第11話「崩壊執行者」
※長編作品です
……コツ……コツ……
長い螺旋状の階段を昇りきり、エルナリアは目前にある重厚な扉をゆっくりと押す。
力いっぱい込めて少しずつ開くと、途端に扉は大きく開き、エルナリアは思わず前のめりになる。
誰かに支えられ、包み込まれた―。
「―おかえり、エルちゃん」
そう言われ、顔を上げると優しく笑うセラの姿がある。
周りを見ると多数の冒険者が興味津々の様子でエルナリアを見つめていた。
「えっと……その、何故皆様は集まっていらっしゃるのですか?」
不思議といった様子でエルナリアがそう呟くと、皆は顔を輝かせて詰め寄る。
「精霊召喚できたの!?てかあの綺麗な美人さんって精霊王!?ちょー美しくてやばいね!」
「あの光何……!?私貫かれて死ぬと思ったよ!」
「あんまり調子乗っちゃダメだからね!」
「支部長が少し笑顔だったの魔法でもかけた?不気味過ぎて怖かった」
「精霊王様に会いたいぞ!てか君かわいいね、今度一緒に冒険しない?」
「精霊王に握手とサインしてもらったら金には困らないかも……?」
エルナリアはたくさんの声に混乱し、言葉に詰まってしまう。
「全く、みんな一旦落ち着いて。エルちゃんが困ってるじゃない」
すると、皆口を揃えて同じ質問をした。
「「精霊王は!?」」
「……その、精霊王様はお帰りになられましたね……」
明らかに落胆の表情を浮かべながら集まっていた人々は散っていく。
その後ろ姿が妙に悲しみを帯びていてエルナリアは何だか申し訳なくなった。
(……それにしても……煌月様にサインを書いて貰うだなんて想像したら面白い絵面ですね……)
「エルちゃん、ここに来たってことは準備は万端なのね?」
「あ……その、そうですね……そうとも言えます」
「……?歯切れが悪いわね、どうかしたの?」
突然、セラの背後から誰かが生えてきた。
「2人とも、今から出発だよね?」
セラは背後を振り返り、エルナリアはその隣に立つ。
「ん?ミーちゃんったら招集をかけられてなかったかしら?」
ミーちゃん……そう呼ばれた女性は帽子についていた耳を軽く揺らす。
「今から行くとこ!その前に指導者討伐を任された2人に情報を渡しておこうと思って」
「それは助かるわ、何せ事前情報が何1つとして無かったから」
「でもそこまで信用しないでね、後で責められるのも嫌だからさ」
「―ミーちゃん様はこれから何を?」
驚いたようにエルナリアを見つめる。
「ちょ、ミーちゃん様って言った?語呂悪いからミー様でいいよ!ね、セラもそう思わない?」
「ふふっ、そうね」
「えっと、これから私が何をするかっていう質問だよね?……2人が指導者の討伐に行ってる間、街を守るのに専念するよ。そいつの目的が分からないから手は抜けないよね、どちらとも総力戦になりそうだからお互い頑張ろう!」
握手をする。
「時間は大丈夫?支部長が怒るんじゃないかしら?」
「全然大丈夫じゃない、だから手短にパパッて言うよ!指導者は魔物を操ってここに進軍させてるみたい。一般論でいうと魔物を操ってるってことはそこに魔力を多く使うから大して本人は強くないことが多い!―ごめんね、情報はこれだけ!」
「いいえ、十分です。情報共有感謝します」
「セラはなんとなく大丈夫だろうだけどエルちゃんが心配だよ。精霊王ってたくさん魔力使いそうだから。前例がないからなんとも言えないけどさ」
「実は精霊王様はしばらく俗世に出てこれないようです」
「えっ?ならあのブワァーって出てきた光は何?」
「あれは精霊王様が帰られる際に出てきましたね」
ミーちゃんは考え込む。
「でもでも!油断しないでね、気をつけてね!2人が無事に帰ってきたらパーティ開くから!」
「それいいわね、今からもう楽しみになってきたわ」
「主役は誰ですか?」
「―もちろん、セラとエルちゃん2人だよ!」
……
(リワール様、お願いします)
心の中でそう呟くと、目の前に既にページの開かれた支援用魔法書が現れる。
「フォルティス・マグナ……ラディアンス・アルティス……ウンブラ・ディフェンス―対象、冒険者」
街を中心として巨大な魔法陣が空にて構築される、淡い光が溢れると冒険者達は歓声を上げた。
(思ったよりも上級魔法の魔力消費量は多くないようですね)
「エルちゃん、次の行動は覚えてるかしら?」
「はい」
そう返事をすると魔法書を消す。
2人は街の出入りを制限するための門の前に立っている。その背後には大勢の冒険者が立っていた。
「門が開いた瞬間、わたくしとお師匠様は正面突破、すぐさま指導者の元に向かいます。大半の冒険者も共に外に出て霧に近づかないよう注意を払いつつ城壁近くで魔物から街を守り、残りの冒険者は偵察や応援に向かいます」
「どうやら仄暗い霧のせいで通信は遮断、街から出ようとしても戻ってきてしまうようね」
「どうしても去ることは許されないようです」
「この方法を打開するには私達がうってつけ、タイミングが良かったとしか言えないわよね〜」
セラは杖を顕現させると軽く振った。
「―さぁ、溜まったゴミは手早く掃除してしまいましょう」
言い終わると同時に、街中に鐘の音が鳴り響く。
それを皮切りにして門がゆっくりと開き始め、冒険者達が雄叫びを上げた。
「エルちゃん、しっかりと着いてくるのよ」
「はい、頑張ります」
セラを先頭にして風のように前に進む。
既に魔物は街を包囲しており、指導者はエルナリア達が来るのを待ち構えている状況だ。
偵察部隊の人によると指導者は自らを誇示するかのように見えやすい場所に立っているという。
(ノワール様、お願いします)
今度は攻撃用魔法書が現れる。
セラが目の前の敵を薙ぎ払っていくおかげでエルナリアはすんなりと前に進み霧を通り抜けることができた。想像よりも簡単に指導者を目視できるほどの地点まで到達することが出来たため少し拍子抜けだ。
「まるで私達を敵とみなしていないようね」
こちらには気づいているはずだ、それなのに1歩も動こうとはしない。
背後を振り返ってみると、霧は依然として存在している。
(わたくしたちは街から離れる意思がないから霧を抜けられるのでしょうか?)
「―こちらには来ないのかい?」
目視しかできない程遠い場所にいるというのに、声ははっきりと聞こえた。
「そこまで来て欲しいならそっちから来たらどう?」
セラがそう挑発すると、相手はふんっと鼻を鳴らす。
(鼻の鳴る音までもこちらに聞こえるなんてどれほど精密な魔法使いなのでしょうか)
「君達がここまで来ないと話は始まらないさ」
「話すことなんてないわ」
すると、相手は一瞬のうちにエルナリアのすぐ隣に立つ。
「―っ」
エルナリアはぴくりとも動けなかった、体は強ばり呼吸が浅くなる。
―相手はエルナリアの肩にそっと手を置いた。
「さて、自己紹介でもしようか」
横をすり抜けるように歩き、エルナリアの前に立つと相手は恭しく頭を下げ、ボウアンドスクレーブを行った。
「―鍵に守られしエルナリア。僕はグラナディス崩壊執行者の1人、『夢幻者』を頂いたユーフィアさ」
グラナディス崩壊執行者『不変音階十奏』
夢幻者―ユーフィア
スっと顔を上げる。
「虚言の波は花弁を咲かせ、幻想は甘い吐息を混じえて現を錯覚させる―さて、君は誰かな?」
セラは杖を握りしめる。
(しくじった、エルちゃんにはペンダントがあるからと油断していたわ……でもこれでひとつ分かった……こいつの目的は―)
「……私はセラ、ただの魔法使いよ」
夢幻者はエルナリアに視線を向ける。
「一応聞いておこうか。君は?」
「……わたくしはエルナリアと申します……その、貴方様の目的をお伺いしてもよろしいでしょうか……?」
「中々に肝が据わってるね、気に入った。でも後でね」
そう言って一旦目を閉じるとセラの元に歩み寄る。
「セラ……誰かからその名を聞いたことがあったような……ま、思い出せないってことはそれほど重要じゃないってことだよね」
セラは青筋を微かに浮かべる。
「セラ、エルナリア。早速だけど取引をしようか」
背を向けたままそういう。
完全に油断しきっているというのに全く隙がない……セラは迷っていた。
「……取引は上下があってこそ成り立つ、私と貴方じゃ釣り合わないわよね?」
「確かにそうだね、話にならない。でも、可哀想じゃないかい?一方的に蹂躙されて終わるよりも少しでも希望がある方がいいっていうか……分かるかな?僕の言いたいこと」
「かんっぜんにバカにしてるわよね」
「お師匠様、苛立ちを抑えきれてませんよ……」
「至って簡単さ、エルナリアをこちらに引き渡すだけ」
エルナリアはぴくりと動きを止める。セラは瞬時に杖を構えた。
「誰がそんな取引に応じるわけ?」
エルナリアは密かに考える。
(夢幻者はわたくしを攫おうとすることをまるで悪と考えていないようですね、だからわたくしに触れることが出来た……)
「最後まで聞いてから口答えしてくれるかな?エルナリアの身柄をこちらに引き渡すことと引き換えに、街の周りから魔物を撤退させ、金輪際街にかかわらないことを約束する……どう?条件を飲むかい?」
「はっ、よくそんな提案ができるわね。魔物だってあんたが用意して包囲させたんじゃないの、それにエルちゃんを引き渡す?そんなの呑めないわね」
エルナリアは感動を覚える。
「お師匠様と共に戦います!」
セラの隣に走って並ぶと背中を合わせて夢幻者に視線を向ける。
「取引不成立か……残念、傷つけたくはなかったんだけど……強引に連れていかせてもらうから、覚悟してね」
そう言うと怪しくニヤリと笑った。
『救済の運命が開花しますように』
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