33.目的の後
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ふと目を覚ました瞬間、仮面の男の顔が私に向かって手を伸ばしていた。
「やっ----」
手でガードする様に顔の前へ持ち上げたものの再び手首が縛られ自由には動かせない。
「先程の威勢はどこに消えた。剣を突き刺してきたとは思えん」
愉快そうに笑う男を睨みつつ、馬車に乗り太陽の光が窓から差し込んできた。
朝だと気づき落胆する。どうやら意識を失いまた一日が経っているようだ。
「---- 今此処は何処?」
「砂漠は抜けた。ここから一日程で目的地に着く」
一日? そんなに早く隣の国へ着くのだろうか。授業で見た地図を思い出す。
サリーシャは連合王国の中心であり王都として栄えている為そこまで大きい国ではない。サリーシャの周りにある四ヶ国の方が各国毎に特徴的な生産があり、大きな国であると言っていた筈----
「目的地はナージにあるの?」
「本来であれば国を超える予定でいたが、そちらの優秀な部下とシュベルト殿下が来たので変更した」
仮面の男の話によれば、目的場所を幾つか用意し何か起きた時に直ぐ変更出来るよう計画していたようだ。
グウ〜 間抜けな事にお腹が音を立てる。こんな時にお腹がすくだなんて---- 恥ずかしくて仮面の男から顔を逸らした。
「ハッ。本当に面白い女だ」
「坊ちゃん! シア様、此方をどうぞ。あまり食事を取られてないと聞いて消化に良いものを用意しておきました」
「私の名前----」
「坊ちゃんから聞きました。本当に困った坊ちゃんで---- さっ早く召し上がり下さい。毒とかはありませんから」
「リリー、坊ちゃんはやめろ。俺はもう成人している」
「成人しても私からすれば坊ちゃんは坊ちゃんです! もう少し女性に優しく接してくだされば坊ちゃんと呼ぶのを辞めますわ」
「優しくしてるだろう。気を失わせたのはルイスだぞ? ルイスもリリーに何か言え」
「---- まあ、そうですね」
「ハア。もう少しマシな言い方は出来ないのか」
「------ 善処します」
---- 何だろう。凄く不思議な気分だ。
リリーさんがプンプンとした様子で仮面の男に説教し始める。差し出されたフルーツを少しずつ口に入れつつも様子を見ていたら、何だかリリーさんがセバスに見えてきた。
仮面の男はリリーさんに言い返す仕草や言葉が必死で、今までのような威圧感が段々と消えていく。ルイスという男はフォローもせず無表情のまま座っているだけだが、きっといつも通りのやりとりなのだろう。
三人の仲の良さが伝わってきて、マリ達といる温かさを思い出し涙が溢れてきた。
---- 帰りたい。皆と一緒にいたいよ。
「もうっ坊ちゃんが何も説明しないから!」
「------ すまん」
「謝らなくていいです。それより何が目的? 早く皆の所に帰して」
「目的が叶えば直ぐにでも解放しよう。それは約束する」
「だから何が目的なの?」
「------」
「坊ちゃん!」
「もう諦めたらどうですか?」
「ルイスまで---- 仕方ない。ああっくそ」
自身の頭を乱暴にかいたあと、仮面の男は紐を引きちぎるように顔を隠していた仮面を取っ払った。意識を失う前に見た青い瞳が現れ、整った顔立ちについ目を奪われる。
想像よりも美しい顔はどこか冷たそうな雰囲気だが、瞳は透き通っていてとても意思が強そうだ。
「拐った目的は他でもない。俺の弟に治癒魔法をかけてもらう為だ」
「弟?」
「そう。俺の大事な弟は原因不明の病のせいで歩けない。医者から治癒魔法なら治せるかもと言われてな」
「そんな---- 」
「弟の病は進行していて、足だけでなく腕が固まってきた。このままでは寝たきりになり命さえも危険の状態だ。ただでさえ自由もなく生きてきたのに、死を待ちながら生きるだなんて---- 俺にとって弟は唯一の家族、助けてやりたい」
-------- 家族。その言葉を聞いて、自分でも驚く程一瞬にしてこの男のとった行動が理解出来た。
私もこの男と同じ立場ならきっと必死になって治療法を探すだろう。治癒魔法でしか望みがないのなら同じ事をしていたと思う。
マリやカイ、セバスだったら? それにシュウだってそう---- 医者から治癒魔法ならと言われたら縋りたくもなる。
だけど---- 治癒魔法は万能ではないし、その事は理解しているの? もし治せなかったら? 悲しみから逆上されて殺される可能性だって全くないとは言い切れない。
「治癒魔法は何でも治せる訳じゃない」
「ああ。それは文献に書いてあったから理解してる」
「本当に? 書いてるのを知ってるだけじゃなくて、実際に治らない所を見ても同じ事を言える?」
「---- 俺の名をもって約束しよう。俺の名はハイン・デナ・サザン。約束は必ず守る」
----- まさか。
サザン連合王国の第一王子?! シュウと共に受けたジルバ先生の授業で聞いた名前だ。
「王太子である貴方ならサリーシャに手紙を出してくれれば済んだんじゃ----」
「平和条約も結んでいない国に貴重な存在を貸すと思うか? 俺なら絶対にしない」
「------」
何も言えない。今は戦争をしていないけど、いつ何が起こるか分からないからだ。タリジアで襲撃された後も、ジェーナ様がいたガバス連合王国以外とは小競り合いが続いていたと聞く。
サザン連合王国との関係はよく分からないけど、この男が言った言葉通りになるだろう。
「シア様。坊ちゃんは今では王太子ですが、貧困の街で育ったのですよ」
「リリーっ。それを言うな」
「いいえ、シア様にお願いするなら全て話すべきです。唯一の家族というのもその為。坊ちゃんのお母様は一座の踊り子で、弟は坊ちゃんを連れて逃げた先で生まれた子供です」
「お父さんが違うの?」
「そう----」
「リリー、その先は自分から話す。弟は母が逃げた先で結婚した相手との子供だ。しかし父親は弟が生まれて直ぐに事故で死んだ。三人で暮らしていたが母も働き過ぎで身体を壊し、俺が六つの時に死んでしまった」
「---- それからどうしたの?」
「俺達は孤児院に入れず路上暮らしを余儀なくされた。弟はその時まだ歩けてはいたが足が不自由でな、俺が下働きや盗みをしてどうにか生きていた。五年くらいそういった生活をしていた時、流行病で王位継承権を持つ王子達が死んでな。後は想像出来るだろ?」
「シア様。坊ちゃんがした事は許される事ではありません。それは分かっているのですが----」
「俺は路上生活でも笑顔で耐えていた弟に少しでも夢を与えてやりたい。弟は今十四、先がないなんて絶望でしかないだろ? 病が治れば色んな可能性があるし夢が広がる。勝手ではあるがお前が最後の希望だ」
真っ直ぐにぶつけられる青い瞳が、本当の事だと物語っている。澄んだ瞳は綺麗でリリーさんが言っていたこの男の純粋さが伝わってくるようだ。
---- どうしよう----
青い瞳から逃れられないまま自分の心に問う。色んな想いや感情が入り混じりながらも、出てくる答えはただ一つ。何度問いかけても同じ答えしか出てこない自分に戸惑いが隠せない。
私---- 言葉にして言うべきか悩み始めた時、急にガクンと馬車が揺れ体が前に倒れそうになった。
「大丈夫か?」
ハインの硬い胸元に抱き寄せられ顔を覗かれる。間近で見る彼の瞳は最初に思った時よりも綺麗だった。
「シアー! そこにいる?」
シュウの声が聞こえ窓へと体を動かす。窓にかかるカーテンを開けようとしたが、ルイスに阻まれ元いた場所に戻された。
「ハイン様。中からは出ないようお願いします」
ルイスが馬車の扉へ手を伸ばした瞬間、勢いよく扉が開きバルトさんが剣を構えたまま顔を覗かせた。
「見つけた。シア大丈夫か? 返して貰おう」
「バルトさんっ!」
「ハイン様、奥へお下がり下さい」
ルイスが剣をバルトさんへ突き刺しそのまま外へと出て行く。剣の音が響くように聞こえ緊迫した空気が中にまで伝わってきた。
バルトさんが来てくれたんだ。皆が助けに来てくれた事は嬉しい。でも----
「シア。やっと見つけたよー、無事で良かった」
「シュウ----」
「流石にさあ、もう諦めてくれない? 突然シアを拐うし逃げ回るしで僕も疲れたんだよね」
「諦める訳にはいかない----」
「ハア。君さあ一回外を見てみなよ。僕の騎士達が周りを囲ってるけど」
「---- ここまで来て、後少しだと言うのに」
「剣に手を添えるだなんてやる気なの? 仕方ないなあ---- 僕血を見るのは好きじゃないんだけど----」
細剣を手に持ちハインに剣先を向けるシュウ。このままではハインが殺されてしまう----
「まって!」
慌てて出した声は思っていたよりも大きく張り上げてしまったようだ。ハインとシュウの間に割り込み、ハインを庇うようシュウと対峙した私の顔を、珍しく驚いたのかまん丸に見開いた目で見てきた。
「シュウごめん。一回私の話を聞いて?」
「何? どういうつもり?」
私は緊張から喉を鳴らす。縛られた手首をワンピースのスカートで隠しつつ、シュウへ視線を送りながら乾いた口をどうにか開く。自分の気持ちを優先していいかは分からないけど---- このままでは後悔すると思ってしまったのだ。
シュウの金色の瞳は私の無事を確認するよう、頭から爪先までじっくりと見てくる。言うんだ---- これからは自分の意思を貫くと決めたじゃない。
「私---- この人にね拐われた訳じゃないの。私が自らついてきたんだ」
読んで頂き有難う御座います!
シュウ自体はかなりシアに怒っています。笑
バルト視点も書き足す予定でいますが、シュウの怒りを次話ではジワジワと伝わる内容で書いてます。




