13.野営演習-後半
「あー、メシが上手い! 女の子がいると全然違うな。シアちゃん第二騎士団に入りなよ! 待ってるからさ!」
「ああ、シアちゃんがいれば助かる事だらけだな!」
テリー達に突き飛ばされてから二日が経ち、今は野営最終日の夜。明朝に野営場で最後の鍛練をすれば、片付けをして学園へと戻る予定だ。
バルトさんに抱えられた所までは覚えていたが、意識を取り戻すと教官が隣で寝ていて私も自分のテントで寝かされていた。
慌てて手首を見れば、腕輪が元の場所にあったのでホッとする。
怪我をした場所は手当てされていて、倒れた時に地面に打ちつけた顔を触れば頬が腫れてるのか両頬の膨らみに差があり、膨らみが大きい方には鈍い痛みがあった。
テントを出ればまだ起き出す時間には早かったようで、再び自分の寝袋に戻り陽がもう少し上るのを目を閉じながら待つ。
------ バルトさんには見られたかな。目は閉じてたけど髪の色はバレたかもしれない。でもバルトさんには一度助けられた時に見られてるから大丈夫かも。むしろあの時の子が私って分かってくれたら良いな。
陽が先程より高くなったのを確認して食事の用意をしていると、私の頬を直視出来ないのか横目でチラッと見ながら騎士の方々がぎこちなく朝の挨拶をしてくれる。
それからというもの先程のような温かい言葉を常にかけてくれるようになり、私も皆からの優しい気持ちが嬉しく野営演習であるのに和やかな雰囲気になっていった。
テリー達はどうしているのか---- あれから会う事もなく、バルトさんやコーサさんも同様でお礼を言いたくても言えていない。
------ 帰るまでにどうにかお礼を言わなくちゃ。
そう思ってると、教官から切羽詰まる声が聞こえてきた。
「シア! シアはいないか!?」
普段聞くことがない声に戸惑いながらも、教官の声が聞こえる方へ足を進めた。
「教官、どうしましたか?」
「怪我人がいるんだ! 治癒をお願い出来ないか? こっちだ!」
教官に腕を引っ張られながら人だかりが出来てる場所に着くと、皆が青い顔をしながら道を開けていく。どうしたのか分からずにいると教官が足を止めたので、教官の隣に立つ。
地面には怪我をして倒れている人が目に映った。
「------ っ。」
声にならない声を出しながら少しよろけると、隣にいる教官が私の腕を掴んで口を開いた。
「演習で見回りをしていた時に獣が出たんだ。結構な数がいたみたいでな、ここら辺ではあまり見かけないから油断してた。シア、すまないが今はお前が頼りなんだ。」
------ 獣。どうして? そ、そんな事より怖がったら駄目。
ここで目を逸らせば騎士になんかきっとなれない。
シアは怖い気持ちを抑えると、意を決しながら倒れている人に近づき、地面に膝をつけ血が溢れ出てる場所に手を添えて想う。
------ お願い、治って!治してあげたいの。
シアが手を添えた場所から白い光が現れて、倒れている人の全身を包み込んだ。手を添えた場所の傷を防いだのか血が固まったので、次々と倒れている人の側に膝をつけて同じ動作を繰り返していく。
---- うん、魔力はまだいける。
倒れていた五人の治癒が終わり、最後の一人の側に近づいた時シアは気づいた。
------ テリー。
血で顔が隠れていて気づかなかったが、顔をよく見るとテリーが頭から血を出して倒れていた。
少しの間動きを止めて見てしまったが、シアの頬にある痣を作ったのがテリーであると知っているのか誰も声を発しない。
------ やられた事は許せないけど、死んで良いわけじゃない。
シアはテリーの頭に手を添えて治癒をかけようとするが、発動する気配がなく光が出てこない。
----- 私--- 心から想えてないのかも。
何度も発動するよう心に問いかけるが光が現れず、目から涙が流れ出す。
------ やだ、このままじゃテリーが死んじゃう。死なせたいわけじゃない!
いきなり左肩にポンっと誰かの手を置かれたので、視界がぼやけながらも左に顔を動かすと、赤い瞳が見えた。
「セシルさんからなんて言われたか思い出すんだ。」
------ セシルさん? セシルさんの言葉----
----------。
「シアは想いだから、治れ! とか治す! でもいいと思うのよ。----」
治れ? 確かセシルさんが言ってた。想いだから命令や気合でもシアは治せるんじゃないかって。
---- 悩んでても時間がかかるだけ、やれる事はやってみる。
もう一度テリーへ顔を向けて、手を頭に添え直し心の中で言葉を繰り返す。
--------- 治れ、治れ! 治ってよ!
繰り返していくと、今までよりも強り光がテリーとシアを包み、光はテリーの頭の傷へと流れて消えていく。
光が完全に無くなると、テリーの頭の傷が完全に無くなり、なぜか頭以外にあったはずの傷でさえも無くなっていた。
テリーが目を開けたのと同時に、シアは沢山の魔力が一気に抜かれたかのようにダルく、膝立ちでさえも辛く感じてそのまま地面に座り込む。
「よく頑張ったな。」
バルトさんの声が聞こえたかと思うと、自分の体が宙に浮きバルトさんにまた抱き抱えられる。
シアは安堵と体のダルさもあって、恥ずかしさよりもバルトさんに抱かれる温かさを感じて気が緩み涙が止まらず流れていく。
バルトさんは私を片抱きしたまま歩き出し、私を逃すようにその場から離れた。バルトさんは歩いたまま優しく頭を撫でてくれるので、涙に加えて嗚咽が出始めお礼の言葉が伝えられない。
テントに着きバルトさんが私を寝袋の上に降ろすと、そのままテントから何も言わずに出て行こうとしたので、私は咄嗟にバルトさんのズボンを掴んだ。
バルトさんは驚いたのか私の方へ振り向くと、いつものようなキリッとした表情ではなく、少年のような慌てた顔をしている。
「------- 有難う御座いました。こないだも、今日も、その前も------- いつも助けてくれるのに直ぐにお礼が言えてなくてごめんなさい。」
---- バルトさんにやっと言えた----。
バルトさんのズボンを掴んだまま頭を下げていると、バルトさんは私の頭を少し乱暴に撫でたので、私はバルトさんのズボンから手を離し、ぐちゃぐちゃになった頭を手で抑えた。
「---- ん。」
一言だけ聞こえたと思ったら、バルトさんは振り返りテントから出て行ってしまう。
------ 何と表現すれば正しいのか分からないほど胸が激しく動き、顔や手が熱い。目を瞑ればバルトさんの赤い瞳が浮かんできて、胸が苦しくなる。
シアはそのまま横になり、眠れないまま演習最終日の夜を過ごした。
シアが泣いてばかりですみません。




