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黎幻光夢  作者: ルネッターナ
第1章「フラビトアの旅路」
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第8話「有意義な時間」

※長編作品です

『仮契約を知らぬのは致し方ないが、本契約も知らぬのか?』

「恥ずかしながら、何も分かりません……」


エルナリアは少し深めに帽子を被り直す。


(やはり、常識を知らないのは恥ずかしいものです……落ち着いたら勉強しましょう……)


本契約―

……魂の完全契約。精霊を召喚したら双方同意のもと本契約となる。解除することは基本出来ないが、どちらか一方の魂が死んだ場合は解除される。

本契約を結んだ場合、人側の意思で召喚、また命令もできる。


仮契約―

……意識の完全契約。器の少量スペースと引き換えに契約する、今は廃れた契約方法。お互い合意することで解除出来る。

仮契約を結んだ場合、人側の意思で召喚は出来ない上、命令も出来ない。少量スペースを取られるため、新たな精霊と契約するのが難しくなる。精霊が2回、現実に出ると仮契約は消滅する。

本契約ができない両者のためにと作られた契約方法だ。


「では仮契約にメリットは皆無なのでしょうか……?」

『其方のような成長する器を持つ者に対する……ふむ、予約みたいなものだ。お互い本契約を結びたいが結べない状況下に役に立つ』

「今のように……ですか?」

『そうだな……しかし懸念点もある。本来ならば少量で済むはずが、余との仮契約は……例えるなら、普通1体分で済むのならば余の場合は2体分となる……これは余が少し特殊な立ち位置でな―分かるか?』

「煌月様と仮契約をする場合はスペースを少し多めに取られてしまうということですか……」


煌月は周りに視線を巡らせる。


『―仮契約は器のスペースを少しばかり取る……しかしそれは人側にとっては致命的だ。人は召喚することが出来ない上に精霊は気まぐれで現れ、命令を聞かない。スペースは狭まっている故に新たに精霊契約を行えない……それならば、誰が仮契約など結ぼうものか?』

「余裕がある人でしょうか……?」


正解だ、とでも言うように口角を上げる。


『正に其方だ、余と仮契約したとてスペースは有り余る。其方達の枠組みで言うのならば上級精霊と5体は契約できるだろう、しかしこれは成熟した時の話だがな』


煌月はため息をつく。


『……余とて強制したくはない、其方が上級精霊と契約を交わしたいのならば受け入れよう、それは其方が決めることだ』

「わたくしが煌月様と本契約をしたいのならば、上級精霊とは5体も契約できない……ということでしょうか?」

『……そうだ、其方は1体としか契約できぬ。今は上級精霊3体分のスペースしかないが、いずれ成熟したら5体分となろう』


煌月はエルナリアに近づくと、流れるように手の甲を取りキスを落とした。

エルナリアはギョッとして顔を見る。煌月は一心にこちらを見つめており、エルナリアは思わず動揺してしまった。


「こ、これは一体……なにを」

『―分からぬか?余は其方と本契約を交わしたい、本音を言えば余以外の精霊と契約しては欲しくないのだ、しかし仮契約した余は本領を発揮できぬ……守るために1体と契約して欲しい……だが、それすらも妬ける……』

「や、妬けるとは……」

『エルナリア、余は其方のどの選択も尊重しよう、何も言わぬ』


そう言って立ち上がり背を向けると、煌月の周りに蝶が集まり始めた。


『エルナリアよ、余と仮契約を結んでくれるか?』


エルナリアの瞳が揺れる。


―エルナリアの器は成熟したら上級精霊5体分。

今はまだ成長途中で3体分、もし煌月と仮契約を行えば残り1体分となってしまう。どうやら煌月は少し特殊で、本来なら1体分の所を2体分も取られてしまうということだ。


(きっと、煌月様は嘘をつけないお方……こうやって本音を吐露してくださるのは信頼してくださっている証……わたくしと煌月様はまだ出会って数時間、それなのにどうしてこうも心が揺れてしまうのでしょうか……)


煌月は人差し指に留まった蝶と戯れるように、首を傾げている。

エルナリアは無意識に視線を地面に向けた。


(一体、どのようにしたらいいのでしょう……)


―考えに考えた結果、エルナリアはゆっくりと微かに頷く。


「わたくしは……心の底から煌月様と契約を結びたいと思いました。わたくしの住む世界を、俗世を……見て欲しいと考えたのもあります、あの……なんと言えば良いのか分かりません、ですが決して情に流されたとかではなく、煌月様だからそう思えたのです」


煌月は振り向くと、嬉しそうに微笑んだ。


『―では、余と本契約をいずれ結んでくれるのだな?』

「はい……」

『そうか……そうか、余を選んでくれたのだな。これほど嬉しいことは無い』

「それで、その……仮契約はどのように行うのでしょうか」

『―すぐに終わる』


蝶が1匹ひらひらとエルナリアの元に飛んでくる―すると、軽く口元に触れた。その蝶はまた飛び立ち、今度は煌月の人差し指に留まる。


『……簡単であろう?』


そういった後、その蝶は煌月の口元に触れた。

視線だけをエルナリアに向けると、蝶は霧散する。


「ぇ……あ、そういうことですか……」


エルナリアは、確かにセラから聞いていたことを思い出す。

―精霊からの口付けにより契約は交わされることを……


『其方との契約は結ばれた―もし其方が契約した精霊でも対処出来ない危機が訪れた際は……余の名を呼ぶといい』

「分かりました」

『では、そろそろ時間か……其方と対話できて有意義な時間だった、次は俗世で会おう……余にも寂しいという感情は備わっている、またすぐに会える故に悲しむ必要は無い』

「あまりにも寂しい場合は、呼んだら来て下さるのですか?」

『言ったであろう、精霊は気まぐれと……だがその時の気分次第では出向くかもしれん、其方の顔を見たいがためにな』

「―それは、とても嬉しいことをおっしゃいますね」

『常日頃から傍にいることが出来ないのは真に残念だ』


エルナリアは微笑む。


「仮契約ですから、それはまた致し方のないことでしょう」

『あぁ……そうだな、こればかりは仕方ない……では、其方の契約する精霊を見届けた後に戻るとしよう』

「ここで別れるものと思っていました」

『せめて見届けねばな』


煌月はエルナリアの隣に立ち、そっと肩に手を置く。


『―其方がここに残りたいと言えば、永遠に残れるぞ?』

「ふふっ、それは何の冗談でしょうか?」


煌月が空いてる片手で指を鳴らすと、瞬時に周りの景色が殺風景な部屋に変化する。

どうやら霧は既になくなっているようで、周りに視線を巡らせた。


「―動かないで!エルちゃんから離れなさい!」


声の聞こえた方に目を向けると、扉付近に杖を構えたセラがいた。

エルナリアは顔を輝かせると、嬉しそうに呼ぶ。


「お師匠様!」


しかし、何を勘違いしたのか―セラはギリッと歯ぎしりをした後、杖の先を煌月に向けて言い放つ。


「私の攻撃を喰らいたくなかったら、今すぐにエルちゃんを解放しなさい!」

「………?」


状況が読み込めず、エルナリアはボカンとした表情で首を傾げた。


「―っ、魔法が発動しない―」

『余に魔法を発動させようなど、無意味に等しいことが分からぬか?』


そう言って煌月は腕を組むと、小首を傾げた。


『其方は地上に存在する生き物の中でも中の強さに該当するのだろう?だが魔法に頼っているだけでは余に勝てない、それは武力も然りだが』

「もしかして、貴方は―」


セラはなにかに気づいたようだ。杖を素早く消すと扉の向こうに姿を消した。


『もてなしか?』


煌月は軽く笑う。

エルナリアはどこかピンッと来ないようで首を傾げた。煌月の正体について引っかかりを覚えるのだ。


(お師匠様の反応からして煌月様は上級精霊なのは確かですが、そこまで珍しいものなのでしょうか?確かに特殊だとは仰っていましたけど……)


顎に手を当て、過去に聞かされた話を思い出す。


(下級精霊は精霊使いの大部分の人々が契約し、中級精霊は上位の人々が契約する……上級精霊はその中でももっとすごい人が契約する……というのは聞きましたが……何かを見落としている感覚があります……)


突然、天井からパラパラと石が落ちてきた。


「上の方で何かあったのでしょうか?」

『騒いでいるのだろうな、微弱だが魔力を感じる』


煌月の方を一瞬盗み見る、静かに目を閉じて時を待つようだ。


(引っかかりを覚える……ということは、わたくしはどこかで知っているはずです……お話の大部分はお師匠様と書物から得ているため……精霊に関するお話は―)

(お師匠様ですね、それも草原の途中で少しばかり聞いただけですが……)


エルナリアは煌月に直接聞こうと思ったが、それでは自己解決したことにはならない、彼に関することは自分で解き明かしたい気持ちがあったのだ。


(―それは草原の真ん中でのお話でした。日が高い所にあり、ふとした会話から始まった魔法の根源について―)

『救済の運命が開花しますように』


改善点等ありましたら是非ご指摘ください

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