29. 父そして----
披露宴パーティー当日。朝から王妃様付きの侍女さん達に囲まれ肌も髪も艶々にされた。自分なのに他人ではないかと思う程変身した姿を見て驚きが隠せない。
鏡越しに自分の姿をまじまじと見てまう。ドレスに合わせてつけた母のアクセサリーが小さく光った。
私は何だか嬉しくなり顔を綻ばせる。母との繋がりを実感し、首元にあるネックレスへ手を添えて微笑んだ。
母もこのアクセサリーをつけてたんだよね。
喜びが溢れて視界が歪む。嬉しい筈なのにやはり会いたかった気持ちが強いのだろう。
母に今の私を見て欲しい。マーサにも見てもらいたかった。
鏡の前に立っていると、ノックの音がしてジルベート王から伝言が届く。中を確認したら直ぐに客間へ来るよう書かれている。
洗練された黄いドレスの裾に気をつけながら石造りの廊下をゆっくりと歩く。ヒールに慣れてきたとはいえ、まだまだ覚束ない足取りだ。
指定された客間に辿り着き、ドアを開けたら中にジルベート王と見た事のない男性が座っていた。
「シア挨拶しなさい。レオンの弟であるガイザーだ」
「シアです。宜しくお願い致します」
「ガイザーだ。遅くなってすまない。こちらこそ宜しく頼む」
ジルベート王に促され空いてるソファへ腰を下ろす。ガイザー様は軍人のように体格がしっかりされていて精悍な顔つき。ジルベート王と似たような雰囲気で少し怖さを感じさせた。
「ガイザー、手紙に書いた通りシアはレオンの子供である可能性が高い。何か知っていないか?」
「------ 兄上からは何も聞いていないが」
ガイザー様は胸元からハンカチに包まれた指輪を取り出しジルベート王へ差し出す。
「これは?」
「兄上が事故で亡くなった時に持っていた指輪だ。中に言葉が彫ってある」
「------ そうか。シア見てみなさい」
ジルベート王から手渡された指輪は、シンプルな石が一つ飾られた小さな金の指輪。
中を見れば愛の言葉が綴られている。私は言葉を読みつつも涙が溢れ止まらなかった。
シア私の宝物 愛してる
私---- ちゃんと愛されてたんだ。
「シアという女性だと思っていたが違ったな。兄上が仲良くしていた女性はシンシア様一人だけ、二人が恋に落ちていたなら納得出来る」
「シンシアに一途だったという事だな。婚約者を頑なに作らない訳だ。シアの両親がこれではっきりした。礼を言う」
「俺は何も。シア、兄上の分まで生きて幸せになって欲しい、きっと兄上もそれを願っている筈だ」
「---- はい、有難う御座います」
「それで? シアをどうお披露目する気だ?」
「それを今から話す。近親婚を禁止している今、シアの事をそのまま貴族達へ伝える事は出来ない。ましてや二人とも亡くなっているから、籍を入れるにしても難しい」
「ならばどうする?」
「シアは俺と側妃の間に出来た子で、行方不明になっていた事にしようと思う。ちょうど子供が流れた時期に近いから皆信用するだろう」
---- ジルベート王の子供? 私が?!
「分かった。協力しよう」
「ああ、頼んだぞ。シアもそれでいいか?」
「えっ、あ、あの! 私が王女だなんて----」
「まあなんとかなるだろう。それにこちらの都合も絡んでいるのだ」
ジルベート王からの説明によると第一王子がいなくなった今、側妃様側の貴族が弱まり均衡を保つのがやっとらしい。元々侯爵の家の出らしく、貴族を纏める立場であったのに今では難しいようだ。私が側妃様の娘となる事で貴族が再度纏まるとか---- バランスを保つのにも都合が良いと話された。
「後は、シアとの婚姻を結ぼうと動き出す貴族を抑えやすい。きっと政略結婚を考える奴らが出てくる」
「そうだな。俺やセレステア様では抑え切れないだろう」
「それと、シア。シュウから聞いたが騎士になる気持ちに変わりないか?」
「はい--- 騎士になりたいです」
「分かった。今まで苦労してきたんだ、騎士になるのは心配だが好きにして良い。だが女であるからこそ後ろ盾は必要だ。王女であれば下手な事はされないだろう」
ジルベート王の言葉に頷きで返す。言葉にすると再び涙が溢れそうで口を開く事は出来なかった。
「シア、今日からお前の名はシアリア。俺の娘だ」
------------------
「シア、凄く綺麗だね」
ジルベート王の言葉に泣いた私はあの後の事はあやふや。侍女さんに連れられ部屋に戻ってきたようだ。
愉快顔で現れたシュウにエスコートしてもらいパーティー会場へと向かう。
「まさかシアと兄妹になるとはね、宜しく頼むよー」
「うん。シュウ--- 何かごめ」
「駄目だよ。僕は嬉しいし何も謝る必要ない。それにサーナは大喜びだしねー」
「有難う。これからも宜しくね、サーナ様に会いたいな」
「もうサーナは会場に入ったからね。後は僕達だけだ」
パーティー会場へ入るカーテンの前で立ち止まる。
昨日聞いた話では名前を呼ばれた後に入場し、指定された椅子へと向かう。ジルベート王が私の事を皆に説明した後、カーテシーをしてから決められた挨拶を言う流れだ。
「シュバルト殿下、シアリア王女の入場!」
開かれたカーテンの向こう側に、輝くシャンデリアと華々しく着飾った人々が沢山いる。ザワザワとした騒めきが耳に届き、緊張と不安から体が冷え固まってしまった。
「シア、笑顔だよ」
シュウに言われ出来る限り口角を上げて微笑む。姿勢を崩さぬよう気をつけながら、興味深そうに見てくる人々の中をゆっくりと歩いた。
「皆の者、本日は良く集まってくれた。礼を言う。今日集まって貰ったのは他でもないシアリアが見つかった為だ。詳しく話そう----」
ジルベート王は威厳ある姿で、先程聞いた話をより詳細に話している。
「髪と瞳の色が違うシアリアが娘だと分かった理由---- それは瞳にある紋章だ」
先程までの騒めきが嘘のように、一気に静かな空間へと変化した。
「皆には黙っていたが、王族は瞳に紋章が刻まれ生まれてくる。髪の色は誤魔化せても瞳の紋章は誤魔化せない。皆分かったな? シアリア挨拶を」
先程よりもじっくりと見られ体が震える。
下を向いたら駄目---- 前を見るんだ。
ゆっくりとした動作でカーテシーをした後、震える手を握りしめ会場を見渡す。私を見る人々が各々の表情で見つめ返してきた。
緊張から固まる口をどうにか開き、お腹に力を入れ挨拶の言葉を述べる。
「シアリアと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「では皆の者、楽しい夜を」
ジルベート王の言葉が終わったとたん、会場の中央はダンスフロアへと変わる。シュウに連れられファーストダンスを踊れば終わりだが、固まった体で踊るのは不安だ。
ついマリやカイ、そしてセバスが居てくれたらと思ってしまう。
シュウではなく、隣にいてくれるのがセバスだったら?
城内や学園を堂々と歩く後ろ姿を思い出し、憧れに似たような気持ちが湧き上がる。
生きるって事---- セバスが教えてくれたから今の私がある。それに変わるって自分で決めた筈。
迷惑ばかりかけていた臆病な自分にさよならしよう。
きっと、これが私にとって本当のスタート。私の事を王族だと認めて貰い、これからは堂々と生きて皆を守るんだ。
スッと姿勢を伸ばし微笑みながらシュウと共に中央へ移動する。曲が始まり最初に踏み出したステップは軽やかで、練習の時よりも体が軽く動きやすい。
私の動きに満面な笑みを浮かべたシュウは、急に難しいステップを入れてくる。もつれそうになった足をどうにか立て直し最後まで何とか踊りきった。
「シュウの意地悪」
「ハハっ。シアやるね、ちゃんと踊れてたよ」
フロアから抜け出し椅子へ戻ればジェーナ様に褒められ、側妃であるアリアナ様は抱きしめてくれた。
「素敵なダンスだったわ、それに色々と有難う。貴女は私の娘、とても綺麗だったわ」
「有難う御座います」
「ふふ、私達には時間が必要だわ。ゆっくり親子になって行きましょう。お母様って呼んでくれたら嬉しいわ」
「お母様----」
初めて口にする言葉に何だか照れてしまい顔が熱くなる。家族のいる温かさに包まれ、サーナ様と会話しながらパーティーを眺める。
落ち着いて会場を見渡せば、入り口近くに立つバルトさんを見つけた。
来てたんだ----
よおく見るとバルトさんの隣にはコーサさんが立っており、二人の様子からパーティーの警備をしているようだ。
どうしよう。バルトさんに会ってちゃんと説明したい。
体がソワソワとして落ち着かずどうしたらいいか分からない。そんな私に気づいたのか、サーナ様が体を寄せて耳打ちしてきた。
「お姉様、休憩室にいかれては如何?」
「サーナ様---- 抜け出して良いの?」
「一度は休憩に下がっても大丈夫ですわ。誰か知り合いでも見つけたのでしょう? 侍女に呼び出して貰えば分かりませんわ」
「そう、なら少し抜けていいかな、話したい人がいるの」
「私にお任せ下さいな。今侍女を呼びますわ」
サーナ様に侍女を呼んで貰い、すぐさま休憩室へ向かう。途中でバルトさんを連れてきて欲しいとお願いし、部屋の前に騎士をおいて1人ソファへと座った。
早くバルトさんに会いたい。会って沢山話したい。
でも何で? 私はどうしてバルトさんに会って話したいんだろう。
考え始めたら落ち着かなくて部屋にあるバルコニーへと向かう。外はもう暗くなって空には星がキラキラと輝いていた。
もうすぐ会えるよね----
会ってまずは何を話そう。父の事や母の事、バルトさんは聞いてくれるかな----
ガイザー様から貰った父からの指輪を見る。子供につけるであろう指輪は、私にはもう小さくて小指にしかつけられなかった。
指輪を見ながら父の姿を想像していると、黒ずくめの男が私の目の前に突如として現れた。緑色の瞳だけがはっきりと分かり私へ向かってくる。
「だ、誰?」
答えの代わりに拳を振り下ろされた私は、体が反応し避ける事は出来たがドレスのせいで上手く動く事が出来ない。
モタモタとしている内に背後をとられ羽交い締めにされた瞬間、鼻をつくような匂いと共に口に布を押しあてられた。
私の視界に映るのはキラキラと輝く星。それを最後に私の意識は暗闇へと落ちていった。
いつも有難う御座います!
感想を頂きまして猛烈に嬉しくなった光政です。本当に感謝です。
来週も変わらず火曜、土曜日に更新していくつもりですが、11時予約投稿していきます。
余裕が出来たら違う日にも更新しようと思っていますので、是非に宜しくお願いします。




