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第二十四話 PMは黒幕を弾劾する

「ねぇねぇ。どう、オサム。似合ってる?」


純白のドレスに身を包んだフネが、くるりと翻って俺の方を見て笑った。

黒髪をアップにして、目をキラキラと輝かせてくる。

薄っすらと化粧もしているらしく、まるでどこぞの貴族の令嬢のようだった。


「馬子にも衣裳……か」


俺はその変わり様にうまく直視できず、視線を逸らしながら呟きを返す。

そんな俺を見て、フネは意地悪そうな表情になると、つかつかと俺に身を寄せた。


「うふふ。そっちこそ、よ」


含み笑いを漏らし、無事だった左手の人差し指で、俺の胸をつんと突く。

ちなみに俺は、城の侍者に準備してもらった仕立ての良い紺のロングチュニックに身を包んでいた。

縁を控えめな金糸であしらわれた、上品な一品。

――動き辛いこと、この上ない。

現場上がりのITエンジニアのプロマネなど、滅多なことではフォーマルな衣装に身を通すことはないのだ。


「それより、腕は大丈夫なのか?」

「あ、これ?ぽっきりいってたみたい。でもなんだかちょっと薄幸な美少女っぽくて、良い感じでしょ?」


フネはそう言って、白い布で吊られた自身の右腕を見せびらかせる。

俺はそのあっけらかんとした態度を見て、余計に責任を感じた。

フネはあの戦いで一番身を張って頑張ってくれた。

俺がもっと早くロゴス暴走のからくりに気付いていれば、彼女があそこまで追い込まれることはなかったかもしれない。


「なに暗い顔してんのよ!オサムのお陰で、みんな助かったんだから。もっと堂々としなさい!」


俺が少し沈んだ顔になっていたのを察したのか、フネは肩を小突きながら笑顔で言った。

なんだかんだ、俺は彼女に何度も救われている気がする。

ミスがあったことは認めよう。

だが次に繋げるのが俺の仕事だ。

なぜなぜ分析でもして、次回同様の事例があった際には対処できるようにしなければならない。


「まーた、難しい顔しちゃって。そろそろ出ていく時間だよ。早くいこ!」


フネは俺にそう言うと、軽やかな足取りで部屋を出ていく。

ぱたん、と扉を開ける音。

立ち去っていく、彼女の白い後姿。


「……ありがとう」


俺は彼女に聞こえないくらいの小さな声で、その背中に感謝の気持ちを伝えたのだった。




「――二人の功績は称え、アステリスク王オーウェンの名の下、勲章を授与する」


オーウェン王が威厳ある声を、広い王の間の隅々まで響き渡らせる。

俺は片膝をつき、深々と頭を下げて、王自ら首に勲章をかけるのに身を任せた。

同時に、広間中にドォン、ドォンという重低音が鳴る。

横目で何事かと様子をうかがうと、長方形の場を左右に居並ぶ騎士団たちが、一斉に剣の柄を叩く様が見えた。

そういう作法だろうか。

先頭で立つガウェインと一瞬目が合うと、彼はわずかに表情を崩し口角を上げた。


「わぁ!すっごくきれい!ありがとう、王様!」


続けて勲章を授かったフネは、首から下げられた星形の金のメダルを掴んで目をまんまるにして喜ぶと、その場で飛び上がってはしゃぐ。

俺の時同様、騎士団たちが剣の柄を鳴らすが、皆一様に笑いを堪えるような顔になっていた。

作法は事前にリサーチして、彼女にも伝えていたのだが。

全くもって彼女らしい。


「ヨシダ・オサム、アダチ・フネ。この二人が我が国にいなければ、我らは国家消滅の危機を迎えていただろう。しかも龍を退けるだけでなく、龍の加護を取り戻した二人は、真の救国の勇者である」


授与を終えた王が再び口を開くと、騎士団たちの歓声で場内が沸いた。

その中で唯一、憮然とした表情で式を眺める男がいる。

オーウェン王の背後にひかえる、エドワードだ。

彼は軽く手を叩くと、少しだけ前に歩み出て俺たち二人に声をかける。


「二人とも、私からも礼を言おう。よくやってくれた」


大聖堂跡での彼の英雄然とした振る舞いと、その顛末は誰もが目にしていた。

だがそれでも彼は宰相としての態様は崩さない。

続けて口から出た台詞は、恩着せがましく、空々しいものだ。


「その活躍を評価し、冒険者ギルドにもかけ合っておいた。君たちの指名手配は、すでに解かれている。これからも冒険者稼業に精を出すがいい」

「あんたねー……」


フネがドレスの裾を掴みながら、ずずいと彼の前に進むのを、俺は片手で制する。

小さく息を吐き、そっとオーウェン王に視線を送った。

王はそれを受け、かすかに俺にしか見えない程度に顎を引く。


「エドワード宰相」


俺はすっと立ち上がって、エドワードの眼前まで歩み寄ると、彼の目を正面から見据えた。

突然の呼びかけに、彼は少し戸惑ったように後ずさる。


「な、なんだね?」


広間中の騎士団たちも、ガウェインも、オーウェン王も、俺とエドワードのこの対峙を黙って見守っていた。

俺は一瞬だけ目を伏せ、胸中で考えを整理する。

正直ギルドの案件を独占することや、彼が兼業で冒険者団体の団長であることはどうでもよかった。

その結果恐らくはギルドマスターと癒着を重ねて、私腹を肥やしていたことすら、よくある談合と思って特に言及するつもりもない。

だが、彼はやり過ぎた。

魔物の襲撃では、国の人々が犠牲になり。

ロゴスへの介入では、彼の思いを踏みにじり。

そして――

俺は白いドレス姿のフネを、一瞬だけ視界の端に収める。

彼女はなんだか少しワクワクしたような、期待のこもった目で俺を見つめていた。


「エドワード宰相。いえ、エドワード団長と呼べばいいですかね?以前は勧誘をお断りして、申し訳ありませんでした」

「な、なにを……」


俺の嫌味をたっぷり乗せた謝罪に、彼はわずかに狼狽した。

だがすぐに普段の不遜な表情を取り戻すと、胸元の金の首飾りを弄りながら、肩をすくめる。


「ああ、そうか。君は知っているのか。まぁ、表沙汰にするほどのことでもないので、特に公表していなかっただけだが。そうさ、私は『深紅の鷹』に頼まれて、長を務めてるだけのこと」


彼の言葉は俺への回答というよりは、周りの王や騎士団に向けての弁明のようだ。

だが誰一人、エドワードのこの稚拙な言い訳に、言葉を発する者はいない。


「まぁ、いいです。宰相でも団長でも」


俺はわざとらしく溜息を吐き、それからこっそり衣服の隙間に忍び込ませていた、例の恥ずかしい仮面を取り出すと、顔に被った。

フネが左手だけでお腹を抱えて、今にも吹き出しそうになっている。

俺はそれを見ないふりして、仮面姿で王に声をかけた。


「オーウェン陛下」

「……なんだね?」


オーウェン王は俺が突然仮面を被ったことには特に触れずに、片眉をぴくりと上げて、聞き返す。


「魔物研究家ルイスの、調査報告をお聞きいただけますか?」


俺の言葉に、王が答えるよりも前に、エドワードが声を荒げた。


「おいおい。神聖な王の御前だぞ。オサムくん、ふざけるのはそこまでに――」

「良い。報告を認めよう、ルイスさん続けなさい」


しかし彼の静止の声は、王には届かない。


「それでは、報告させて頂きます。近年増加していた魔物の凶暴化と、龍の加護の消失の正体について」




時は少し遡る――

ロゴスを鎮めた後、ガウェインと共にこの日よりも前に俺はオーウェン王と再び謁見していた。

その中で、俺は改めてこれまでの経緯と、全ての元凶がエドワードであることを伝えた。

もちろん、エドワードはアステリスク国の王に次ぐ、権力者である。

王も最初は理解を示してはくれなかった。

いや、怪しいと思っても、おいそれとは犯人に挙げるのが難しい立ち位置でもあったのだろう。

だから、俺はピットに蓄積された過去の映像や、具体的な証跡をもって一から自身の推論を並べる。

まずはエドワードの二重の立場。

この国の宰相としての地位と、『深紅の鷹』の団長としての顔。

そして『深紅の鷹』による、ギルドの依頼の独占。

その独占された依頼先の『古龍の遺跡』での、魔物と門への細工。

ここは以前の謁見でも説明したので、大きく端折って説明を続けた。

そしてノアール大森林の浅い部分で発見された、凶悪な魔物への外付けの強化。

外付けの強化に使われたバーサーカージュエルは、『古龍の遺跡』内の魔物と同じであったこと。

ここまでを一気に説明したところで、俺は少し王の反応を待った。


「エドワードが『深紅の鷹』と懇意にしていることは知っておった。だが、それは所謂パトロン的なものだと思っておったが、まさか奴自身が長であったとは……」

「私はこの国の政治は分かりませんが、恐らくは国の力ではなく、自分だけの武力を持ちたかったのではないかと思います」

「騎士団がいるのに、か?」

「自分が英雄になって、或いは王の代わりに立つ時のためかもしれません」


俺は避難場所で、エドワードが高台に現れた時、王を連れ出していたことを言及する。

あの後、彼は取り巻きの冒険者たちに防御魔法を展開させる時、自分にしか指示をしていなかった。

普通なら、この国で一番守らなければならない人間を、最優先させるべき時にだ。


「あの時は、エドワードに国民の士気を盛り上げるために、是非にと言われて……。なるほど、そういうことか」


王もその考えに至ったようで、複雑な表情で唇を嚙みしめた。


「段々構造が見えてきたな。エドワードは私腹を肥やしつつ、自分専用の私兵として『深紅の鷹』を操り、こんなものまで使って、民衆の支持を自作自演で集めていたのか」


俺が以前預けた宝石を机の上で転がしながら、言葉を続ける王。

その声は、静かな怒気をはらんでいた。


「ちなみに、その宝石の解析や出所は分かりましたか?」

「……すまない。宮廷魔法使いに探らせていたが、これがバーサーカージュエルであることは間違いないが、その出所までは特定できなかった。探査魔法で探ったところ、どこか国の外から持ち込まれたものらしいが」


どうやら、エドワードが自分たちで生成したものではなく、外部から調達したものだったようだ。

だが、彼らが使用したことは間違いない。

俺にとっては、その事実だけで十分だ。


「こんなもので、我らがアステリスクの守護龍まで暴走させるとは」

「それは違います。龍を暴れさせ、この国を襲うようになった原因は……。その一端は私にあります」


これを伝えると、俺の立場も危うくなるかもしれない。

だがそれでも、報告は誠実でなければいけないと俺は考えていた。

だから、俺はロゴスが国を襲う魔物と化した、真実を説明する。

『古龍の遺跡』の最奥で、龍から鱗を信頼の証としてもらったこと。

その証はギルドに一度提示した後、恐らくエドワードの手に渡っていたこと。

鱗自身が龍のセキュリティゲートとなっていたため、そこを逆に突かれて、龍は制御を失い国を襲う邪龍と化してしまったこと。


「だから……。俺がギルドで簡単に鱗を提示するような真似をしなければ、もっと未然にロゴスの襲来という最悪の結果だけは、防げたかもしれなかったんです」


わずかの沈黙の後、王は俺の肩に手を置き、静かに頷いた。

目を細めて俺を真っすぐに見つめる姿は、非常に優しい温かさで満ちている。


「報告ありがとう。君が信頼に足る人物であることがよく分かった。そして――」


一瞬和らいだ王の表情は、次の瞬間鋭く険しいものになる。


「断罪しなければならない、この国の膿がよくわかったよ」


放たれた言葉は、眼前の俺が肝を冷やすほど、凍りつくような厳しい響きを持っていた。

王は俺とガウェインに、その後セレモニーでのエドワードへの弾劾について、綿密に打ち合わせをする。




そして、今まさにその結果が眼前に晒されていた。

俺の足元で両膝を地面につけ、がっくりと肩を落としたエドワード。

彼は宰相の地位を剥奪され、国外追放の処遇が下った。

同時に、『深紅の鷹』という冒険者団体の解体。

オーウェン王の判決が下された後、エドワードは強引に立たされ、引きずられるようにその場から退場した。


「ね?最初っから、あのおっさんは、怪しいと思ったんだよね」


フネがその姿を見送りながら、俺にこっそりと呟く。

こうして今回の騒動は、一応の幕を閉じたのだった。



お前が犯人だ!

ずがーん、とやるキャラではないな、オサムは

と思ったので、こんな形での決着です笑

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― 新着の感想 ―
Xから来ました。主人公がしごできなのがキャラが立っていて、おまけにストーリーもテンポ良くなっててうまくかみ合っていると思いました。PM要素も多くて満足です!
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