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夢図書館  作者: パン田
17/19

想定外

翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しく、俺は自然と目を覚ました。時計を見ると午前8時を少し過ぎていた。


「あれ……?」


俺は混乱していた。昨夜、覚悟を決めて眠りについたはずなのに、俺は自分の部屋のベッドで、いつもと変わらない朝を迎えていた。司書になった感覚もない。 体も、精神も、いつも通りだ。夢図書館で司書として働いているはずの俺が、なぜここにいるのだろう。


「なんでだ……?失敗したのか?」


俺は慌てて枕の下を確認した。四葉のクローバーの栞は確かにそこにあった。それなら、なぜ計画通りにいかなかったのだろう。月原さくらの本を延滞したはずなのに、ペナルティが発動していない。


首を傾げて考え込んでいると、階下から慌ただしい声が聞こえてきた。


「美咲!美咲、大丈夫!?」


母さんの悲鳴のような声に、俺の心臓が跳ね上がった。ただならぬ緊迫感を感じ取り、俺は慌ててベッドから飛び降りた。足音を立てながら階段を駆け下り、リビングへ向かう。


そこで目にした光景に、俺は言葉を失った。床に意識を失って倒れている美咲と、顔面蒼白で震えている母さんがいた。美咲の顔は青白く、まるで深い眠りについているかのようだった。


「母さん!どうしたんだ!?」


俺が駆け寄ると、母さんが震える声で答えた。


「美咲が全然起きてこないから、起こしに来たんだけど、何度呼びかけても返事がないの!」


母親の目には涙が浮かんでいた。俺はすぐに美咲の側にひざまずき、様子を確認した。


「――っ!?」


その瞬間、俺の頭にある最悪の可能性がよぎった。何かの「代償」が、美咲に降りかかったのか?俺がさくらの運命を変えようとしたことの影響が、無関係な美咲に及んでしまったのか?


俺は美咲の手首に触れ、脈を確認した。脈は規則正しく打っている。胸に耳を当てると、呼吸も正常だった。外見上は健康そのものなのに、意識だけが戻らない。


「母さん、とりあえず救急車を!」


俺は冷静さを保とうと努めながら、母親に救急車の手配を促した。母親は震える手で電話をかけ始めた。


救急隊員が到着するまでの時間が、俺には永遠のように感じられた。美咲の頬を軽く叩いても、名前を呼んでも、一向に反応がない。まるで深い眠りについているかのような表情で、安らかではあったが、それがかえって不気味だった。


「意識はありませんが、バイタルサインは安定しています。とりあえず病院で詳しく検査しましょう」


救急隊員の言葉に、母親は必死にうなずいた。


「私も一緒に行きます」


「お母さん、俺も——」


「悠馬は怪我もまだ治ってないし、家で待っていて。何かあったらすぐに連絡するから」


母親の言葉に、俺は歯がゆい思いを抱えながらも頷くしかなかった。


数分後、母親と美咲が救急車で搬送されていった。サイレンの音が遠ざかっていくにつれ、家の中は静寂に包まれた。俺は呆然とリビングに立ち尽くしていた。


「一体何が起こったんだ……。夢図書館の影響なのか……?」


罪悪感が俺の心を締め付けた。もしかすると、俺が運命を変えようとしたことの代償として、美咲が巻き込まれてしまったのかもしれない。


混乱する頭を整理するため、俺は自室に戻った。机の上を見ると、昨日まで確かにそこに置いてあったはずの『月原さくらの本』がない。


「まさか、陽平がもう来たのか?いや、連絡はないし、栞もここにある……」


俺は部屋中を探し回った。ベッドの下、本棚の後ろ、クローゼットの中。しかし、どこにも月原さくらの本は見当たらなかった。なぜ本がないのか分からず、胸騒ぎが止まらない。


もしかすると、本が消えたことと美咲の状況には何らかの関係があるのかもしれない。しかし、夢図書館は深夜にならないと行けない。焦る気持ちを抑え、俺はただ夜が来るのを待つしかなかった。


美咲に何かあったのは、俺のせいなのかもしれないという罪悪感が、じりじりと心を蝕んだ。時計の針が進むのがこんなにも遅く感じられるのは初めてだった。


夕方になって、母親が病院から帰ってきた。疲れ切った表情で、リビングのソファに座り込む。


「美咲はどうだった?」


俺の問いに、母親は力なく首を振った。


「入院することになったの。CT検査もMRI検査も受けたけれど、どこにも異常は見つからなかった。血液検査も正常値。でも、意識だけが戻らない状況で、医師も困惑しているみたい」


母親の声は震えていた。


「原因不明の意識障害ということで、とりあえず様子を見るしかないらしいの。でも、呼吸も脈拍も安定しているから、生命に危険はないって」


「そうか……」


俺の心の中では、一つの仮説が確信に変わった。これは医学的な問題ではない。夢図書館に関係している。俺が夢図書館の司書になり、今の美咲の状態になる予定だった。しかし、なぜか美咲がそのような状態になっている。ということは、運命の代償でこのような形になったと考えられるのではないだろうか?


俺はその事実を確認するべく、改めて夢図書館に行く決意をした。


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