26.--side-- カイ視点
シアが殿下と城へ行ってから二日。マリの不安が拭えずどうしようか考えていたら、セバス宛に殿下から手紙が届いた。
「マリ、殿下から連絡が来たぞ」
夕食時に手紙をマリへと渡す。シアが居なくなってからミリヤ嬢は何事も無かったかのような雰囲気で俺達を無視している。マリに何かされなくて良かったと思っていたが、マリはシアが心配でそんな事考えてもいないようだった。
手紙をじっくりと読むマリの姿を見て昔の事を思い出す。マリとシアに初めて会った時からマリは常にシアの側にいた。
ある日シアの事をどうしてそんなに心配するのか聞いたら、マリは怒ったように俺を少しだけ睨んできたんだ。
「シアは特別なの。私が守るってマーサさんと約束したの」
何が特別なのかよく分からなかったが、シアと一緒にいると何となく理解出来る様になった。シアの姿が普通じゃないって気づいたからだ。
マリは近くにいた分、幼い頃から何となく感じていたんだろう。マーサさんのシアを心配する表情は側から見ていても度が過ぎていたし、シアの立ち振る舞いは俺達平民とかけ離れていた。
街が襲撃に遭い皆死んだ時、マリに会えて俺は嬉しかったがマリはシアの事探しに行くと言って大変だった。
何とか宥めてマリを抱きしめたまま眠ったが、朝起きて目を覚ますとマリがいない。慌てて外に飛び出してみればマリの姿が見えたので、その日は一日中マリと街の中を歩いた。途中街の広場へ近づいたけど、死体が並べられていてマリと俺は立ち止まったまま涙を流す。
死体に泣きながら抱きついている人が何人かいたけど、俺達は近づくのが怖くて直ぐにその場から離れた。
半壊した宿に戻り騎士から孤児院へ行くと聞かされ俺達は自然と手を繋いで横になる。俺達よりも若い子達の嗚咽を聞きながら手を強く握り合って眠れぬ夜を過ごしたんだ。
翌日シアに会えた時のマリの顔は忘れられない。髪と瞳の色が違くて最初は気づかなかったけど、白金の色に戻ったとたんマリはシアへと抱きつく。あの日の夜、これからは3人一緒にいようと約束してからもう六年。時間は瞬く間に過ぎていった。
「そう。シアは城に当分滞在するのね。どうして戻ってこないのかしら」
「それは分からないが、近々俺達を城へ招待してくれると書いてある。直接話を聞いた方がいいだろう」
「マリ、シアは大丈夫だ。俺はマリの方が心配だよ、あまり寝てないんじゃないか?」
「大丈夫よ。私の事よりシアは本当に大丈夫なの? 早く会いたいわ」
「マリ---- 前にも聞いたけどどうしてそんなにシアの事が心配なんだ? マーサさんと約束したからか?」
「それはそうなんだけど---- シアはずっと小さい頃から一緒でしょ? カイやセバスには黙っていたんだけど、シアの瞳にね印があるの」
「印? 何だその印って」
「私にも何なのかは分からない。小さい頃近くで瞳を見た時に見つけたの。殿下もシアの瞳を覗いていたでしょう? シアは特別だと思っていたけど、やっぱり何かあるんじゃないかって思うと不安なのよ。私から遠くにいっちゃうんじゃないかって------」
「シアがマリから離れる訳ないだろ。マリ大丈夫だよ。俺はマリの側にいるしシアもちゃんと連れてくるから」
マリの震える手を握りしめる。
印があるなんて知らなかった。だからマリはシアの事を特別だと言っていたんだな---- シアの事は俺も心配だがマリのやつれた様子に胸が痛む。
「マリ、印ってどんな形なんだ?」
「最近は見てなかったから間違えてるかもしれないけど---- サリーシャ城に行った時思ったの。城旗に描かれていた模様に似ていたと思うわ」
「紋章---- シアは王族?」
「セバス、それはないだろう。シアの色は金色じゃない。王族は金色なんだろ? あまり不確かな事は言わないでくれ」
「カイ---- 」
「色か。確かにそうだな---- カイ悪かった。とりあえずシアには近々会えるみたいだし、手紙を送る予定だ。マリも何か書いて送るか?」
「ううん、書くのに時間がかかってしまいそうだから私は遠慮するわ。私達は元気でやってるとだけ書いてくれない?」
「分かった。カイもそれでいいか?」
「ああ、セバス頼んだよ」
セバスは席から立ち上がって先に部屋へと戻っていった。俺はマリが心配だったので広間に連れて行きソファへ座らせる。
「なあ、マリ。他にも何か思う事があるんじゃないか?」
先程シアの瞳にある印の話をした後、マリの瞳が揺れていたのでセバスがいなくなるまで黙っていた。マリは動揺したように瞳を揺らしながら俺を見つめてくる。マリの手を取って俺の手で優しく包み込んだ。
「マリは何か隠そうとする時、瞳が揺れるんだよ。今も揺れただろう? 俺にはちゃんと話してくれないか?」
「カイ---- 大した事じゃないのよ。私の思い違いかもしれないけど、サリーシャ城に行った時の事覚えてる?」
「ああ、覚えているよ」
「シアと別れた後、廊下に王族の方々の絵が飾られた場所があったでしょう?」
「殿下が見せてくれた場所だよな? それがどうかしたのか?」
「あの時、奥の方にあった絵を見て思ったのよ。シアは王族かもしれないって----」
「どうしてだ? 何で絵を見て思ったんだ?」
「一人だけシアの色に近い女性がいたのよ。シアより金色だったけど白金に近かったわ。殿下が直ぐ移動されたから聞けなかったんだけど、瞳の印もあるし----」
「そんな訳ないだろ。シアが王族なら何であの街にいたんだよ」
「私だって考えたわ。でもシアが王族だって思ったら納得出来る事が多いのよ」
「納得出来る事?」
「ええ、マーサさんから教わった事って貴族が学ぶような事ばかりだったわ。食事のマナー何て私達平民は知らなくていい事でしょう? それに侍女課で学んでて思うの---- マーサさんって侍女だったんじゃないかって」
「マーサさんが侍女?」
「そうよ。昔は思わなかったけど今なら思うわ。マーサさんシアにはいつも敬語だったし教育も厳しかったの。シアがボーッとした子だったからあまり感じさせないけど----」
「マリがそう思うのなら俺はマリを信じる。もし仮にシアが王族だったらどうするんだ?」
「私---- シアが心配なの。シアが王族だったら離れてしまうのかしら。今まで一緒にいたのに急に離れるなんて嫌よ。カイは不安じゃないの? 私達家族でしょう?」
「俺は---- シアとマリが離れる事はないと思ってる。だから何があっても大丈夫だって思ってるんだよ。心配はしてるけど不安はないよ」
マリの目を真っ直ぐ見て自分の気持ちを伝える。シアが王族だと正直考えられないけど、マリがそう思うのなら俺は信じるだけだ。
それにシアには申し訳ないけど、マリの方が俺にとって大事だ。シアは俺にとって兄妹。心配もするし力にもなるが、マリの事は愛しているからマリの気持ちに寄り添ってあげたい。
「本当にそう思う? また一緒にいられるかしら」
「ああ、もし何かあっても殿下に俺が頼んでやるよ。まあシアの事だからマリといたいと俺から言うより先に言うだろうけどな」
「ふふ。カイ有難う」
マリは俺の肩に頭を寄せてシアとの思い出を話し始める。俺も知らないエピソードがいくつかあって少しだけシアに嫉妬した。
マリとの思い出はいつだってシアがいるし、マリとシアの方が長く一緒にいる。だけどマリに告白した時は俺達二人だけの思い出だ。それから二人で会う時間は度々あったし、シアが知らないマリを俺は知っている。
「マリ、愛してるよ」
マリの頭にキスを落とす。柔らかいマリの体をきつく抱きしめた。
「カイ---- 私も、よ」
いつもの返答で返すマリの体温が熱くなる。マリの心配を取り除くよう時間が許すまで抱きしめ続けた。
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「カイ遅かったな。ちょっといいか?」
セバスは俺を待ち構えていたようで、部屋に入る扉の前で立っている。
部屋では出来ない話なのか、廊下の角に行き難しい顔をしたセバスと対峙した。
「俺、明後日の週末に城を訪ねようと思う」
「一人で行く気なのか?」
「ああ、入れるか分からないけど殿下に会おうと思うんだ。何でシアが帰ってこないのか直接聞いてくる」
「セバス---- シアの事が心配なんだな。会いたい気持ちは分かるけど大丈夫なのか?」
「分からないけどシアに会いたいんだ」
「そうか。マリには内緒だな」
「悪い。マリは一緒に行くと言うだろう? マリを連れて行っても会える保証はないから黙ってて欲しい」
「分かった。そのかわり会えたらシアから手紙を貰ってきてくれ。マリの為にだ」
「約束する。シアにはマリ宛に手紙を書いて貰うよ」
「それにしてもシアは鈍感だな。セバスはシアに想いを告げないのか?」
「今はそんな事言ってられない。シアには当分想いを告げる気はない」
「セバスはそれで良いのか? ずっとシアの事好きなんだろ?」
「シアの事だ。俺が想いを告げたらどうなるか想像つく。それにちゃんと力をつけてからじゃないとどうなるか分からない」
「あんまり無理はするなよ。俺はセバスが無理してるんじゃないかって心配してるんだ」
「カイ---- 無理しないとこの先シアと一緒にはいれないかもしれない。今が頑張り時なんだ」
「セバス---- とりあえず俺が心配しているのだけは覚えておいてくれ」
「それは分かってる。いつもありがとな」
セバスの辛そうな表情を見て胸が痛くなる。今までシアにセバスの事を何度言いそうになったことか--- セバスを動かす原動力はシアだ。
セバスの想いに気づく日はあるのか? セバスとシアが将来共にしている姿を願わない日はない。
ベッドに入り目を瞑りながら考える。
シアは今どうしているんだろうか。マリやカイが心配しているんだ。早く帰ってこい。
四人仲良く丘の上で笑って過ごした日を思い浮かべながら、俺は深い眠りについた。
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