第一章 4 『神様がくれた物』
リュウセイが教会に、この世界に来てから三週間が経った。が、今のところ元の世界に帰る術は見つからずにいる。というか、それを探す時間があまり無いのが問題なのだが…
教会に来てからというもの、朝は掃除、昼も雑用、夜は魔法の手解きをディルムットから受ける。この合間の時間を上手く活用し、元の世界に帰る方法を探っているのだが、なかなかというか全くヒントすら見つからない。
もう腹を決めてこの世界で生きていくしかないのかと、弱気になってしまっているのが最近の現状だ。
「神様!俺に厳しすぎるだろ!せっかくくれた『天力』も上手く使えないしよー!」
「うるさいわね!黙って掃除しなさい!」
リュウセイがそんな弱音を吐くと、オリビアがそう厳しく叱咤する。そんないつもの日常が今日もただ過ぎていくだけだった。
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「それでは、私ディルムット・マクリルが『天力』について説明しましょう。まず、この世界では生物的な強さを現す三つの力、『天力』、『魔力量』、『生物命量』がありまーす。前の二つは生まれつきの素質や種族によって大きく左右されます。して、『天力』とは何かですが、『天力』とはその名の通り、生物が生まれつき持って生まれる特別な能力だよ。例えば、オリビアの真実の炎や私の先見の明この世界の人々はこの『天力』を活かして、商売や戦闘をしているんだよ。そして、一定数この『天力』を見極められる者が存在する。そして私とアイネもその一人だね。」
何とも、ファンタジーに富んだ世界観だ。いわゆる先天的に身に付くスキルというやつだろう。だとしたらリュウセイの『天力』とは何なのだろう。
いや、過度に期待するのはよした方が良いだろう。大抵こういう時、異世界転移系の主人公はろくな力を与えられない。きっと薪割りが楽になるとか、洗濯が速くなるとか、そこら辺だろう。
そんなに上手い話があるはずが無いのだ…
「なんとなく分かったぜ。それで俺の『天力』ってなんなんだ?」
覚悟を決めて、リュウセイは問う。どんな返答が返ってきても目標は変わらない。大丈夫だ。そうリュウセイは自分に言い聞かせ、返答を聞く準備を固めた。そして…
「君の『天力』は黒炎、そして…黒龍だね。」
「『天力』を二つ持って!?…それに黒龍って…あなた何者なの!?」
「やはり、怪しいと思っていた生かしてはおけない!!」
「…」
困惑するユーノーと、自分を始末しようと剣に手を掛けるオリビア、そして黙って自分を見つめるアイラ。三人三様な反応を見せる彼女たちだったが、当の本人は事の理解が追いついておらず…
「お、おい。ちょっと待ってくれよ。何をそんなに…」
「とぼけるんじゃないわよ!黒魔法の『天力』を…それがダナ地母神族である何よりもの証拠でしょ!」
「オリビアちょっと待ってよ!まだそうと決まった訳じゃないでしょ!」
と、剣を抜こうとするオリビアをユーノーが制止するが、腕を掴むが、オリビアは収まらず、
「父様の敵!死になさい!!」
「おいおい!待ってくれよ!話せばわか…」
言いかけたところで、オリビアが剣を振りかざし、リュウセイを切り裂く…前にディルムットが剣の歩みを止めた。
「待てと言っているでしょうが。オリビア。」
そうディルムットが言うと、やっとのことでオリビアの興奮が収まった。
「申し訳ありません。ディルムット様。取り乱してしまい。」
そう言って、一つ深い深呼吸をして、少年の瞳を憎しみに満ちた瞳で真っ直ぐ見つめ、
「今一度問う、クロキ・リュウセイ。貴様はダナ地母神族の関係者か…?」
真剣で偽りの感情の無い表情、そして耳馴染みの無い単語。もう疲れた。正直やめてほしい。が、少女の憎しみと悲しみに満ちた表情に、少年は息を飲んで、
「それが何かはわからない。が、俺は君の、君の大切な人の敵ではないよ。敵意も無い。なにも知らない俺が確かに言えることはこれだけだ。」
真剣な問いに真剣な答えを、少年は偽りの無い瞳で彼女の瞳を真っ直ぐ見つめ返し、そう答えた。
「そう…真実の炎が反応しないのが全てよね。悪かったわね。取り乱して。」
「いや、良いんだ良いんだ。分かってくれれば。」
そうクールな装いを見せるリュウセイだったが、内心は焦りまくりで、脱水しそうなくらい冷や汗をかいていた。
「まぁまぁ、これから同僚になるのだからーね。二人とも仲良くしてね。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、二人揃って驚きの声を挙げるリュウセイとオリビアを傍らに思惑の読めない笑みを浮かべるディルムットが悪戯に鼻をならし、怒涛の一日をまとめたのであった。
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思えば、これがオリビアとのファーストコンタクトだったな。そんなことを考えながら今日も日課の掃除をするリュウセイとオリビアだったが、まだ仲は深まらないようで…
「クロキ!ここの雑巾がけが甘いわ!今すぐやり直すわよ!」
「ここで手伝ってくれるのが、お前の優しさだよねぇ。ほんっとに。」
かくして、クロキ・リュウセイの教会での生活が始まったのであった。




