14.-バルト視点-前半
バルトはコーサを連れテントの周りを重点的に目を凝らしながら歩く。
毎年、学園の騎士課一年がこの時期に野営演習を行う為、騎士団第二から第四までが持ち回りで演習に参加する事になっている。
騎士団第一は城内や王族、城に勤める重役を主に警備する為、学生の演習には参加しないのだ。
学生にとって初めての野営演習は羽目を外すことが多く、夜には必ず団長が見廻りをする慣しになっている。
学生達が設置したテントを通り過ぎ、少し離れた教官のテント近くまで歩いて行くと音が聞こえてきた。
足音を消しながら近づいていくと、ガッと何かがぶつかる音と共に数人はいるであろう男の喚き声が聞こえて来る。
-------- なんだ?
更に近づくと、男が何を言っているのかがはっきりと分かった。
「お前さ、野営なめてんの? こんなんつけて女だからって許されると思うなよ!」
「やめて! 離してよ!」
女の声---- あのシアって子か? 何が起きてるんだ?
バルトは歩くのを止めて駆け出した。
「やめてじゃねーよ! しかも孤児の癖に金の腕輪だぁ? どうせ取ったやつだろ?!」
暗いながらも人の形がハッキリと分かる距離に差し掛かると、地面にお尻をつけた細い身体の周りに、四人の男が囲むように立つ姿が目に映る。
更に近づくと、一人の男が地面に座る細い身体の腕を片手で高く持ち上げ、もう片方の手でこれから殴るかのように拳を作り前に振り下ろそうとしていた。
「あぁ、フードなんか被るんじゃねーよ!」
-------- なんて事だ。
女に手をあげるのは騎士として絶対にしてはならない。しかも女1人に四人だと?
バルトは意識的にいつもより低い声を出した。
「お前達、何してるんだ?」
男達が慌てるかのように振り返り、俺の顔を見たと思うと全員が顔を下に向け始めた。
「とりあえずお前らはコーサと共に行け。コーサ、あいつらを連れて行け。」
「分かりました。---- お前らついて来い。」
コーサの声色から怒っているのが分かる。コーサは女にだらしないが、女に手を出す奴には団の中でも特に容赦無いからな---- あいつらを任せるのに丁度良いだろう。
コーサとあいつらが見えない距離まで歩いていったのを確認すると、フードを深く被ったまま地面に座り込む細い体に近づく。安堵したのか深呼吸をする息の音が聞こえ、バルトはようやく口を開いた。
「大丈夫か? 何されたんだ?」
「あ--- 有難うございます。すみません。」
------ 白金の髪? 確かシアって子は茶髪ではなかったか?
フードから流れ出る髪の色は確かに白金で、暗闇の中でも輝いているのが分かる。フードの隙間から女と目が合うとそこには微かに見覚えがある白金の瞳が見え、何故か息が止まった。
「私、形見の腕輪が取られてしまって、取り返して欲しいんです。助けて貰ったのにすぐお願いしてすみません。--- でもどうしても返して欲しいんです。」
---- 瞳が潤いながら涙を流す姿を見て、初めて女に美しいと感じた。白金の輝く髪と瞳は神秘的で目が離せない。
「---- 分かった。取り敢えず俺のテントで傷の手当てをしよう。コーサに腕輪は持ってきてもらう。」
膝を降り気づけば地面に座り込む女を両手に抱えて歩いていた。
柔らかな感触でありながらも華奢な身体に戸惑う。微かな寝息が聞こえ、抱き抱える女の身体がより小さく感じる。
---- 10も歳が違うのに何を考えてるんだ、俺は。
自分のテントに運び、寝袋の上に女を一度寝せて火を灯してから再び女を見る。
髪の色は白金で間違いなく、目を瞑っているが、瞳の色も見間違いではないのだろう。
顔をよく見てみれば、片方の頬が赤く腫れているのに気づきタオルを水につけて冷やすようにタオルを頬にあてる。
明日には痣になるだろうに、あいつらは何でここまでしたんだ。
---- 他に演習に来ていた女はいただろうか?
考え混んでいると、テントの外からコーサの声が聞こえたので女を寝かせたままその場から離れ外に出た。
「あいつらのうち一人がこれを持ってました。記憶ではシアちゃんが手首につけていた腕輪だと思います。」
コーサが金の腕輪を見せてきたので、女から言われた腕輪と同じだと思い受け取った。
「今シアって子がしてたと言ったか?」
「はい、半年前の広場で会った時にシアちゃんの右手首に金の腕輪があったのを記憶しています。シアちゃんは5年前のタリジア国の襲撃された街にいたらしく、お礼を言われたので覚えていました。」
タリジア国---- あの時の襲撃か?
「シアって子は確かにあの街にいたと言ったんだな?」
「はい、間違いありません。その襲撃で騎士に助けてもらったから騎士課に入ったと聞きましたので。」
-------- 白金。------ あの時の子か!
「分かった、あいつらはどうした?」
「今担当の騎士達が懲らしめてます。私からは違う形で対応します。任せてもらえますか?」
コーサの瞳の奥からは強い怒りが感じとれる。
「分かった、コーサ。お前に任せよう。腕輪はシアって子に返しておく。それであいつらは何でこんな事をしたんだ?」
「シアちゃんに暴力を振っていたのが、近衛隊にいらっしゃるザガリー卿の嫡男でした。どうやらシアちゃんが孤児であり女でありながら騎士課にいるのが目障りらしく、一人だけ教官と行動を共にし我々と話していたのが気に食わなかったようです。」
「分かった。城に戻った時には俺から話しをしよう。」
深くお辞儀をしてから立ち去るコーサを見送ると、バルトはテントに戻りシアの横に腰を下ろした。
---- 通りで見覚えがあるわけだ。あの時の子だとは---- 人の成長は早いものだ。
あの時の事はよく覚えている。密偵からターダ国の動きが妙だと当時の団長に連絡が来た為、コーサや他の騎士達と共にタリジアの国境壁へ向かっていた時だった。
馬に乗り走っていると、森にも爆発音が鳴り響き遠くの空が赤く染まったのを見て国境壁に急いで向かっていた時だった。
男の声が聞こえて、目線を前からずらすと子供に手をかけようとする兵士の姿が見えたので、馬から飛び降り剣を抜きながらその場に駆け寄った。
片手に子供を抱えて戦うのは不利ではあったが、どうにか打ち勝ち子供を地面に降ろすと、煤で汚れていたが綺麗な白金の髪に澄み切った白金の瞳が目に映る。その後意識を失った子供を抱えて街に出てみると、言い表せない程の悲惨な状況に喉がなった。
コーサや他の騎士達に指示を出し、国境壁に残る騎士と力を合わせターダ国の兵を打ったが、街は見る影もないような状況で子供を騎士に預けてタリジア国の王の元へと走った。
-------- 確かあの時の子供も金の腕輪を手に持っていたな。
意識を失っても腕輪を離さなかった子供の様子が頭に浮かぶ。
そうか。ちゃんと生きてたんだな、良かった。
シアのフードを一旦剥がし、服は肌が見えて良いところまで全体的にまくると、傷の手当てを顔から順々にしていく。
---- 女性騎士を連れてくれば良かった。
バルトは少し後悔しながらも、シアの顔や腕の傷の手当てをすませ、掌を手当てしようと持ち上げた時手首に丸い線に囲まれたダイヤの印が目に入った。
---- 二属性持ちなのか。ジルベート王以外で初めて見たな。
髪や瞳の白金の色といい、何かあるのか?
バルトは掌にあった傷の手当てをし終えると、金の腕輪を取り出し属性の印が隠れるよう右手にはめた。シアに腕をはめたとたん、白金の髪が茶色の髪に変化するのをはっきりと目にした。
この魔道具は一体---- 金の腕輪がよく見えるようにシアの右手ごと持ち上げる。
魔道具は一般的な家庭に出回る事はなく、貴族以上が持つ事が多い為バルトは首を傾げた。
その中でもアクセサリー型で見るからに金を使った魔道具は、上位貴族でさえも持てないほど数が少ない。
---- 何故この子がこんな魔道具を。しかも色を変えるのか。
確かに白金色は珍しいが隠す理由は何なのだろう。
しかも形見と言ってたな、母親なのだろうか?
侯爵家で育った自分にさえ答えが出せないという事は、それ以上という事なのか。そうなると公爵か王族になる。
しかし王族であれば金の色のはず---- 少し調べるか。
先ほど見たシアの美しい姿を思い出す。
顔が腫れてしまっているが、目を瞑っていても整った顔立ちであると分かる。
------ これは誰にも言えないな。
バルトは眠るシアを両手で抱き抱え、起こさないようにゆっくりと歩き教官のいるテントへと連れていった。
バルト視点は書いてて楽しいです!




