35.治療
「坊ちゃん!」
「心配させて悪かった。ロアンはどうだ?」
「坊ちゃんの事を心配してさっきまでそこの窓から外を見てたんですよ今は奥の部屋で横になっています」
「そうか。ロアンの所へ行こう」
リリーさんは涙を拭った後に私の顔を見て再び涙を流した。気を張っていたのだろう---- 目の下には隈が見え今にも倒れてしまいそうだ。
---- 何か声をかけてあげたほうがいいのかな。そう思いつつも何を言えばいいか分からない。
悩んでいるとシュウに肩を叩かれて首を軽く振られた。私が声をかけるのは違うんだ---- リリーさんにはよくして貰ったけど複雑な感情が今になって湧いてきた。
ハインの弟を助けたいと思う気持ちは変わらない。だけど---- 学園へ直ぐに戻ると約束したマリやカイ、それにセバスはきっと心配している。それに家族である皆やここまで来てくれた騎士達の事まで全然気が回らなかった。
バルトさんやコーサさんがいる方をチラリと見て胸が苦しくなる。私が皆へ出来る事、返せる事はなんだろう----
------ 本当にごめんなさい。
心の中で謝りながらシュウに続きハイン達が向かう方へ歩き出す。王女である自覚を持ち、迷惑をかけた事に謝るのではなく行動で示していかなくちゃ。
下がる顔を上げ背筋を真っ直ぐと伸ばす。歩き方や所作で人の価値は上がるとマーサから幼い頃言われた。昔はよく理解出来なかったけど、きっと今の自分には必要な言葉。自分の姿をしっかり周りに見せていこう----
さほど広くない廊下を進んで行くとハインが立ち止まり静かに扉を開けた。この部屋に弟がいるのだろう、ハインは扉を開けて少し中の様子を確認すれば口角を上げニッコリと笑顔を顔に貼り付ける。貼り付けたように見えたのは横顔に影がさし何処か悲しげだからだ。
「ロアン。心配かけたな、治癒師を連れてきた」
「兄さん? 無事だったんだね。リリーから聞いて心配してたよ」
「リリーは心配性だからな。大袈裟にロアンに伝えたようだ。何もないから安心しろ」
「ハハッ。リリーの心配性は昔から変わらないね」
「ああ、そうだな。リリーは初めて会った時から変わらん。ロアンに紹介しよう治癒師であるシアだ」
優しい声を出しながら会話するハインに近づき挨拶する為ロアンの姿が見える場所へ移動する。ドキドキとしながらロアンの姿を目にしたとたん涙を流しそうになった。
ベッドに横たわるロアンは同い歳とは思えない程小さくガリガリだった。筋肉がないのか足は痩せ細り骨しかないように見える。顔はまだ少しふっくらしていたが、頬はこけ二重の大きな目だけがキラキラと輝いていた。
こんな状態だなんて---- 想像したのと違う。どんな気持ちでロアンは生きていたんだろうか。ハインはこの姿を見続けてきたの?
------ 泣いちゃだめ。辛いのは私じゃない。笑顔、ハインのように笑顔にならなきゃ。
「は、初めまして。シアです、ハインから同い歳だって聞いたよ? 宜しくね」
「僕はロアン。シアが僕を治してくれるの?」
「ロアン。治癒師も万能ではないようだ。必ず治るとは言い切れない」
「そっか---- 仕方ないよね、僕は大丈夫だよ」
どうしよう。確かに万能ではないし、必ず治すとは言えないけどロアンを笑顔にしてあげたい。
「---- 私、出来る限り想うよ。必ずとは言えないけどロアンを治してあげたい」
「有難う。シアにそう言われて嬉しい」
「じゃあお願い出来るか? 何か用意するものとかあるだろうか」
「ううん何もいらない。ただ集中したいから少しの間二人きりにしてくれる?」
「---- 分かった。宜しく頼む」
皆が出て行くのを確認してロアンが横になっているベッドへと腰を下ろした。
「ちょっと質問してもいい?」
「いいよ、シアには治してもらうんだから何でも聞いて?」
「---- ハインから少しだけ聞いたんだけど、足が動かなくなったんだよね?」
「そう。最近は腕もこんな感じなんだ」
細い腕を持ち上げようと顔を歪めたロアン。震える腕をほんの少しだけ持ち上げたがすぐにベッドへ沈んでいく。
「ハハッ。調子が良い時はもう少し動かせるんだけど今日はダメみたいだ」
「---- お医者様からは何て言われてるの?」
「体がね、どんどん固まっていく病気みたいなんだ。最終的には眼球しか動かせなくなるんだって---- シアごめんね」
「えっ---- どうして?」
「兄さんはシアを無理矢理ここに連れて来たんでしょう? リリーから全部聞いたんだ」
「そう。でもさっき----」
「そうだね。兄さんはいつも僕の為を思ってああ言うんだ。今までも沢山無茶な事をしてきたって知ってるけど---- 僕の為にしてくれてる事だから」
「そう----」
「兄さんの代わりに僕が謝るよ。それに無理して治そうとしなくても大丈夫。辛いには辛いけど、僕には心配してくれる兄さんがいるし、リリーだっているんだ。幸せだよ」
ロアンは私を見て柔らかに微笑む。言葉通り幸せそうに笑うロアンは嘘をついていないようだ。
---- 凄いな。ロアンは自分の中に幸せを見つけてる。不安はある筈なのにどうしてこうも穏やかに過ごせているんだろう----
ハインとの関係が良いからかな。私にとってのマリなのかも知れない。
「私---- 最初は確かに無理矢理連れてこられて辛かった。だけど今は違うよ? ロアンを治してあげたくてここまで来たんだ」
「そう、なの?」
「うん。でもね病気の人を治した事はないし、治癒魔法は万能じゃないの。私に教えてくれた人からもそう言われてる」
「兄さんもそう言ってたよね。大丈夫だよ、治らなくてもここまで来てくれたシアの気持ちが嬉しいんだ」
「有難う。治せるか分からないけど治療させてくれる?」
「勿論! むしろ僕からお願いすべきだよね、シアお願い僕を治してくれる?」
「うん。手を握ってもいいかな」
ロアンの手を出来るだけ優しく取りそっと両手で優しく包み込んだ。肉のない華奢な手は強く握ったら壊れてしまいそうで少しだけ怖い。
イメージが大事だとセシルさんが言っていた事を思い出し、目を瞑りゆっくりと深呼吸をする----
どういう風にイメージすれば良いのか少し悩んだが、カイやセバス、シュウを思い浮かべる事にした。動く足と手、真っ直ぐと伸びる姿勢、そして生命力に溢れた肌。
皆のように自由に、そして思いのままに体を動かせるロアンの姿を想像させていく。カイやセバスと一緒に歩くロアンが見えてきて、二人に会いたい気持ちが湧き上がる。
今は違う---- 今は集中しないと----
再びイメージを膨らませていくと、ロアンが元気に地を駆け回り、ジャンプして馬に乗ったりする姿が見えてきた。
もう少し。
自分の中で納得が行くまでイメージさせていけば、ロアンの体は同い歳の男の子のような姿になり、想像するロアンの表情は輝きを増した。
治してあげたい---- イメージのようなロアンに会いたいの。
強く目を瞑り想いを強めていく。お願い---- ううんセシルさんが言ってたじゃない。テリーの時だってそう、私がロアンを絶対に治す!
体の中に巡っていた温かさが急に熱くなり掌から溢れ出した。目を開くといつもよりも白い光がキラキラとしていてとても綺麗だ。
輝く白い光は、ロアンの体が見えなくなる程溢れ体全体を包み込む。
---- 治れ ----
ロアンに空の下にある大地を今より感じさせてあげるんだ。私がそう強く想った瞬間、光は白から金色へと変わりロアンの体へ溶けるように入っていく。
---- いつもと違う。こんな色始めて。
初めて見る光景に不安を抱きつつも、ロアンの体に入って行く金色の光が完全になくるまで輝きから目を離せずにいた。
いつも有難うございます!
やっといつも見ていた光景に近い街の様子。
油断は出来ませんが、のんびりと外でお茶をしたり国内旅行へ行きたいですね。
また仕事の都合で更新が難しく、不定期で更新を来週からしていく予定です。宜しくお願いします。




