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シアの赤い空  作者: 光政
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32.何故私なの

ブクマして頂き有難う御座います!


「こちらで手当を致しましょう」


 お風呂に入り、着心地の良いワンピースに着替えさせられた私はリリーさんと二人きり。手首を見れば縄の跡がくっきりと赤く残っていた。


「女の子にこんな傷を残すなんて---- 後で叱っておかないと----」


 私の手を取り傷の確認をしたリリーさんは、ぶつぶつと小さな声で呟いている。リリーさん自体は優しくて私を凄く気遣ってはくれるけど、仮面の男の仲間である以上気を許す事は出来ない。


 また薬を嗅がされて眠るのは避けたいし、手当てしてくれるという言葉でさえ信用できないのだ。


 ---- 痣とかこういう傷って自分で治せるのかな。


 セシルさんに教えて貰った時、自身の指を切りつけて治すといった実践はしたけど、こういった縄の跡や痣で試した事はない。


 テリーに痛みつけられた時、試してみれば良かったと今さらながら思ってしまう。


 手首を縛られているという事は、二属性である事もバレているのかな---- リリーさんは気付いていないようだし、極力知られたくない。


 ------ 私の魔法の発動は想い。今なら上手く出来る気がする---- 軽く目を閉じて息を深く吐いた。


 体を綺麗にしたいの---- 痛みを感じる場所を治して。


 傷がない自身の姿をイメージしていると、温かい光が体を包み込んだ。その温かさは魔力測定の時に感じたものと同じで、懐かしさから涙が溢れ出る。


 目を開き見てみれば、真っ白な光は傷がある場所へと集まって行き少しずつ消えていった。


「そういう事--- 何故貴女を無理矢理連れてきたのかやっと理解出来ました」


「--------」


「ごめんなさい。坊ちゃんの代わりに謝罪させて。でもお願い、もう少しだけ坊ちゃんに付き合ってあげて欲しいのよ。目的が済んだら何としても私が貴女を助けると誓うわ」


「目的?」


「私の口から言っていいのか---- いえ駄目ね。唯これだけは信じて、坊ちゃんは決して悪い人ではないの。本来は純粋で心優しい人なのよ」


 リリーさんの今にも泣きそうな顔を見てつい考えてしまう。


 言葉は少し乱暴だったけど、馬車では膝枕をしてくれたり口元に巻かれた布を解いてくれたりと優しかった。でも私を拐うよう指示したのも彼、純粋で優しい人だと信じる事など出来るはずもない。


「リリーさん、私分からない。彼は誰なの?」


「------ 坊ちゃ」


「迷惑かけたな。リリーに聞かず俺に聞け」


「---- 目的の場所まで教えないと言われたから」


「その通りだ。それにしても随分綺麗になったな。リリー支度をしてくれ直ぐに出発だ」


「もうですか? 先程着いたばかりでは?」


「追っ手が近づいているようだ。出来るだけ早く国へ戻る」


 追っ手? 誰かが私を探してくれてる?


 一体誰だろう---- 思い当たるのはシュウ唯一人だけ。


 ううん、王太子であるシュウが来ているとは考えられない。だとすると騎士の人達だよね、もしかしてバルトさんかな----


 バルトさんだったら嬉しい気持ちもあるけど、申し訳ない気持ちの方が大きい。いつも助けて貰ってばかり----


 パーティーを抜け出し一人になった事が悔やまれる。これ以上迷惑をかけたくない。そう思った私はリリーさんが支度をしている間、何か騎士達に知らせる物はないか探す事にした。


 今いる場所は普段生活する場所ではないのだろう---- 部屋を見渡すが中々適した物が見つからない。時間もなく焦る私の目に映ったのは、ボロボロになった黄色のドレスと片方だけのイヤリング。ドレスの裾につけられたレース部分を手で思いっきり裂き、急いでイヤリングと共に小さなポケットへ押し込んだ。


「支度が終わりました。坊ちゃんの所へ行きましょう」


 リリーさんと共に外へ出ると、私を待っていたのは馬車ではなく砂漠に適した動物達。リリーさんに頭の上から白い布を被せられた瞬間、誰かに腰を掴まれ背丈のある動物の背に乗せられてしまった。


「大人しくしていろ。砂漠で迷子になれば死ぬ事になる。俺の言っている事は分かるな?」


 騎士課では様々な場所で生き残る為のルールが決まっている。


 砂漠では無闇に動き回らない事が鉄則。太陽の動きを見て方角を確認し行き先を決めると教えられた。今は南にいるから北へ向かえばきっと帰れるとは思う。だけど来た事のない場所である上に何処にいるのか全く分からない。


 今は大人しくしていよう---- 


 仕方なく頷くと、私の背後に仮面の男が乗り前へ動き始めた。仮面の男との距離の近さにドキドキしながら乾いた砂の上をどんどん移動していく。白い布を口元へやり乾いた空気を吸わないよう気を付けつつ周りを見渡したが建物は少なく植物なんて全然ない。


 ここがナージ? そこまで王都から離れていないのにこんなにも違うの?


 見渡す限りの乾いた砂が舞う大地と、照りつける太陽は座っているだけで体力を奪っていく。ある程度の距離を移動し、オアシスが目の前に現れたので一度休憩を挟むらしい。


 リリーさんから水の入った筒を渡され喉を潤す。動物達が水を飲んでいる側で待つよう言われ、少し離れた場所で仮面の男達が集まって何か話している。


 ---- ここにドレスの切れ端を置けば、見つけてくれるかも。


 仮面の男が見ていない隙を見計らって、植物の影に切れ端を縛る。このまましゃがんでいてはバレると思い、すぐさま立ち上がったがルイスという男と目が合ってしまった。


 どうしよう---- バレたかもしれない。


 こちらに向かってくる表情は相変わらず無表情のまま。気づかれてしまったのか、表情から読む事など不可能である。


 汗がつぅっと背中を流れながらも、様子を伺っていたらルイスが急にナイフを取り出して私へ向けて来た。


 殺されるかも。バレてはいけないと切れ端を結びつけた植物が見られないよう足を前へ踏み出す。するとルイスがナイフを持ち替えたと同時に私に向かってナイフを投げてきた。


 ヒュン パァァン---- 後ろでナイフが突き刺さった音が聞こえたがルイスから目が離せない。


「蛇には毒があります。お気をつけ下さい」


 後ろへゆっくり振り返ると、蛇が木に突き刺さったままだらんと伸びていた。


「あ---- 有難う御座います」


「いえ、仕事ですから」


 汗一つかいていないうえに、ひどく冷たい目で私を見てくる。バレてはいないがナイフが顔スレスレに飛んで行った為ドキドキと胸が煩い。


「ふっ騎士課にいるだけはある。ナイフを投げられて目を瞑らないのだから」


「何故、私が騎士課にいると?」


「---- それは移動しながら話す」


 手を掴まれ強引に歩き出す仮面の男。レースを縛り付けた植物をチラリと見つつ大人しく私も足を動かした。


 再び動物に乗せられ歩き出すものの、先程の答えは一向に返ってこない。照りつける太陽の熱さもあわさって、ついに我慢出来なくなった私は少し苛々しながら口を開いた。


「話してくれないの? 何も答えてくれない」


「案外気が強いのだな。大人しいと報告書には書かれていたぞ」


「報告書? いつから私を調べてたの?」


「ここ二年ぐらいだ。光属性が孤児院にいると分かりそのまま調査を開始した。まさか王女とは思ってもみなかったが」


 背後でクツクツと笑う男は何処か愉快そうだ。


 ------ 光属性だから私を? 


 先程のリリーさんが言った言葉を思い出す。私の治癒魔法を見た後、何故無理矢理連れてきたのか分かったと言っていた。だけど光属性であれば私以外にも二人いるし----


「他にも光属性がいるでしょ? セシルさんだって光属性だし何で私?」


「最初は孤児であったから連れ出しても問題ないと考えていた。今は何となくだな、特に理由はない」


「理由はない---- それで貴方は一体誰? 何で光属性を拐う必要があるの?」


「ふっ到着したら教えると伝えただろう。思いの外シュバルト殿下と部下である騎士達は有能なようだ。城には寄らず直接目的の場所へ行く事にした。もうすぐ着く」


「シュウ? 今シュバルト殿下って?」


「ああ、まさか城を出てここまで来るとは想像してなかった」


 ---- シュウの顔が浮かび視界が歪む。胸が温かくなって心の奥底から勇気が湧いてきた。このまま大人しくしている何て私には出来ない----


 私は意を決して、後ろにいる仮面の男の顔へ思いっきり頭をぶつけた。うっという声と共に手綱を手離したのを見て、仮面の男の腰から剣を抜きつつ乾いた砂の上へ飛び降りる。


 砂の上は安定感がなく足がとられて倒れてしまったが、直ぐに立て直す事が出来た。乾いた砂が口に入り咽せそうになりながらも剣を構える。


 私に与えられた剣よりも長さがあり、重く感じるが今は不安に思ってなどいられない。


「ハハッ。剣をあの瞬間に抜くとは対した度胸だ。面白い」


 仮面の男がルイスという男から剣を受け取り、砂の上へ足をつけた。剣を確認するかのようにブンッと振り回した後、私に剣先を向けて構え始める。


「足止めのつもりか? 女と剣を交わすのは初めてだ。手加減しないからな」


 キィーン----


 剣を振り下ろされ受けては見たものの、思ったより力が強く一撃一撃が凄く重たい。重さを分散させるように剣を流すよう受けてはかわし、何度も繰り返しているうちに腕が訓練の時よりも早く痺れてきた。


 ---- まだ駄目。どうにかシュウが来るまで耐える。


 大きく振られた剣を見て、受けるのではなく横に体を交わし相手の脇腹目掛けて剣を突き刺す。仮面の男は攻撃してくると思ってなかったのか体のバランスを大きく崩したので、私は地面を強く蹴り自身の体をそのまま勢いよくぶつけて仮面の男を転ばした。


 砂の上に背中をつけた時、剣先を喉元へ突き刺そうと痺れる手をどうにか回した瞬間、後ろの首元に痛みが走る。


 ---- 悔しい。シュウに会いたかった。


 仮面の男の仮面がズレ、透き通った青い瞳が私のぼやけていく視界に映り込む。


 綺麗な色---- そう思ったのも束の間、体が砂の上に倒れた感触と共に意識を失った。






今回の話は戦うシーンがありましたが、どんな動きか伝わっていますでしょうか?ドキドキしつつ不安な光政です。


次話にはシアが何故拐われたのか理由がハッキリと分かる予定です!


ではまた!よい一週間を----

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