23.マーサ
「今日は皆へシアを紹介しようと思う。夕食時に集まるよう伝言を送っておいた」
「皆集まるのですね! シアお姉様、楽しみですわね?」
「そ、そうですか。有難う御座います」
いきなり今日だなんて---- 大丈夫かな。
昨日はジェーナ様とサーナ様とお話しした後、シュウに城内を案内して貰ってセシルさんへ会いに行った。
セシルさんは驚いていたけど、私へ態度を変える事なく普通に話してくれる。治癒魔法が野営演習時に発動出来たと報告がてらにお礼を伝えると、バルトさんから教えて貰ったと言われた。
セシルさんと別れ廊下を歩いていくと、窓から演習場が見えたのでバルトさんの姿を探す。
コーサさんの姿は見つけられたけど、バルトさんの黒髪は見つけられず少し気持ちが落ち込んでしまった。
バルトさんに会いたいな---- 城にいれば会えるかな---
シュウは私がバルトさんに会いたいと思っているのが分かっているのか、そのうち会えるよと愉快顔で伝えてくる。
---- 私って分かりやすいのかな。
そのうちって、いつなんだろう---- 早く会いたい。
「シア? もう行くよ。今日から勉強しないと」
「あ、ごめん。ボーっとしちゃったね」
「セバスから聞いてたけど、シアはよくボーっとするよね。まあいいけど、早くいこ」
シュウと共に部屋へと戻ると穏やかな顔をした老人が椅子に座ってお茶を飲んでいた。
「シア、こちらがジルバ先生だよ」
「シアです。宜しくお願いします」
「ほっ。宜しく頼むのう」
テーブルに移動し、ジルバ先生から課題を受け取り答えを書いていく。
マーサやセバスに教えられた知識が役に立ち、答えを慎重に埋めていった。課題が終わりジルバ先生に渡すと、ジルバ先生は口髭を触りながらじっくりと確認し口を開いた。
「シア様は知識が深いのじゃなあ。ここに書かれた答えは誰から聞いたのかのう?」
ジルバ先生が指差す場所に目を向けると、歴史について答えた場所だった。
---- え、何か違ったのかな。
マーサからそうやって聞いてたと思うんだけど----
サリーシャ連合王国の問題に対し、マーサから聞いた通りに答えただけだ。どうしようかと悩んでいると、シュウが私の書いた答えを見て驚き始めた。
「シア、これはマーサさんから聞いたのか?」
「あ、うん。マーサから聞いた通りに書いたんだけど----」
「ほっ。マーサとやらはシアの先生かね?」
「私を育ててくれた人です。8歳までマーサに教えて貰っていました」
「マーサという方は、王族に近しい者だったのかも知れんなあ。シア様。シア様が書かれたこの答えは一般的に教えられる内容と違ってのう」
「えっ、どういう事ですか?」
「シアが書いた答えは、王族しか学ばないような内容なんだよ。一般的に学ぶ内容だともっと簡単なんだ。マーサさんはシアが王族だってやっぱり知っていたんだね。腕輪をはめた意味がやっと分かったよ」
------ マーサが知っていた?
マーサは私の親と関わりが深い人? よく考えたらそうだよね。全部繋がるもの----
「ほっ。シア様には教える事は少ないかも知れませんなあ。おさらいがてら話していくかのう。分からない事があれば深く教えよう」
シュウと共にジルバ先生の話を聞いていくが、マーサから教えられた内容ばかりで何だか怖くなっていく。
試験勉強をしていた時は分からない事が多かったのに、ジルバ先生の話は分かる事しかない。
---- マーサは私が王族に戻ると知っていた? 今考えたら、食事のマナーって学ぶ必要がない筈なのに幼い頃から厳しかった。
カーテシーの練習もしていたし、常に姿勢には気をつけさせられたのを思い出す。
マーサが何者なのか聞きたくても、もう聞く事は出来ないけど---- マーサは私をどうするつもりだったのかな。
ジルバ先生の授業が終わり、お礼を述べて部屋から1人で退室した。シュウは心配していたけど今は1人になって考えたい。
廊下を歩いていくと、窓から優しい日差しが差し込んでいるのに気付いて外へ向かう事にした。
階段をおり外に出てみれば、気持ちいい風が肌にあたり柔らかな日差しに心が癒される。
人気のない場所にある木の側に座り、目を瞑って風を感じながら心を落ち着かせた。
------ マーサの事知りたい。両親が分かればマーサの事も分かるかな----
木に頭をつけてユラユラと微睡む。
眠たくなる心地良い風を味わっていると、足音が私へ近づいてきた。
「シア----?」
目を開けていくと目の前に黒い騎士の服が映り込み、そのまま上へ視線を動かすと赤い瞳と目が合った。
「------ シア。こんな所で寝てたら風邪引くぞ? それにどうして城にいるんだ? 色も隠さなくていいのか?」
バルトさんは心配そうな表情で私を見てくる。
あ、色---- やっぱりあの時見えてたんだ。
でも何もなかったし、きっと黙っててくれたのかな?
「わ、私------ ここに今滞在してるんです。色も隠さなくていいとシュウに言われて----」
「滞在? シュウってシュバルト殿下か? シュバルト殿下には婚約者がいる筈だが、シアはどうしてシュウと呼ぶんだ?」
どうしよう---- 言っていいのかな。
内緒にとは言われてないし、バルトさんに嘘はつきたくない。髪の色も黙っててくれたなら、大丈夫だよね----?
「バルトさん。まだ皆には言ってないんですけど、私--- 王族なんです。シュウに気づいて貰ってジルベート王に受け入れて貰いました」
バルトさんの瞳は動揺したのか揺れ始め、口に手を当ててその場にしゃがみこんだ。
バルトの顔が近くなり、私の胸は跳ね上がる。
赤い瞳から目を離せずにいると、バルトさんは私の手を掴んだ。
「シア、王族だったのか---- それでそんな綺麗な色を持ってたんだな。気づいてやれずすまない」
「い、いえ---- 気にしないでください」
「2属性といい、魔道具といい。やっと理解が出来た。それで---- シアの父親は陛下なのか?」
「それが両親はまだ分からないんです」
「分からない? どういう事だ?」
「私、シュウに瞳の紋章があるのを見つけて貰ってここに来ました。誰が両親かはまだ分からなくて、ジルベート王が探してくれるみたいです」
「そうなのか---- とりあえずここは騎士も通るから危ないだろう。部屋へ送って行こう。また会えたらゆっくり話しを聞かせてくれるか?」
「はい---- あ、でも部屋には一人で戻れますよ?」
「そういう訳にはいかないだろ。ほら立てるか?」
バルトさんは私の手をそのまま引っ張って、少し強引だったけど立たせてくれた。
城に戻りバルトさんと並びながら歩いていると、石畳の隙間にヒールが挟まりバランスを崩してしまう。床に倒れると思い、手を前に出すと体がグイッと持ち上げられた。
「危なかったな。どうしたんだ?」
「あの---- ヒールが挟まってしまって----」
ああなるほど。と言いながらバルトさんは屈んで私の挟まった靴を抜いてくれる。バルトさんの手に持つ靴を見れば、ヒールが折れて壊れてしまっていた。
「まあ慣れるまでは仕方ないな。シア俺に捕まれ」
バルトは私の膝に手を入れると軽々と私を抱き上げる。私は驚いてしまい顔を熱くしながら、近くにあるバルトさんの横顔を見た。
「ちゃんと首に手を回さないと危ないぞ。それで部屋は何処なんだ?」
「すみません---- 3階の客間です----」
「分かった。ゆっくり歩くからな」
胸の音を立てながら、バルトさんの首に少し震えた手を回す。久しぶりのバルトさんの匂いや温かさを感じて、胸の音が更に煩くなっていく。
恥ずかしい気持ちも、早く部屋に着いて欲しい気持ちも含めて沢山の想いが心の中を駆け巡っていったが、最後に残ったのはバルトさんとこのまま一緒にいたいという願望だった。
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