25.母の顔
シュウと馬車に乗りセレステア様の屋敷へと向かう。柔らかな椅子に座りながら街の様子を見ていると皆の事が心配になってきた。
「シュウ---- 皆どうしてるかな」
「セバスからの伝言では大丈夫みたいだよ。ミリヤ嬢もシアがいなくなってからは絡んできてないって」
「それなら安心。皆に会いたいな---- 学園にはいつ戻れるかな?」
「とりあえずシアのお披露目が済んでからだと思うよー。ミリヤ嬢みたいなのが今後出てきても対応できるしね」
「ねえシュウ、皆を城に呼べないかな? 早く会って皆と話したいの。駄目?」
「分かった、父様に許可をとっておくよ」
「有難う。シュウは私に付き添ってばかりいるけど、カレン様に会わなくて大丈夫なの?」
「シアは気にしなくていいよ。カレンとは毎日手紙のやり取りをしているし理解してくれているからね」
「一人の人を愛して、信頼されてるって凄いね。憧れるな」
「シアは好きな人はいないの?」
------ シュウの問いにふと頭に浮かんだのはバルトさんの顔。だけど、好きという事がどういう事なのか全く分からず、バルトさんへの想いもどんな想いなのか分からないままだ。
「シュウ、好きってどういう気持ちなの? 好きって何?」
「その質問、今までで一番嫌な質問かも」
「えっと---- ごめん?」
「気にしなくていいよ、そうだなあ。僕の場合は彼女を僕だけのものにしたいって願望かな。人によって違うんだけど---- 一緒にいたいとか、安心するとか、ドキドキするとかいっぱいあるんじゃないかな」
「そうなんだ。いっぱいあるんだね」
「シアはそう思う事ないの?」
カイやセバスとは一緒にいたいなと思うし、バルトさんとも一緒にいたいと思った。安心もするし---- 何が違うんだろう----
「ま、いいか。今から会いに行くセレステア様だけど僕苦手なんだよね。エルンと話した時の事覚えてる?」
「そういえば苦手だって言っていたよね。どうして苦手なの?」
「セレステア様って表情が豊かでないし、何を考えてるか読めないんだよね。厳しい人だしさ」
「そんな風には見えなかったけど-----」
「昨日は涙を流してるのを見て僕も驚いたよー、今まで見た事なかったしさ。あ、シア着いたみたいだよ」
外に視線を戻すと立派なお屋敷が目に映る。自分の母がここで育ったんだと思うと、今まで育ってきた場所からは想像出来なくて何故か不思議な気持ちが広がっていった。
「シア、よく来ましたね」
「セレステア様、今日は屋敷へ呼んで頂いて有難う御座います」
玄関で待っていてくれたセレステア様に挨拶をして早速母の部屋へと連れていって貰う。立派な外見と同じく中も素敵な作りで、母の姿も想像出来ないからか益々不思議に思ってしまった。
セレステア様に促され部屋の中へ恐る恐る足を踏み入れれば、お姫様の部屋みたいな可愛らしい作りに驚きついキョロキョロと中を見渡す。
自由に見ていいと言われゆっくりと部屋の中を見ていくと、机の上に手紙が置かれていたので手に取った。
「それは机の中に隠してあったレオンからの手紙です。シアが持っておきなさい」
「有難うございます」
手紙を胸に抱えたまま部屋を再び見ていると、見慣れた宝石箱が目に映る。宝石箱に近づき手に取ってみれば間違いなくマーサが持っていたのと同じ宝石箱。懐かしさから涙が溢れて止まらなくなった。
「その宝石箱はシンシアがマーサへ贈るために買ってきたのよ。お揃いなのと楽しそうに話していたのを思い出すわ。マーサは貴族の令嬢だったんだけど家計が苦しかったみたいで侍女として働いていたの。シンシアとは歳が近くて仲が良かったわ」
「そうだったんですね。マーサは宝石箱をとても大事にしていました。アパートが燃えてしまって---- 今はもうないんですけど----」
「シア、その宝石箱も持って行っていいのよ。マーサのが無くなってしまったのなら、マーサの遺品として持っていきなさい。シンシアもシアが持っていてくれたらきっと喜ぶわ」
「はい---- 凄く嬉しいです」
「シアはシンシアの顔を知らないのよね? こちらにいらっしゃい」
涙を流しながらシュウに連れられて隣の部屋へと移動する。寝室の中に入っていくと目の前の壁に絵が一枚かけられていた。金髪の髪を緩く巻いた金の瞳の女性は、素敵な笑顔を浮かべていてこちらを見ているようだ。
「シア、この絵の女性がシンシアよ」
綺麗な人---- 笑顔が素敵な女性だったんだ。
お母さんに会いたかった。知ることは無いだろうと思っていた母の素敵な笑顔を見て、今までの事を思い出す。
楽しかった事、辛かった事、苦しかった事。様々な出来事を思い出し胸が痛くなる。母に会えないと分かっていても、心の奥では会いたいと願っていた。母の顔を知り、絵でも会えた喜びに体が震える。もう自分は一人じゃないと心の底から思えた。
涙が落ち着くまで寝室で母を見つめていたが、セレステア様に声をかけられて元の部屋へと戻りシュウと共にソファへと腰を下ろす。
「シア、ネックレスは持ってきていますか?」
「はい、いつもつけています」
「これは母から貰ったもので、私のブレスレットとそのネックレスは同じ石を分けているのよ。魔力を流すと互いの声が聞こえるようになっている魔道具なの」
セレステア様がブレスレットを手に持つと石が淡い光を放つ。私もペンダントの石を握り魔力を流したら頭の中にセレステア様の声が聞こえてきた。
「遠すぎたら届かないのだけど、サリーシャ王国内なら大丈夫よ。このブレスレットはシア、貴女にあげるわ。大切な人が出来た時渡して頂戴」
「でも---- お婆様から頂いたものでは?」
「他にも形見はあるの、これはシアが持っていて。後これからお披露目があるでしょう? シンシアが若い時に身につけていたアクセサリーがあるの。それをつけてはどうかしら?」
「嬉しいです。有難う御座います」
テーブルに置かれたアクセサリーは素敵なものばかりで、華奢で派手すぎないデザインは母の好みだと聞いて嬉しくなる。母と同じ好みなのが分かり母との繋がりを感じられたからだ。
「後、今後の事だけど---- シアはどうしたいと思っているのかしら?」
「セレステア様、シアとはまだその話はしてないんだ」
「そうなの---- シア、私にとってシアは妹の娘。力になるわ。どうしたいか決めたら連絡して頂戴」
「分かりました。セレステア様、心配して頂いて有難う御座います」
セレステア様にお礼を述べてから別れの挨拶をし、来た時に乗って来た馬車へ乗る。座って落ち着いてくると、先程のセレステア様の言葉を思い出し今後の自分について考え始めた。
------ 皆と遠く離れずに生活が出来て、騎士になる事って可能なのかな---- それに私どうなるんだろう、自分の事なのにシュウに任せてばかりだ。ちゃんと話さなきゃ分からないよね。
「シュウ、私どうなるのかな?」
「一先ずシアの父だと思われるレオン様の弟、シオン叔父様に会ってからだね。城に帰ったらいつ会えるのか直ぐに確認しようか」
「うん。シュウ、私ね、自分の事だからちゃんと全部知りたい」
「そうだね、帰ってからシアがどう思ってるか聞かせてくれる?」
私はシュウの言葉に頷く。
自分がこれからどうしたいのか、シュウに伝えていこう。きっと言わないと後悔するだろうし、分かってなんて貰えない。カイやマリの時だってそうだった。
これからどうなっていくのか待ってるだけじゃダメだ。自分の未来はちゃんと自分で開いていかないと----
馬車の窓から見える赤い空に誓う。
不安な気持ちを抱きしめたまま、まだ見えない自分の未来に思いを馳せた。
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