17.-カレン様-
煌めくシャンデリアの下で、色とりどりのドレスが円を描く様を、シアは楽しんで見ていた。
シアの配置場所は、吹き抜けに沿う二階の廊下だった為、会場全体がよく見える。
カイは、ダンスフロアの入り口の警備なので、一階に配置されてはいるが、シアがいる場所からは良く見えない。マリはドリンクの給仕に追われていて、会場内を歩き回っていた。
シアは、赤いドレスに身を包む女性に目を止めた。
鮮やかなグラデーションの赤いドレスは、ダンスフロアを軽く見ただけで、直ぐに見つける事が出来た。この赤いドレスを着ている女性が、公爵令嬢であるカレン様だ。
---- やっぱり、凄い綺麗な人。
カレン様の動きは凛としながらも艶やかで、そこに辿り着くまでの研鑽を感じさせる。
カレン様の対角先に目を動かすと、王太子であるオスカー殿下とリリア様の、仲睦まじい姿が目に映る。
リリア様は淡いピンクのドレスに身を包み、柔らかな笑顔をオスカー殿下に向けている。オスカー殿下の表情は見れないが、仕草からリリア様への愛情を感じられた。
---- リリア様は可愛らしい方ね、思ってた通り正反対な二人だ。
シアは、ダンスフロアにオスカー殿下とリリア様が、入場した時の事を思い出す。
生徒達から様々な声が上がる中、リリア様は俯きながらオスカー殿下にエスコートされていて、カレン様は、そんな二人の姿を一見しただけで、表情は変わらないまま、違う方向に顔を向けた。
-------- 貴族の政略的な婚約については、よく分からないけど、自分の婚約者が、違う人と歩いてるのを見るって、どんな気持ち何だろう。
カレン様は見た感じ、気にされてないようだけど、殿下に相談するって事は、オスカー殿下の事好きなのかな?
シアは首を横に振ると、ダンスフロアへと目線を戻す。
そういえば、殿下とセバスは何処にいるんだろうと、ダンスフロアを角から見回すものの、二人の姿がない。ただただ、生徒達の楽しげな姿ばかりが目に映り、今まで見た事がない光景に、シアの胸が弾んだ。
夜会も終盤になり、何も起きない事に安堵していると、ダンスフロアの一か所に、何やら人が集まりだす。
気になり目を凝らして見れば、カレン様がいる方にオスカー殿下がリリア様を連れて歩き、カレン様と対峙する位置で足を止めた。オスカー殿下の横にいるリリア様は、何故か泣いてるように見える。
------- 何かが起きるのかも。
二人の声を聞く為、場所を移動すると、小さくではあるが声が聞こえ始めた。
「カレン、申し訳ない。私はリリアを愛している。だからカレンとは結婚出来ない」
「そう---- ですの。分かりましたわ。私と婚約を解消するという事は、王太子の立場も捨てる覚悟はありますわね?」
「---- ああ、王太子の地位は、シュバルトに渡そう」
様々な悲鳴が飛び交い、シアはカイとマリが動き始めたのに気づくと、階段を駆け下り、カレン様に近づき待機する。
「そこまでにしましょう、兄上。この場では、落ち着いて話せません。カレン様もお辛いでしょう。そこの騎士、こちらに」
カイと私は殿下の合図が聞こえたので、人集りを掻き分け、打ち合わせ通りカレン様を連れて夜会会場の外へと動き出した。
カレン様の表情を覗き見れば、先程の出来事が嘘のように、穏やかな表情をされていて、決して俯く事なく前を向いている。
私は、そんなカレン様の姿を見て、強い人なんだなと思った。
殿下のサロンの入り口に着くと、先回りしていたマリとセバスがカレン様を迎え、お茶を用意しながら丁寧にもてなしていく。
カレン様はソファに腰を下ろすと、小さく息を吐き出した。
「あなた達が、シュバルトが言っていた方達ね。有難う御座います。」
カレン様は私達に向けて、軽く頭を下げる。
どのように返せば良いのか分からず、考えているとセバスが綺麗な所作でお辞儀し、口を開いた。
「礼は殿下にお伝え下さい。私達は、カレン様にこちらでお待ち頂くよう、言われただけですから」
私達三人もセバスに続いて、カレン様へとお辞儀する。
「そう、ではゆっくりさせて頂くわね」
カレン様が、お茶をゆっくりと味わっていると、サロンの扉が開き殿下が現れた。
「カレン様、兄上が無礼な振る舞いをした事謝ります。申し訳ありません。代わりに謝罪致します」
「いえ、シュバルトは悪くないわ。確かに、なぜあの夜会で事を進めたのか、疑問は残りますけども、怒ってはいないわ」
殿下はいつものような雰囲気ではなく、オスカー殿下への怒りを表面に出して、王族らしい振る舞いを見せている。
「カレン様---- 兄上はあなたを裏切ったのです。怒って良いのですよ? しかもあんな人前で、あなたを傷つけるなんて---」
「いえ、怒るなど---- 私は羨ましく思っていますわ。愛する方との婚姻を、自分の立場も無くしてでも求めるなんて、私には出来ませんわ。それに私、愛を知りませんの。二人の姿を見て、怒るどころか、羨ましく思いますわ。私も誰かを愛して、愛されてみたいと願ってしまう程に----」
私達は無言のまま、殿下とカレン様の様子を見守っていた。
カレン様の話しを聞いていると、何故かバルトさんの事が頭に浮かび上がる。バルトさんからもし愛されたら、どんな感じなのだろうと想像してしまい、抱き上げられた時に感じた腕や、私の髪を触った指を思い出し、熱くなる自分の身体を抱きしめた。
感じた熱さを逃すよう、深く息を吐いていると、殿下がカレン様の前で片膝をつくと、緊張した様子で口を開いた。
「カレン様。私がこれから口にするのは、王太子になるからではありません。私は兄上の婚約者である、貴女に恋していました。涙を堪えながら正妃教育を受ける姿や、研鑽を感じさせる所作の一つ一つが全て愛おしく。私は今回の兄上の行動を予測していましたが、あえて止めませんでした。兄上が貴女と婚約を解消すれば、私は貴女に手を伸ばす事がやっと出来ると、思ったからです。カレン様、私は貴女を愛しています。私と共に歩んで頂けませんか?」
カレン様は殿下の言葉に驚き、口を両手が隠しながら顔を赤く染めた。殿下とカレン様は、長い間見つめ合っていたが、カレン様の目からポロポロと涙が溢れ出すと、カレン様の手を殿下が優しく包み込んで、優しい声が殿下の口から流れる。
「私の奥さんになって頂けませんか? 必ず貴女を、幸せにします。私と結婚して下さい」
殿下は、自分の言葉に小さく頷いたカレン様を見ると、カレン様の身体を優しく抱きしめた。
二人の姿に感動していると、小さな嗚咽が聞こえ出したので、横を見ればマリが涙を流している。二人の邪魔にならない様、カイにマリを引っ張って貰いながら、私達は部屋を静かに退室した。
「殿下って、何で婚約者を作らないんだろうって思っていたけど、カレン様が好きだったのね。一途な愛って素敵ね。殿下の事見直してしまったわ」
マリの言葉に頷き、シアは夜の空を見上げる。
私も誰かに、あんなに愛される日が来るといいな、と星に願いながら、寮への道をゆっくりと歩いた。




