第一章 2 『貴族風の男と美女達の猜疑心』
また、知らない場所で目が覚めた。失った意識が段々と覚醒し、ぼやけた視界には一つの人影と見慣れない景色が広がっている。自分の四肢が自由に動かない感覚を覚えると共に拘束はされていない自分の体を見て、全身の骨が折れているのだと気付かされた。出来ることなら気づきたくなかったのだが。
「あ、ねぇ起きたの?大丈夫?あなた一人で森で倒れてたのよ。」
まだ、視界はぼやけている。だが、その世界を包むモザイクがクリアになって行くのと同時に声の主が目の前に現れると、リュウセイは思わず息を飲んだ。透明感のある白い肌、一切のうねりなどない金色の長髪、そして見つめていたら吸い込まれてしまいそうな蒼色の瞳。人知を超越する美貌を持つ少女、『ユーノー』である。
「あ、私はユーノーよ。治癒魔法師をやっているわ。貴方を治療したのも私よ。ほら、貴方も自己紹介して。」
「まーまーユーノーくん、彼もまだ状況を把握できてないんだーよ。」
特徴的な喋り方をする細身長身の男が部屋に入ってくるなり、絶世の美女から一方的に質問を受けるリュウセイに助け船を出した。
「あ、いやそうだな、とりあえずは助けてくれてありがとう。俺はクロキ・リュウセイだ。俺はこの森に『教会』を探しに来たんだ。」
「失礼しますユーノー様、ディルムット様、私たちからもその怪しい男に尋問と拷問があるのですが、よろしいでしょうか。」
と言って、またしてもスタイル抜群の美人が二人部屋に入ってきたのだが、いきなり物騒でいて失礼な事を口走るので、リュウセイの全身の血の気が一気に引いた。
「いや、待てよ。モデル美人に罵倒し拷問されるってもしや最高なんじゃ…?」
下らない妄想と願望と性癖が口から漏れるリュウセイだったが、まもなくモデル美女の二人、オリビアとアイラによる恐ろしい尋問が始まろうとしていた。始まろうと、していた。
「まず、貴方は何者?簡潔に答えなさい。それと嘘をついても無駄よ。今さっき貴方に私の『天力』(真実の炎)を発力させたわ。偽りを口にすれば一瞬で火だるまね。」
明るい朱色の長い髪を後ろで纏めたモデル体型の美女、『オリビア』が綺麗な顔に似付かない物騒な言葉を口にしてリュウセイに問う。お前は何者なのだと。
「…えぇ何者なの?」
表情の薄い、茶髪ショートの小柄な少女、『アイラ』が落ち着いた声で怪しい男に問う。お前は何者なのだと。
身長が百七十センチ近くあるオリビアと身長百五十センチほどのアイラは姉妹にも見えなくはないが、精神的な落ち着きという点ではアイラの方が大分大人だろう。
しかし、どう説明すればいいのか。朝目覚めると別世界で、毛むくじゃらの半獣の男に教会を目指し、森に行くことを進められ、そこで怪物のような象に襲われたなんて、誰が信じてくれるのだろうか。
「君はこの森に『教会』を探しに来たと言ったね。え~となにくんだっけ?」
特徴的な喋り方をする赤みがかった茶色の長髪を後ろにまとめた貴族風の男、『ディルムット』がなにか見透かしたような、そんなような瞳でリュウセイに問う。
なにから説明しようか、しかし誤魔化したところでこの男には見透かされていそうだし、なにか『天力』?というもので身を焼かれるらしい。だから俺の出した答えは…
「リュウセイだ。俺の名前はクロキ・リュウセイ。俺はここら辺の人間じゃないんだ。そんでもってあんま知ってることも少ないもんで…教会には、俺を介抱してくれた男の紹介でな。」
直球ストレートで、というよりは少し説明は誤魔化したので変化球勝負に出た。体は…燃えてない。セーフということだろう。
「そうかい。まぁ怪しい者じゃあなさそうだね。じゃあ手始めに君のて『天力』と魔力量でも…っ!」
「まぁ…燃えてない点、とりあえず嘘はついていないみたいね。まぁこの男には知ってることを全て吐かせたあと、雑用でも…ディルムット様?」
『ディルムット』と名乗った貴族風の男の表情が強張るのを感じて、オリビアは言葉を止めた。その表情から伺える心情は読み取る術は生憎ここにいる全員が持ち合わせていなかったが、困惑、驚愕、そして疑問、その三つであろう。
「き…君は何者なのだよ。その魔力量はなんだ。並の人間がもって生まれられるような物じゃない。君は一体…」
ディルムットが何者なんだ。という前にもしくはそれに被せるように扉が音をたてて開いた。そこに立っていたのはアイラよりも小柄な赤髪の少女で、ゆっくりと一歩一歩こちらまで歩み寄り、言った。
「それは私の天力が説明してくれるでしょう。」




