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第十七話 PMはルートコーズを追いかける

兵舎の会議室は、最初にガウェインに呼ばれた部屋で行われた。

長机にガウェインと、他数名の銀鎧の男たちが向かい合って座っている。

俺とフネはガウェインに促されるまま、彼の隣に腰を下ろした。


「――というわけで、昨日の魔物の被害により二番隊がしばらく巡回に加われなくなった。皆の負担は増えるが、巡回の時間と担当を割り振り直したので、各自確認して欲しい」


ガウェインの報告を受け、室内に低いざわめきが広がる。

その中身はほとんどが不平不満の声だったが、俺は彼らの気持ちも理解できたし、眉間にしわを寄せるガウェインの立場はさらによく分かった。

突然の離脱と、アサインのやり直し。不満が出ない方が不自然だし、管理側はもっと辛い。


「ちょっと待ってください、ガウェインさん。我らの五番隊はこれ以上巡回を増やすと、それ以外の任務が回らなくなります!」


騎士の一人が勢いよく立ち上がり、声を荒げる。

それに呼応するように、他の者たちも次々に口を開いた。


「そんなこと言ったら、七番隊はすでに巡回のために隊を分けて対応しているんだぞ。もう限界だ!」

「一番隊なんて、先月隊を辞めた者の補充で、冒険者ギルドから臨時で人を雇ってる。予算も足りてないのに、上はどう考えているんだ!」

「皆さんのところなんて、まだマシですよ。私のところは私以外全員負傷者で……。これでは魔物との戦闘になっても、戦うすべがありません……」


それら不満の砲弾を浴びながらも、ガウェインは腕を組んで黙って聞いているだけだった。

ちなみにこんなに騒然としているのに、俺の横ですでにフネは机に突っ伏して夢の中である。

喋らせてもろくなことがないから、俺は起こさずにおいた。


「――」


一通り皆が言いたいことを言い切ったところで、会議室内に静寂が戻る。

そこでようやくガウェインが重い口を開いた。


「状況はよく分かった。皆に苦労をかけてすまない。だが、我々が投げ出せば被害が広がるだけだ。日に日に攻め入る魔物のランクも上がってきている。昨日二番隊を壊滅させたのは、アイアントロールにレイジオーガだ」


ガウェインは努めて冷静に、淡々と事実だけを伝える。

だが組んだ腕の指先が、食い込むほど力を込められ震えていた。

恐らく隣にいる俺しか気づかないくらいの、感情の吐露。


「……っ!そんな馬鹿な。大森林の奥地でしか遭遇しないような、高ランクの魔物じゃないですか!」

「ああ。普通なら、彼らが生息地であるノアール大森林を越えてくることはない」


立ち上がったままの五番隊隊長の驚きの声にも、ガウェインは動じた様子を見せずに静かに答えた。

立場上感情的になれないその様子に、俺の胃もきりきりと痛くなってくる。


「一体、龍の加護はどうなっているんだ……」


重たい空気が幕を下ろす中、一人の騎士が頭を抱えて呟きを漏らした。

俺はその言葉に、小さく反応する。


「龍の加護ってなんですか?」


俺の問いかけに、その騎士は顔を上げて不思議そうな顔をした。


「君は……?」

「彼が事前に伝えていた、私の協力者のオサムさんと……フネさんだ」


問いかけに応じたのは、ガウェインだ。

俺と机に突っ伏したままのフネを片手で示しながら、紹介してくれる。

やはり先ほど起こしておくべきだったか、と後悔しながら俺は軽く頭を下げた。


「ヨシダ・オサムです。挨拶が遅れてすいません。こっちのが……フネです」

「どこかで聞いたような名前ですね。うーん……」


名乗りを聞いて、騎士は何かを思い出そうと首を傾げる。

俺は横のガウェインを見つめて、無言で目配せした。


「――彼らは今、ギルドの指名手配になっている者たちだ。宰相から先日通達があっただろう」


ガウェインの言葉に、問いかけた騎士以外も一斉にざわつく。

だが、ガウェインが片手を上げると、すぐに静まり返った。


「皆、この件は他言無用で頼む。この者たちは私の責任の範囲で預かっている。今はそれだけで納得して欲しい」


普通は説明にもなっていない説明だ。

しかしよほど人徳があるのか、リーダとしての資質なのか、皆とりあえず納得したように沈黙で理解を示した。

俺はその様子を確認した後、先ほどの騎士に向かって再び同じ問いかけを投げる。


「……では、改めて。先ほどお話しされていた龍の加護って、何のことでしょう?」

「あ、ああ。君たちはこの国の人ではないんだな。アステリスク国では、有名な話さ。この国にははるか昔、建国当初から龍に護られてきたという伝承がある――」


騎士が語ってくれたおとぎ話のような昔話。

聞いた内容を纏めると――


アステリスク国は元々、小さな人間の集落だったらしい。

広大な大森林がすぐ隣に存在し、凶悪な魔物が跋扈する世界で、人々は常に脅威にさらされてきた。

普通なら、矮小な人間はすぐに駆逐されてもおかしくないほど厳しい環境。

だがある時、一人の村娘が大森林に住まう龍と心を交わす。

何があったのか詳しくは伝わっていないが、その時より龍は大森林の魔物を支配し、人々に被害が及ばないようにした。

脅威は失せ、豊かな恵みだけを享受することで国は栄え続けたという話。


「……なるほど。お話しありがとうございます」


俺は騎士の少し長い話に礼を言いながら、思案する。

龍はロゴスのことを指しているのだろうか。

人型になった彼は俺たちに鱗を渡した後、確か「魔力伝搬を再度構築する」と言っていた。

あれは魔力による支配を、という意になるのかもしれない。

こうなるとますます、龍の鱗をギルドに預けてしまったのが悔やまれた。


「朝の会議はここまでとする。各自負担を強いるが、引き続き巡回を頼む。私も『深紅の鷹』の冒険者を少しでも借り受けられないか、今日にでも宰相にかけあってみるつもりだ」


俺が自身の考察に耽っている間に、ガウェインは会議の終わりを告げ、締めの言葉を放つ。

各隊の騎士たちは重い体を起こし、皆ぞろぞろと部屋から出て行った。

残されたのは、俺とガウェイン、そしてついに机に涎まで垂らし始めたフネだけとなる。


「オサムさん。もう少し時間いいかな?」

「はい。大丈夫ですよ」


どうやら俺たちを会議に呼んだのは、ここからが本番のようだった。




「もう十分理解してもらってると思うが、我々は今かなり人手不足だ」

「そのようですね。ガウェインさんが苦労されているのは、今の会議の様子だけでも……」


俺の言葉に、ガウェインは伸びた顎髭をかきながら苦笑する。

昨日よりもさらに伸びた髭と、目の下のクマを見る限り、満足に寝られてないことは想像に難くない。


「恥ずかしい限りだが、隊長格の取りまとめとして力不足を実感している。だが何より優先されるのは国民の命だ。巡回の頻度を減らすわけにもいかない」

「……」


俺の脳裏に先日の光景が頭をよぎった。

魔物の襲来で、簡単に人命が損なわれるという現実が、この世界でのリアルだ。

俺は難題を押しつける時のきまずそうな顔をしたガウェインに、少し表情を和らげ口角を上げる。


「なるほど。ということは、巡回以外の頼みごとがあるというわけですね」

「オサムさんは、察しが早くて助かる」


ガウェインは少しほっとしたようにそう言いながら、一枚の紙を手渡してきた。

手に取って広げると、どうやら地図のようである。


「ノアール大森林を記したものだ」

「この印がついているところは、何でしょうか?」

「我々騎士団は、魔物が街を襲うようになってしばらくしてから、原因を調査するために森に何度か踏み入った。印は普段人間が立ち入る範囲には生息していない、凶悪な魔物が出没したところを示している」


ガウェインの説明に、俺は印のついた位置にざっと目を通した。広大な大森林と国の領域の境界側に、複数の印がついている。


「もちろん森林の全域は調べられていない。襲撃の回数が増えるにつれ、調査に人手を回せなくなったからな」

「分かりました。俺たちで、この調査を継続すればいいんですね」

「ああ。是非お願いしたい。ただ巡回も手伝って欲しいので、かなり無理をさせることになるが……」


申し訳なさそうに、頭を下げて頼むガウェイン。

ダブルワークならぬ、トリプルワークということになりそうだったが、俺にとってもこの依頼は自身の考察を進めるために重要だった。


「私もやるよ」


俺の承諾の答えより早く、きっぱりとした声が部屋に響く。

いつのまに目を覚ましたのか、机から顔を上げたフネが会話をする俺たちを真っすぐに見つめていた。

双眸を光らせ、彼女は言葉を続ける。


「なんだったら、森の魔物は私が全部ぶっ倒す。外だったら魔法も使い放題だよね、オサム」


その言葉が冗談でないことは、真剣な眼差しが語っていた。

だから俺は、しっかりと釘を刺しておく。


「魔物を倒すのはいいが、今回は原因の調査だ」

「……」

「根本原因を解決しないと、不具合は何度でも繰り返す。だから俺たちでまずはそれを探ろう」


こうして俺たちは新たな目的地――ノアール大森林へと足を向けたのだった。

ルートコーズ=根本原因


ルートコーズは何ですか?って、それが判明してたら、もっと良い報告ができてるんですが。というお話


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