第一章 3 『赤髪の少女の憂鬱』
この感情を表すのにふさわしい言葉は何なのだろう。小柄で端正な顔立ちをしている赤髪の少女は今日も部屋で一人、太陽が夜に沈む姿をその太陽色の瞳で見つめている。
なにも代わり映えのない、退屈で平穏な毎日。それをやっとの思いで手に入れて、今宵も一人、闇夜に沈む太陽を見つめるはずだったのだが…
「アイネ~!また、新しい魔法を覚えたんだ!今度は火属性だぜ!」
また、この男だ。赤髪の少女の平穏を平気で壊す男。この男はここに来る途中、森で瀕死の状態だったらしいのだが、これまた教会の中では新入りであるユーノーに命を救われ、教会の長であるディルムットに気に入られ、この屋敷で生活しだした。
まぁきっかけを作ったのは彼女自身なのだが。
かといって、何故こんなにもこの男が自分との関わりを作ろうとするのか赤髪の少女、『アイネ』は不思議でたまらなかった。
「なんど言ったら、あなたは分かるのですか。リュウセイくん。私は貴方などと、いえ、この教会の人間とも気安げに関わる気はありません。貴方もう一週間も続けて私の部屋を訪れて…」
「そーんな、固いこと言うなってお前の代わりに騎士団にも顔出してんだぜ。神の奴から理不尽な扱いをされたもの同士、仲良くして行こーぜ!」
赤髪の少女が、孤独で居ることが出来なくなったのは『アイネ』という少女の太陽が動き出したのは、きっとあの日から…
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「それは私の天力が説明してくれるでしょう。」
赤髪で小柄なこれまた可憐な少女が部屋に入ってくるなり、いの一番にそう言った。まず天力というものが、なんなのかリュウセイは分かっていないのだが。
「これは、また珍しい。君が自分から私たちに姿を見せてくれるとはね。」
「ディルムット、今はそんなことを言っている場合ではないでしょう。」
二人がそんなやり取りを交わすと、赤髪の少女はゆっくりとした足取りでリュウセイの方へ進み、リュウセイの折れた手足に暖かい光を当て、まず手始めにといった感じでリュウセイの全身の骨折を治して見せた。
「お、おぉ!ずげぇ!もう手足が動かせる!ありがとうな!えーと名前をまだ、聞いてないな。俺はリュウセイ、クロキ・リュウセイだ。」
「別に貴方の名前を知りたいとも思いませんし、私の名前を貴方に教える気もありません。それと動かないでください。」
なんとも冷徹に自己紹介を無視されるリュウセイだったが、ディルムットとオリビアとアイラに最大限の警戒をされている今、いつ排除されてもおかしくはない。それを救ってくれた彼女には感謝した方が良いのかもしれない。
「それで、この男の『天力』はなんなのですか、アイネ様。」
「なんなのですか、アイネ様」
が、オリビアとアイラの息の合った、悪意の籠った質問によって赤髪の少女の名前が『アイネ』だということが分かった。
「それを調べるだけなら、ディルムットにも出来るでしょう。私が知りたいのは少し違います。それでは早速…」
そう言うとアイネはリュウセイの胸に手を当て、更に強い光を彼女の手から彼の胸に流し込んだ。
「太陽神の部屋」
暖かく優しい白い光が、リュウセイの前に現れ、少しずつ形になる。辺りは全て白。誰かの声が聞こえる。どこか懐かしい声だ。その声は近いようで遠く、遠いようで近いそんな声がした。
「っ!どうして…ですか。貴方はどうして…」
今一度覚醒する意識の中でリュウセイが見たもの、それは少女の頬をつたう涙で、それを拭ってやろうと伸ばす手は届かなくて、ただ少女の蒼色の瞳に映る雫に景色がぼやかされるのを待つだけであった。
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リュウセイがもう一度目覚め、現実に、この異世界を現実というには些か問題があるが、現実に戻ったとき、そこには貴族風の男と金色の髪の美少女、そして美女戦士コンビの四人が居た。赤髪の少女の姿はすでに無かった。
「あの、赤髪の子は?」
「アイネ様は部屋にお戻りになったわ。」
「そう…か。」
オリビアとそう言葉を交わすと、ディルムットがやれやれというジェスチャーをし、
「全く、扱いの難しい子だよ。結局君の『天力』を教えてくれただけで、彼女が君をわざわざ太陽神の部屋に招いた理由は教えてはくれなかった。」
「太陽神の部屋ってなんだ?それと『天力』ってなんなんだ?」
この世界に来てからずっと疑問だった。『天力』とはなんなのだろう。というかリュウセイがこうして教会を訪れたのも、半獣の男に自分の『天力』を知るためにと勧められたからだ。
「そんなことも知らないなんて、育ちが悪いにも程があるわ。」
「まぁ、人それぞれでしょ。」
相変わらず、辛辣なオリビアと表情も反応も薄いアイラ。しかし、ディルムットはそんな二人を見て、
「育ちの悪さだったら、二人も負けてはいないよ。」
と、悪戯な笑みを浮かべ微笑み、
「それでは『天力』について説明しましょーか!」
と得意気に腕を組み、頷いたのであった。
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まだ、赤髪の少女の太陽は昇らない。しかしあの日、あの瞬間から、あの男が少女の太陽を動かし始めたのではないか、少女は闇夜に落ちる太陽を見つめながら、そんな期待を胸に抱くのであった。




