第9話「精霊王」
※長編作品です
―セラは杖を軽く振り、最後の魔物を軽々と倒した。
それを見届けたエルナリアはふと思ったことを口にする。
「お師匠様の魔法は、まるで光をイメージしているようですね」
「そう見えたかしら?」
「はい、とても綺麗です」
セラは嬉しそうに微笑む。
「ふふっ、無意識のうちに光をイメージしてたなんて……感覚は染み付いてるものね」
「光をイメージしている訳ではないと?」
「そうね、私がイメージしているのはあくまで形だから……なんて言えばいいのかしら、勝手に処理してくれる感じかしらね?」
「―何だか……魔法というのはとても不思議です」
エルナリアは感慨深そうに頷く。それを見たセラは歩き始め、呟いた。
「エルちゃんも知っての通りだけど、だからこそ私達は感謝を絶やしてはいけないのよ」
「誰に感謝をするのですか?」
「えっ?」
「え?」
セラは歩みを止めて振り向き、にっこりと笑った。
―エルナリアは……しまった…というように口を塞ぎ、頭を大きく振る。
「あの、常識ですよね―わたくしは知っていますよ」
「エルちゃん……?私言ったわよね?寝る前に必ず読破しなさいって」
「……女神様に感謝を捧げるのですよね、知ってますから」
「―本当に読んでないのね、魔法の根源についての書物を」
エルナリアは観念したように落ち込む。
「……あの書物は分厚すぎます、次の日にと先延ばしにしていく内にいつの間にか忘れてしまっていたのです」
「それならそうと謝ったらこんなにとやかく言わないわよ、エルちゃんもまだまだ子供ね」
「……面目ありません……」
「でもちょうど良かったかも、街に着くまでにそれなりの道のりをたどるわ、その間物語の説明を掻い摘んで説明しようかしらね」
エルナリアは顔を上げると、嬉しそうに頷いた。
「それは助かります!―ちなみに、その物語はどんなお話ですか?」
「……女神様の傍らにいた光のお話よ。魔法の根源について、その光の現在を語っているわ」
「光……?」
冷たい風が吹き付け、雲が太陽を覆う。
「偉大であり孤高、そして高貴な存在であるその者は今も母の帰りを待つ……これは魔法を司る王のお話―」
……
―『魂光』それは女神の傍にいた小さな光。
『魂光や、その力を何も持たぬ地上の者に役に立ててはくれぬか?』
女神は空に手を伸ばしました。
『魔の力にて病める者もいよう、妾は心が痛む。じゃがこの力は万物の底にて眠りにつかねば来る時に備えぬのだ』
そして、少しずつ姿が欠けていき―遂に消えてしまいました。
『―幻の園にて、果たされる約束を待てぬども……何処かで運命を願おうではないか』
魂光は流れる星のように、淡い光を世界へ流すことにしたようです。
まずは地上の者達に力を与えることにしました。
自らの力を分け与えた子供―精霊を地上へ送り出し、世界に祝福をもたらします。そして魔力が満ちた世界に生まれいく地上の生き物は『魔法』に気づいたのです。
―溢れんばかりの情を……
―輝かんばかりの力を……
次第に生き物達に『器』が進化と共に現れ始めます。
魔力の他に入ることの出来るスペースを使い、生き物は精霊と契約し、万物を操ることができるようになりました。
―魂光にとって、精霊達は子供同然です。そして子供達にとっては―王なのです。
後に、精霊達は口を揃えてこう呼びました。
『精霊王』と………。
そんな精霊王は今も何処かで空を見つめているのです。
……
(魔法の始祖―それは精霊王……お師匠様は魔法の発動阻止がなされたと呟いていましたね……―もしや、これはわたくしが思っている想像以上の事態なのでは……?)
冷や汗がたらりと頬を伝う。
『其方は余を恐れるか?』
煌月は微動だにせずそう問いを投げかけてきた、エルナリアはどう答えようかと逡巡する。
「……」
口を開き、答えようとした瞬間―扉がゆっくりと開いた。
そこにはメガネをかけた若い男性が立っており、その背後にはセラと他何人かが立っている。どうやら戦闘を開始するつもりは無いようで、胸元に手を当て一様に視線を下げていた。
エルナリアはちらりと煌月の様子を盗み見る。
(……これは……答えそびれてしまいましたね)
「初めまして―精霊王よ」
そう言うと頭を垂れて膝をついた。
それに倣うように背後の人々も膝をつき、微動だにしない。
『エルナリアよ、余の正体について先程気づいたようだが―何だったか?』
「……精霊王……ですよね」
『ふむ……頭を上げよ、余はそのような行為を苦手としている、楽にするがいい』
皆は立ち上がり、ほっとしたような表情を浮かべている。セラに視線を向けると、小さめに手を振ってきた。
『其方はそこらの者よりも強いようだな、何者か?』
「私は冒険者支部にて支部長の役職を頂いております」
―支部長が背後の人々を一瞥すると、扉が閉まり、3人だけの空間となった。
『わざわざ余の元に出向いたのは其方達で解決できない事案があるからか?』
支部長は深く頷く。
「左様です……近頃、魔物の大軍が大挙して押し寄せる事案が多発しており―指導者が確認されています。我々は街を守護するのに手一杯であり助けを求めようにも動けない状況なのです」
「伝令は飛ばせないのですか?」
思わず口を挟むと、支部長から睨まれてしまった。エルナリアは肩を竦める。
「―もちろん、貴方の言う事を試さなかったわけではありません。しかし指導者の手により通信は遮断され、人々はこの街に留まることを余儀なくされているのです」
煌月は指を鳴らす。
『口を慎め、其方は今誰を睨んだのだ?』
支部長は再度膝をつく、まるで見えない手に無理矢理押さえつけられているかのようだ。
エルナリアは煌月の前に咄嗟に手を出す。
「煌月様、お止め下さい」
1歩前に出る。
何か考えがあるようで、エルナリアは息を吐く。
「支部長様、貴方様はどうやらわたくしのことを少し侮っていらっしゃいますね―これは提案なのですがら今回の件を無事収めることが出来たら―わたくしを認めてくださいますか?」
「―っ……もちろんです。精霊王も君の実力に入りますからね」
エルナリアは不敵に笑う。
「いいえ、わたくしは煌月様に頼らないと決めています。今回の騒動はわたくし自身の手で収めますので」
『……そうなのか?』
煌月は不思議そうな瞳でエルナリアを見つめた。
「煌月様とはまだ本契約を交わしていないので、わたくしの実力の内とはなりません……その、今気づいたのですが……思ったよりも煌月様の顕現は体に負荷がかかる様なのです」
エルナリアの頬を冷や汗が流れる。
『……本契約までの辛抱というわけか……それならば、余は其方が本当の危機に陥った際の保険となろう』
「それが望ましいと考えます」
『だが、手はあるのか?』
「煌月様がここに来た理由を覚えておいでですか?」
煌月は微かに頷いた。
煌月様にとって、最初に「精霊王」と呼んで欲しかったのはエルナリアだったのです。だから支部長に精霊王と言われても返事をしませんでした。
ー
『救済の運命が開花しますように』
ー
改善点等ありましたら是非ご指摘ください




