34.同盟の約束
ブクマ有難う御座います。
「シアさ、それ本気で言ってる?」
目を細めてジッと見てくるシュウは不機嫌そのもの---- 怒っているのかは分からないけど、初めて見せる表情に冷や汗をかく。
でも何度問いかけても出てくる答えは(助けたい)だった。同じ歳であるハインの弟の事を思うと苦しくなる。それに----
「そ、そうだよ。ハインに治療を頼まれてついてきたんだ」
「ハア。よくそんな事いえるね---- バルト! 一時休戦! ねえシア、ハインってその男の名前?」
「うん----」
「ハインでいいか。シアに守られてないでちょっと外に出てきてくれない? 男としてあり得ないでしょ」
「その通りだな。言い返す言葉もない」
「シアも降りるよ。ったくこんな状態で良くついて来ただなんて言えるよね」
シュウは私の手首を掴み細剣で縄を切ってくれる。隠していたつもりだったが気付かれていたようだ。馬車を降りると第一騎士団の人達とコーサさんの姿が見え、少し離れた場所にバルトさんが立っていた。
バルトさんと目が合い心が揺れる。どうした? といった目で私を見つめてきたからだ。
------ バルトさんと話したい。私の気持ち分かってくれるかな。今の距離がもどかしい----
砂漠ではないものの、乾いた土が舞い照りつける太陽は強いまま。建物は少なく街とは離れた場所にいるようだ。
「皆有難う、シアは無事。ちょっとこの男と話したいから近くの街に移動したいんだ。シアも疲れてるだろうしね」
「承知しました」
「シアは僕と一緒ね、君達はどうしようか----」
「リリーだけは解放して欲しい。無関係だ」
「坊ちゃん!」
「ふーん、良いよ。何処にでも行って」
「リリー、ロアンを頼む」
「坊ちゃん---- 必ず迎えに来て下さいね」
「------」
リリーさんは涙をハンカチで拭きながら元いた馬車へと引き返して行く。その後ろ姿を見送っていたハインへシュウが後ろから言葉をかけた。
「大切な人ならさー、もっと大事にするべきだと思うよ。こんな事に巻き込んだりして馬鹿なの?」
「---- そう、だな」
「案外素直だね。まあいい、行くよ」
ハインとルイスは私達と違う馬車に乗せられ、コーサさんやバルトさんが同行するようだ。バルトさんと再び目が合い頭を下げた。
---- ごめんなさい。
「シア、王族は簡単に頭下げたら駄目」
シュウに押し込まれるよう乗せられた馬車は、ふかふかのクッションが用意されており座り心地が凄く良い。柔らかな感触と馬車の揺れからついウトウトしてしまい、緊張感もなく船を漕いでしまう。
「シアさあ、気が緩んでるのは分かるんだけど、ちゃんと説明してくれない?」
シュウの言葉にハッとし姿勢を正す。先程の表情を思い出し顔を見るのが怖くなってきた。
---- 絶対怒ってるよね?
チラリと見れば柔らかく微笑んで私をジッと見ている。怒り顔よりも怖い微笑みにドキドキが止まらなくなった。
------ 怖いっ。怒り顔より微笑まれる方が怖いって初めて。そういえば私、シュウに謝ってない---
「シュウ、ごめんなさい」
「謝らなくていいよー。それより何であんな事を言ったのか早く教えてよ」
「------ あのね、助けたくなったの。ハインの弟を」
「弟? 第二王子なんかいた?」
「シュウ、ハインが誰か分かるの?!」
「あのさ、シア酷くない? 顔と名前を聞けば分かるよー、それにあの青い瞳を見ればどこの国か想像つく。僕のようにね」
「青い瞳? 綺麗だったけど関係あるの?」
「ジルバ先生の話ちゃんと聞いてた? サザン連合王国の王太子はブルーダイヤのような瞳が特徴って言ってたじゃん。あんな綺麗な色は中々いないよ」
そうだったかな---- どうしよう覚えてない。
「シアらしいというか---- それで何処から弟が出てくる訳?」
ハインから説明された内容をシュウに伝える。シュウが怖くてドギマギした話方になってしまったが何とか話す事が出来た。
「そう。シアはハインに同情したんだね」
シュウは短く息を吐いた後、私の手を握り真剣な眼差しを向けてくる。
「覚えていて欲しいんだけど、ハインはサザン連合王国の王太子だよ? 同情も良いけど、王族である以上シアも国の為に頭を使うべきだね」
「どう言う事?」
「同情は悪い事じゃないよ。でもさ僕達王族は誰の為に存在して、誰の為に生きてる? 国民だよ。彼らに生かされてる以上、国民の為に少しは考えて動かないと」
------ 国民。王族である責任をジルバ先生やシュウから教わっていたけど、自分の事に精一杯で全然何も考えていなかった。
王族として生きるなら、これから先していかなくてはいけない事も増えてくるはず。自分の気持ちだけで動くだけではきっと駄目なんだ--- ちゃんと覚えなきゃ。
「ごめんなさい。でもどうすれば良いの?」
「そうだねー。まあ見ててよ、僕に考えがあるから」
ニンマリと笑うシュウは先程と違いどこかご機嫌だ。不機嫌な感じは消えそっと私の頭を撫でてくる。
「シアのおかげで楽しくなりそうだ」
------ どうしよう。これはこれで怖い。
ハインの事を心配しながらも、自分がこの先歩くであろう未来の事を考えた。街に着くまでの間、王族として自分らしく生きる為にはどうするべきか唯々問いながら馬車のクッションに身を委ねる。
シュウの段々と悪巧み顔になっていく横顔を時たま見つつ、乾いた土地は馬車が進む度に少しだけ変化していった。
*****
「シアを拐った理由は分かったけど、これからどうするつもりかなあ?」
大きな街に着き、立派な建物に入れば直ぐにシュウはハインとルイスを部屋に呼んだ。
足を組み柔らかく微笑むシュウと対面して座るハイン。意思の強そうな瞳は変わらず、おどおどとした様子もなく優雅に座っている。
「俺が謝るだけでは済まないのだろ?」
「そうだね。王太子である君がどんな答えを出すのか楽しみだよ」
「噂とは信じられないものだな」
「どういう噂を聞いてたのか知らないけど、早く答えを聞かせてよ」
「------ 今回の事は陛下に何も言っていない。まあ俺が居なくなっても分からない人だから気にもしてないだろう」
「ふーん。国は関係ないと言いたいのかな?」
「いや、今はとでも言っておこう。俺が王になった時償うというのはどうだ?」
「王になった時かあ。いつ頃になるんだろうね?」
「時間はかからん、陛下はもう歳だからな。そちらが出す条件を飲もう同盟を結ぶ約束ではどうだ」
「同盟は嬉しいね。どんな条件も飲んでくれるの?」
「---- 難しい内容に関しては話し合いをさせて貰う。私のせいで国を傾けたり民を死なす訳にはいかないからな」
「案外頭は悪くなさそうだね。良いよそれで、唯約束を果たせなかった時の事も含めて何か形にしてくれない? 口約束だけでは信じられないんだ」
「分かった。羊皮紙を用意してくれ」
「ハハッ。今用意させるよ。ビルドー」
「こちらに----」
「流石はビルドだなあ。感心感心」
シュウはハインの前に羊皮紙を滑らせ書くためのインクとペンを渡す。胸元から小さなナイフを取り出しハインの近くへ置いたが何故ナイフが必要なのか分からなかった。
静かな部屋の空間にはペンの動かす音だけが響き緊張感が伝わってくる。ハインがペンをテーブルに置いた後、シュウの胸元にあったナイフを手に取り親指に傷をつけた。傷口から血が出てきたと思うと、そのまま署名した場所へ親指を押しつける。
「これで満足だろう」
「証人としてそこの男のサインも書いてよ。どうせ将来的にも近くに置く予定でしょ?」
「---- ルイス頼む」
---- 凄い。よく分かってはいないけど、これで戦争を一つなくせた事だけは分かる。それに同盟といっても条件をこちらから出せる分、有利な立場に立ったと言えるだろう。
シュウはこういう流れになるって予想していたのかな---- 移動してる間に考えついたの?
「うん、これで間違いないね。大事に保管しておくよ。じゃあ明日からの事を話そうか、病気の弟くんはどこにいるの?」
「ここから離れた小さな街にいる。一日程移動すれば着く場所だ」
「そっ。シアは今日一日休ませるから。行き先には僕も同行するよいいね?」
「仕方あるまい。シュバルト殿下とシアには迷惑かけた。宜しく頼む」
「分かってるならもう許すよ。同盟も約束出来たしね」
「ああ、ゆっくり休んでくれ。俺達は部屋に戻る」
騎士に連れられハインとルイスは部屋から出て行った。部屋を出る際ハインと目が合い胸がドクンとする。
---- あんな目で人から見られた事ない。
求められているような、私に懇願するような眼差しは初めてだ。自分が誰かに強く求められた事などない。
誰かに愛されたらあんな風に目だけで気持ちが伝わるのかな----
バルトさんやセバスにもしあんな目で見られたりしたら------
「シアさ、ハインに惚れたとかはないよね?」
「えっ?!」
いきなりの事に胸がドキドキして顔が熱くなる。違うよと言いたいのに、考えていた内容を知られたくなくてつい顔を伏せた。
「あー、それだけはほんっとうにやめてよね」
シュウの言葉は部屋に響き渡り、私の耳にも強く入ってきた。
いつも有難う御座います!




