「分かっています―違和感はありましたから。そろそろ夢から覚める時だと……そう言ってるんですよね?」
「……にゃ」
「不思議でした。お父様とお母様はまるで早く目を覚ませとでも言うようにラーフィネの元へと導くのですから」
腕に飛び込んでみる。
「温かいです……」
2人の腕の中はとても居心地がよくて安心できる。
「さようなら、お父様、お母様……」
ラーフィネはくるりと回転すると姿を消す、わたくしはもうすぐ夢から覚めるのだろう。
「だってわたくしには仲間がいますから」
―だから、わたくしはこうやって、さよならを言えるんです。
『救済の運命が開花しますように』
ー
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