第12話「甘美な幻想」
※長編作品です
「……」
エルナリアは目をまん丸にして戦いの様子を見つめていた。
なんと、かっこよくポーズを決めた直後に夢幻者とセラに厳しく言い付けられたのだ。
「エルちゃん!やっぱりここは私に任せて!これは私とあいつの戦いなんだから!あの頭に私の記憶を刻み込んでやるわ!」
「それはありがたい、やっぱりエルナリアに傷つかれると後々困るからさ、だから少し離れた場所で僕達の戦いを見ておくといいよ。思う存分、セラと楽しんだ後に迎えに行くからね」
「私が負けるとでも?言っておくけど、私強いから」
セラは夢幻者の言葉1つ1つに苛立ちを抑えきれない様子で魔法を発動させた。
眩い光が辺りを包み込んだ瞬間から戦いが始まったのだ。
目の前で繰り広げられているのは白熱した魔法使い同士の戦いだ。拮抗しているようにも、優勢のようにも見える、これはどちらが先に魔力が尽きてしまうのかが鍵となるだろう。
(お師匠様は互角に渡り合えるとは思ってもいなかったようですね、相手が手加減してるからか、はたまた何か理由があるのか……)
「……わたくしに何か出来ることがあれば良いのですが……」
夢幻者によって結界を施されたために動くことも叶わないのだ。時々逸れた魔法がぶつかって来ることの繰り返し……。
流石のエルナリアも焦りを見せていた。
(ただ見ているだけだなんてわたくしは嫌です……)
「―なんて言うことを!冒険者の信条を踏み躙るようなものよ!そんなこと2度と口にしないで!」
セラの怒号が聞こえ、エルナリアは顔を上げる。
夢幻者は口元に笑みを浮かべながら、空中で足を組んだ。
「そこまで怒ることかな?だって普通のことを言っただけなのに、全く……君って短気だって言われない?」
「私のことはどうとでも言えばいい、でも、街の冒険者を侮辱するのは違うわ」
「……まぁどうでもいいよ。そろそろ飽きてきたから終わらせてもらうね」
夢幻者は手のひらに光を集めるとそれに息を吹きかける。
セラは身構え、静寂が場を包み込んだ。
「ちょっとすごいのを見せてあげる」
そう言うと同時に光は黒色へと変化し、霧散する。すると突然―エルナリアとセラは膝を地面につき、意識が朦朧とし始めた。頭がグラグラし、眠気が襲いかかってきたのだ。
「な、何を……」
まるで頭の中に霧が垂れ込んでくるようで、ひどく吐き気を催す。
「グラナディスに認められると特別な魔法がもらえるんだ、しかも自分に最適な魔法をね。僕の場合は……幻覚。この魔法をかけられた人は最も幸福な幻覚を見る―君らは甘美な幻想を打ち破ることが出来るかな?」
「どういうこと……魔法を……貰う……?」
セラは朦朧とする意識の中そう呟くと、遂には目を完全に閉じてしまう。ほどなくしてエルナリアも地面に横たわって幻想に誘われてしまった。
「僕もあまり理屈は知らないんだけど……って聞いてないか……まぁ、少しばかりの時間稼ぎのために、長く眠ってて欲しいな」
…
……
―セラside
……テビア街冒険者支部の酒場にて
「あははっ!もう、そんな冗談やめてよ〜!笑っちゃったじゃない!」
私の笑い声が酒場に響く。手元にはお酒が並々と注がれたジョッキがあり、とあるゲームをしている。お互い冗談を言い合って笑ってしまったら酒をガブ飲みし、もし酔い潰れたらその人が全額支払い。これは負けられないと私は強く意気込む。
「ちゃんと飲むから、見ててね〜!」
「セラ〜いっけー!」
皆が私をはやしたてるから一気にガブ飲みした。肩を一緒に組んでいる親友はヒィヒィ言いながら大笑いしている。
「ひゅ〜、よく出来たねーー!」
「うぅ〜目の前がクラクラ……みんなが支部長に見えるから殴りたくなるよ〜」
「あはっ、殴ったらいいよ!かかってこーい、セラー!」
「言ったなー、本当にやるからね!」
楽しい、酒が私の喉を潤してくれる、隣で笑う親友もとても楽しそうだ。
「ち、力が出ない……もう、ダメ……」
「セラ〜、あんたが寝たら……私も眠くなるよ〜」
もう、睡魔に負けてしまう。まぶたが重くて耐えられない……。
……
もしかして寝てしまっていたのだろうか。頭が痛いとこめかみを抑え私は周りを見た。
「これは……アッちゃんが見たら激おこだわ」
みんなは酔いつぶれて寝てしまっている……ちょっと酔い覚ましに歩こうかとその場に立ち上がった。
「ふぅ……」
やはり外は涼しい……今日は満月のようだ。
「セラー、探したよー!」
「あ!見つかったかー」
すると、親友は楽しそうに笑いながら言う。
「ぷぷっ、唇にタレがついてるよ、取ってあげる」
「ありがとう」
「ねぇ私にもついてない?大丈夫?」
「……ん?」
私は眉間に皺を寄せた。親友の顔が見えないのだ。
「どうかした?」
顔はそもそもあるものだろうか?そういえば、皆の顔を思い出せないと少し考える。まるで暗闇みたいに何も覚えてない。
「なんかまだ酔いが覚めてないみたいだわ、顔が上手く認識できなくて……はぁ、鏡で見て確認して、私は無理ね」
「―ねぇ、セラ」
「なに?」
「私の名前……思い出せる?」
「えっ?……えーっと、ちょっと記憶が混乱してて思い出せないけど……えへ、何だっけ?」
まだ酔いが覚めてないから仕方ない。明日になったらきっと思い出せるのだから別に構わないだろう。
「セラ、今日は楽しかったね」
「本当に、あんなに飲んだのは久しぶりだったわ〜」
「え〜2日前にも飲んだのに久しぶりってどんだけなの?私が言いたいのは今日の朝のことよ!」
「……朝」
「もう忘れたの?私達、この国救ったじゃん!」
「え、えぇ?そうだっけ、街を救ったのなら覚えてるけど」
とてつもない強烈な違和感を感じて少し気持ち悪くなってしまう……何かを忘れている。今の私はあるけどないような、心が空いてる……そんな感覚を感じた。
「セラ?私達英雄なんだよ?だから今日のパーティは盛大だったじゃん?もう、変な2つ名とか付けられたりして〜」
「どんなの?」
「双戦の大魔って……私とセラ、2人合わせたら世界最強ってこと!」
「……」
「セラ〜?」
「ん〜、不思議な感じがしてふわふわだよ、まるで夢みたい」
別にいいか、これは現実なのだから。だって親友が目の前にいる、2人揃えば無敵―いつだってそうだ。
だから、また寝て起きて1番に名前を呼ぶ。笑っていて欲しい……ずっとずっと。
「今日はもう寝よう、語るのは明日から!」
そう言って、親友は明るい足取りで支部へと向かう。
『救済の運命が開花しますように』
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