欲深な人間、触法行為を繰り返す
ただそうして走り出したのはいいが、その隙間はとても狭く、成人女性とそう大差ない体格のアリシアには、なかなか厳しいものがあった。
幸い、その部分は、個人の敷地の境界線でトラブルが発生することを予防するためにあえて設けられた<公共スペース>だったため、ロボットであるアリシアも立ち入ることができた。もしそこが個人の敷地であれば、権利者の承諾なしにロボットが立ち入ることは一切できない。人間の遵法精神とはまた別の、厳格な機械的制限である。
かつて地球では、個人所有の土地の境界線が完全に接していたことにより、その境界線をめぐってトラブルが頻発した。それを踏まえ、<都市としてのJAPAN-2>においては、土地を分譲する段階で、個人所有が認められることのない、幅五十センチの<公共スペース>を設けることによって、個人の境界線同士が接することのないようにし、境界線をめぐるトラブルが個人間で発生することのないように対策が行われた。
それでも人間というものは欲深なもので、住宅の建て替えなどの際に、DIYという形で、壁の厚みの分だけでも住宅内の空間を広げようとして、公共スペースにはみ出す形で建て替えや改築をする者が後を絶たず、本来は五十センチあるはずの隙間が実際には四十センチもないという場所もあった。
しかも専門の業者に任せるとさすがにそのような形での建築は請け負ってくれないので、DIYという形になるというわけだ。とは言え、個人所有のロボットであっても、触法行為を手伝わせることはできない。
が、これにさえ<抜け道>はあり、例えば、<仮置き>という名目で、ロボットに、仮組みした壁の壁材を公共スペースの部分に立てさせておく。で、ロボットの電源を落とし邪魔をさせないようにして、その後は人力で住宅の躯体の骨組み部分と連結させる。
というような手口が多いらしい。
これはれっきとした違法行為であり、明るみに出れば過料ないし罰金もあり得るものの実行する者は後を絶たず、結果として、隣家との間が四十センチにも満たないという場所も少なくなかった。
特に、こういう開発初期に作られた街には、そういう事例が数多く見られる。<都市としてのJAPAN-2>のいわば行政を担当する<総務部>も頭を悩ませている大きな問題だった。
とはいえ、所有者がその住宅を手放した時に<JAPAN-2>が一時的にその住宅を管理することになるのを利用して取り壊し更地にするなどの形でしか対処できないのが現状ではある。
コデットに続いてその隙間をかろうじて通り抜けるアリシアはロボットなのでそれこそ人間を非難するようなことを口にすることもできず、ただ苦笑いを浮かべながらコデットに引き離されないようにするのが精一杯だった。
でも、不思議となんだか悪い気分じゃなかったのだった。




