12.-野営演習-前半
「ねぇ、シア? もう--- シアったら!」
「--------- え? なしたのマリ?」
マリの声が聞こえて、キョロキョロと周りを見渡す。
「もー、何回呼んでも気付かないなんて最近変よ? お昼食べに行きましょう?」
バルトさんを見つけた日から、確かにバルトさんの事を考えてボーっとしてる事が増えた。
セシルさんの話しでは、バルトさんは侯爵家の嫡男で見た目と家柄もあって凄く女性にモテるらしい。
------ あんなにカッコいいもの。
でも憧れるのは自由だ。まだきちんとお礼言えてないし。次あったら頑張って声をかけなきゃ。
私はマリ達と共に食堂へと歩き出した。
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「それでは、明後日野営の演習へと向かう!明日の準備も勉強だからな、各自しっかり行うように!」
バルトさんに会ってから半年が経った。
途中にあった中間試験も良い成績を出せたし剣もある程度使えるようになり、教官にお願いして授業後には治癒魔法の実践もさせて貰えたので発動に不安はなくなっている。
セバスからあの時教えて貰えて良かった。気づかずにいたら、きっと今と違っていたと思う。まだまだセバスの努力には追いつかないけど、頑張らなくちゃ。
シュバルト殿下とは城に行った後も交流していて、緊張なく話せるようなった。皆で週に一度は集まってお茶をしている。入学前に想像していたよりも充実した日々に顔が綻んだ。
「シアだけちょっと残りなさい」
---- なんだろう?
教官に引き留められたので、足を止める。
「明後日からの演習だが、シアは私達とチームを組む事にした。さすがに野郎供の中に放り込めんからな。あと、外に出る時には必ずフードのついたローブを着て動くよう慣れた方が良い。女だと狙われやすいからな」
----- 教官とのチームは有難いと思う。カイと違う班になれば不安しかなく、ここ最近カイとどうするべきか話し合っていたからだ。不安も減るし、これで野外演習に集中出来る。
「分かりました! 有難うございます!」
「よし、じゃあ明日の準備頑張れよ。あと、野郎供に何かこの事で言われたら必ず言えよ。あいつらまだ実戦を経験してないから、治癒師がいるのがどれほど助かるか分かっていないからな」
教官の言葉に頭を下げ、待ってくれていたカイの元へと向い教官の話しを伝える。カイは私から話を聞いて凄く安心していた。
翌日、野営準備をしっかりと行い、確認の為中身を入れたリュックを背負うと想像以上に重い。明日の野営演習先への移動に少し不安を感じながらも眠りについた。
「皆集まってるな! 今日これから野営先に向かい、野営演習を始める! 各班毎に並べ!」
皆が班毎に集まり並んでいる中、私は教官に近い場所で一人で立つ。
立っていると、いつも嫌味を言ってくるテリー達からの睨むような視線に気づいた。
---- やっぱり、何もなければいいけど。
「よし、まとまったな! お前ら喜べよ、今回の演習には第二騎士団の騎士達がお前達の面倒を見てくれる事になった! 実戦経験の多い騎士達からちゃんと学んでこい、分かったな!」
「「はいっ!」」
「では騎士団とは野営先で合流する! 班毎に固まり野営先へ出発するように!」
演習先に教官達と向かう私は、生徒の全班が出発するまで待機する。皆がいなくなると私も重いリュックを背負って、のそのそと教官と共に歩き出した。
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「私が第二騎士団の団長バルトだ。隣は副団長のコーサ。部下が皆の面倒を見る、宜しくな」
演習先にどうにか辿り着くと、バルトさんが皆に挨拶をしていた時だった。私がリュックの重さから歩くのが遅くなってしまい、到着が大分遅くれたようだ。
「じゃあ、各班毎にテントを設置し見回り等決められた動きをするように!」
教官が指示を出し、野営演習が始まる。
私は教官とテント設置をした後、食事の準備をしに食事係のメンバーの元へ向かっていると、バルトさんとコーサさんの姿が見えた。
「あれ、シアちゃん! 野営にも来たんだね!」
「おい、コーサ。あまり慣れ慣れしくするな。セシルさんからも言われてただろ?」
私が城に行った事がバレないようセシルさんから話してくれたんだ-----
「あ、そうだった。--- シアちゃんごめんね?」
「いえ、野営演習ではお世話になります! 宜しくお願いします!」
とりあえず挨拶だけしてその場からすぐ離れる。
------ バルトさんとお話ししたかったな。まだお礼も言えてないし、でも目立つのは避けよう。
来るまでは大変だったが、接するメンバーが限られていたので思いの外楽しく、時間が過ぎていくのが早かった。
---- カイと離れて不安だったけど、これなら大丈夫そう。
そう思いながら一日目が無事終わった。
野営ニ日目。
昼間に第二騎士団の騎士達から剣の指南を受ける。
中にはセシルさんと治癒魔法の練習の時に集まってくれた騎士もいて、剣の打ち合いをした後、剣の持ち方や振り方を細かく教えてくれた。
いつもより少し疲れながらも食事係の仕事を終え、暗い道を歩きテントに向かっていたら、いきなり後ろからドンっ! と突き飛ばされ顔を地面に打ちつける。
------ え? なんで?!
いきなりの事に驚き、打ち付けた箇所に痛みを感じるがそれ程ではなく、直ぐに上半身を起こして後ろを見た。
「お前、調子こいてるんじゃないぞ? なんで団長様達と普通に話してたんだ?」
テリー達が私を上から見下ろし、汚い言葉を吐き続ける。
---- 耐えなきゃ。
怒りのような---- 何かが切れるような感情が胸の中をグルグルと回りだす。テリー達を見る目に自然と力が入ってしまい、睨むように見てしまう。
私の睨む目に気づいたのか、テリーの右足が私の左腕の脇を蹴り上げ、ガッという音と共に強い痛みを感じて地面に倒れる。
痛い--- でも我慢しなきゃ。泣いたら余計に駄目。
視界が歪んできたが、唇を強く噛んでどうにか耐えた。
セバスやマリ、カイだって耐えてるんだから----
テリー達の喚き声が一旦止んだと思うと、右手がいきなり引っ張られ腕に痛みが走る。
「お前さ、野営なめてんの? こんなんつけて女だからって許されると思うなよ!」
---- 何で---- それだけは駄目!
「やめて! 離してよ!」
「やめてじゃねーよ! しかも孤児の癖に金の腕輪だぁ? どうせ取ったやつだろ?!」
テリーはそう言い放つと、私の腕から無理矢理腕輪を抜き取った。
フードが脱げていた為、私は腕輪が抜かれると同時に痛む左手をフードに無理矢理伸ばし思っ切り深くフードを被る。
「あぁ、フードなんか被るんじゃねーよ!」
------ やだ! 何で? どうすれば良いの---- バレちゃう。
ボロボロと涙が勝手に流れ出す。どうする事も出来ず、ただただフードを強く握りしめた。
「お前達、何してるんだ?」
------ 助かっ--- た?
低いテノールの声が聞こえるが、瞳の色も変わってしまっている為顔が上げられない。
「とりあえずお前らはコーサと共に行くんだ。コーサ、あいつらを連れて行け」
「分かりました。---- お前らついて来い」
足音が遠ざかり安堵したが息をしてなかった事に気付き、深く深呼吸をする。
先ほど痛みを感じなかった顔や掌に、ジンジンと痛みが走り出した。
「大丈夫か? 何されたんだ?」
バルトさんの声を聞きどうしようかと思いつつも腕輪が取られた事を思い出し、瞳の色が極力分からないようフードを深く被ったままバルトさんへと顔を上げる。
「あ--- 有難うございます。すみません。」
バルトさんは一瞬、目を見開いていたようだったが気にせず言葉にする。
「私、形見の腕輪が取られてしまって、取り返して欲しいんです。助けて貰ったのにお願いしてすみません--- でもどうしても返して欲しいんです」
自分の視界が歪み頬が濡れていく感触を感じながらも、バルトさんの目を真っ直ぐ見てお願いした。
「---- 分かった。取り敢えず俺のテントで傷の手当てをしよう。コーサに腕輪は持ってきてもらう」
バルトさんは膝を曲げると座ったままの私を両手で抱き上げて歩き出す。
温かい体温に温もりを感じ、私は目を閉じたままバルトさんに体を預けて意識をなくした。




