桜井コデット、したたかさを見せる
コデットの後に続いて、路地とも言えないような家と家との隙間を通り抜けていると、アリシア自身もまるで人間の子供になったみたいな感じがして、むしろ楽しいような。
『すごいです。なんだかとても凄いです。顔が勝手に笑顔になってしまいます』
そんなことを思いながら、コデットを追う。
コデットはコデットで、身につけた可愛らしいワンピースが汚れることさえ全く厭わずに、ぐいぐいと先へと進んだ。
さすがにそれについてはアリシアも気になってしまって、
「お洋服が汚れてしまいますけど大丈夫ですか?」
と尋ねる。するとコデットは、
「へーき、へーき! 慣れてるもん!」
それは果たして叱られ慣れているということなのか、はたまたごまかすことに慣れているということなのか。それがどちらにせよ、コデット自身はまるで意に介していないというのは間違いないだろう。
『思った以上にお転婆さんなのですね』
そんなコデットの様子に、アリシア目を細めていた。
そしてアリシア自身、子供だったことなどないはずなのに、まるで子供の頃に戻ったような気分にさえなっていた。
『本当に不思議な気分です』
そんな事も思いつつ、同時に笑顔もおさまらない。
そして、先へ先へ。未知を目指して。
でもそこに、
「こらあっ! またお前か!」
突然の怒声。さらに、
「そこは通るなと言っとるだろうが!」
声の方に視線を向けると、住宅の2階の窓から身を乗り出し、二人を睨みつけている、いかにも頑迷そうな、やはり高齢の男性の姿が。
住宅の隙間を通り抜けるなと言っているのだろう。
ただしこれは、その高齢男性の方に道理のない話ではある。何しろ二人が通っているのは、あくまで<公共スペース>。道路としては整備されていないものの、無理なく通行するだけであれば、それを咎められるいわれはないのだ。なにしろこのスペースは、火災などの万が一の際に、消防隊員などが通ることも想定されているのだから。
それどころか、その高齢男性の住宅が<公共スペース>にはみ出した違法建築なのだから、実際に法律上咎められることがあるのは、むしろその高齢男性の方である。
「ごめんなさ~い!」
アリシアは思わず声を上げたが、コデットはそれこそ高齢男性に向かって、
「べーっ!」
舌を出して見せた。実にしたたかな少女である。自分にこそ道理があることを分かっているのだ。
そしてその高齢男性自身も、本当はそんなことを言える立場にないのが分かっていて、ただ単にそうやけ怒鳴るだけにとどめているというのもある。
コデットがどこの子供かは知っているものの、直接苦情までは言いには行かない。話を大きくして不利になるのは自分の方だということを知っているからだ。




