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シアの赤い空  作者: 光政
11/35

11.-赤い瞳-


 高く聳え立つ城の裏門へ到着し、馬車に乗ったまま門を潜る。使用人が使うだろう扉の前で馬車が止まったので、気早く降りて城を下から見上げた。


 --- うわぁ!


 尊厳さを感じさせる石造りの城は、裏でさえこんなに完成されているのに表はどれだけ凄いんだろうと思う。


 キーッという音が鳴り扉が開くと、きっちり七三分けをしたグレーの髪に眼鏡をかけた人が現れた。


 「シュバルト殿下のお友達ですね? 私、侍従長のビルドと申します。シュバルト殿下の元へ案内させて頂きます」


 胸に片手をあてて頭をすっと下げる姿は、狂いがなく素晴らしいの一言につきる動作。そんな侍従長に恐縮しながらついて行き、シュバルト殿下の部屋へと向かう。


 使用人のフロアを抜けたとたん重厚感溢れる廊下に出た。壁に飾られた人物画に目を奪われながらも足を動かしていく。


「なんか---  歩くだけで緊張するな」


「そ--- そうね、なんだか申し訳ないわ」


 カイとマリが小声で話す中、セバスが背筋を伸ばしながら堂々と歩いている。その姿に感化され、私も背筋を出来るだけ伸ばした。


 豪華な扉の前で侍従長の足が止まり、中に声をかけると扉が開く。


 喉を鳴らしながら中に入ると、窓際の椅子に優雅に座ったシュバルト殿下の姿が目に映った。


「皆よく来たね。とりあえず座って!」


 部屋の真ん中に配置された豪華なソファへおずおずと腰を下ろす。侍従長が私達のお茶をセットし一礼して部屋から出て行った。


 「ビルドってさー凄くない? いつみても完璧過ぎて面白いんだよ!」


 「素晴らしいですね、あの無駄がない綺麗な動き、学ばせて頂きたいです」


 シュバルト殿下とセバスの会話に耳を傾けつつ部屋をキョロキョロと見渡す。


 ---- 凄い、これが王族の部屋なんだ。ここだけでお風呂場くらいの大きさがある。ベッドがないけど寝室は別なのかな?


 「それでセバス、完璧だったろう? これで誰にもバレないよ」


 「はい、有難う御座いました。帰りも是非、宜しくお願いしますね?」


 学園が休みの為、寮に外出届を出してから学園に程近い辻馬車乗り場に行き、そこでシュバルト殿下が手配した馬車に乗り込んでここまで来た。


 知らない人から見れば、貴族の使用人や購入された商品を届けに来た商人にしか見えないようにしたとセバスから聞いて、なるほどっと言葉にする。


 「じゃあお茶も飲んだし、医師がいる部屋に早速行こうか!」


 立ち上がったシュバルト殿下に続き、先程とは違うシンプルな石作りの廊下を渡っていく。


 --- 城内の作りは場所によって違うんだ。さっきは王族が住む場所だからあんなにも重厚な作りだったのかな。


 騎士になれれば歩くだろう廊下をよく見ながら思いを馳せる。


 「ようこそ、良く来たわね!」


 出迎えてくれた医師は女性で、歳を重ねてはいるが赤いゆるやかなウェーブがかった髪の綺麗な人。サバサバした物言いが親近感を強く感じさせた。


 「私、シアといいます。今日は宜しくお願いします!」


 「会えて嬉しいわ! 私はセシルよ宜しくね、シア!」


 私の挨拶にハグしながら挨拶を返してくれる。


 久しぶりにマリ達以外の温もりを感じ、セシルさんがいい人そうで良かったとホッとした。


 「今日は光属性の学び方よね? シアの条件は何なの?」


 「私の条件は想いです。心から想う事で発動するみたいなんですが、あまり上手くいかなくて---- セシルさんの条件は何ですか?」


 「想いか--- なるほどね、私の条件は願いなのよ。光属性の条件って気持ちを使う条件が多いのかしら? 私が属性を持った時には他に二人の光属性がいてね、今は亡くなってしまったけど、その二人の条件は愛と悲しみだったのよ」


「---- 愛と、悲しみですか?」


「えぇ、悲しくなると発動するみたいよ? 心から悲しくならないといけないから大変だったみたい。愛は聞いてもよく分からなかったわね、愛があれば大丈夫! ってその人は言っていたんだけど---- シアは想いだから色んな発動方法が出来るかもしれないわね?」


「色々な発動方法---- ですか?」


「そうよ、私の場合願いだから、治してって願うけど、想いなら私と同じでも良いし、治れ! とか治す! でもいいと思うの」


 そこからセシルさんが詳しく条件や発動について説明してくれて、近くにいた皆もそれぞれ頷いたり、なるほどっといった声を出しながらセシルさんの話を真剣に聞いている。


 「では実践してみましょう!」


 セシルさんは机に近づくと、小さなナイフを取り出しいきなり指を切りつけた。


 そして切りつけた指を私の目の前に突き出し、傷口をはっきり見せる。


 いきなりの事に動転していたら、セシルさんの指が淡い白い光に包まれ傷が消えていく。


 「あら、出来るじゃない?」


 ---- え? 私が治したの?


 「--- 私、ですか?」


 セシルさんは素敵な笑みで頷きながら口を開く。


 「そうよ、傷を見てシアは何を想ったの?」


 「え? 早く治さないとって思いました。でも動転していたので、強く想ったのかまでは分からないです」


 「ふふ、それで良いのよ。あなたは想いだから実際の傷を見たら早いと思ったけど、やっぱりそうだったわね」


 私が驚きを隠せずにいると、セバスがセシルさんに向けて手を上げた。


 「質問しても宜しいですか? シアは想像の明確さや、時間短縮の為体に慣れさせる練習はしなくて良いということですか?」


 セバスの問いにセシルさんは詳しく説明してくれる。


 光属性は治癒を施す場所や内容によって魔力の高さが関わるようだが、発動さえ出来ればそれほど練習は必要ないという。


 また治癒力は万能ではないから、瀕死の状態では助けられない場合もあるし、体の部位が失われれば元に戻せられないとも言われた。


 「シア、私達は治癒の力はあるけど神ではないから無理な時もあるわ、そういう時自分を責めちゃ駄目よ?」


 セシルさんの表情が、先程とは違って哀しげな表情になる。


 ---- セシルさん、大事な人でも亡くしたのかな? 


 私も治癒力があったのにマーサを亡くしていたら、自分を責めてきっと許せなかっただろうな。


 「--- はい。でも助けられる人は出来るだけ助けたいと思うので、セシルさん! 治癒力を正しく使えるように教えて下さい!」


 セシルさんの表情は戻り笑顔で了承してくれた後、シュバルト殿下に向けて口を開いた。


 「殿下、集中して教える為にシアと二人になりたいのですが、宜しいですか?」


 「そうだね、もうお昼だし皆は僕とランチしに行こうか。シア、夕方前には迎えに来るね、セシル宜しく!」


 マリとカイはセシルさんに安心しているのか、軽く手を振りながら頑張ってねっと言って足早に部屋を出て行く。


 「じゃあ色々やってみようか!」


 セシルさんに魔力のコントロールや、発動が必要無くなった時の対処法、そして治癒を与える魔法が使用出来る距離といった内容を順々に教えて貰いながら一緒に魔法を発動させる。


 --- ちゃんと全部覚えないと。


 ノートに書き込みながら自分の指を使って実践し、セシルさんに分からない部分を質問していけばあっという間に時間は過ぎていく。


 セシルさんが、後は実際に治癒する対象がいれば良いんだけどねと呟いた瞬間、いきなり私の両肩にセシルさんの両手が勢いよくのった。


 「よし! 演習場に行こう!」


 ---- 演習場?!


 そう言ったセシルさんに手首を掴まれ、引っ張られながら先程のシンプルな廊下を進み、廊下の先にあった階段を降りていく。


 戸惑いながら引っ張られていくと、大きな広場に辿り着き奥の方から剣の音が聞こえてきた。


 「あ、やっぱりいた! コーサ!」


 剣を持つ騎士達に近づき、その中にいたコーサという男性に話しかける。


 「セシルさん、女の子を連れてきてどうしたんですか? 演習場は危ないですよ」


 短髪の赤い髪に騎士にしてはスマートな体格のコーサさんは、整った顔をしていて背が高く女性にモテそうな人だった。


 「この子ね光属性なの。治癒魔法を教えているんだけど、誰か怪我してない?」


 セシルさんの言葉にハッとして頭を下げる。


 「学園の騎士課1年にいます。名前はシア。宜しくお願いします!」


 「あ、君が噂の子なんだ! 騎士達に今話題なんだよ、でも何で騎士課なの? 女の子には辛くない?」


 私はどう言おうか悩む。だけどあの時助けてくれた騎士達がこの中にいるかもしれないと思うと、お礼を言わずにはいられない。


 「私、タリジアの国境壁近くの街が襲われた時その街にいて、騎士の方達に助けて貰いました。だから騎士になりたくて---- あの時は助けて頂き有難うございました」


 コーサさんに頭を下げた後、近くで様子を伺っていた騎士達にも頭を下げる。


 「君あそこにいたんだ。セシルさん分かったよ、今怪我してる騎士達を集めるからちょっと待ってて」


 セシルさんが云うにはコーサさんは第二騎士団の副団長らしく、第二騎士団は戦争時に先頭に立って戦うのを主にしているから実力がないと上にいけないらしい。


 ---- でもコーサさん、二十歳くらいにしか見えない。 若いのに凄いな。


 私がそんな事を思っていたら、セシルさんは私の顔から読み取ったのか、コーサと団長は二十三歳よと言ってきて更に私を驚かせた。


 セシルさんと話していたら騎士達が集まってくれたので、演習場の端に移動しセシルさんに教わりながら魔法を発動させる。


 治癒を実際にしていくと傷や痣といったものは治せたが、古い傷痕は治せず出来る事と出来ない事を徐々に理解していく。


 ただ完治した古傷の痛みに悩む騎士がいた。その騎士と話しをしていたら治してあげたいなと思い、治せないと分かっていながら古傷に手を翳す。


 少しでも痛みがなくなればと手を翳したら、古傷の所に白い光が見え出した。光が消えたとたん、騎士いわく痛みがなくなったようで感謝される。


 何でなのか考えていたら、セシルさんから想いが関係してるから色々試してみなさいと言われた。頷きながら治癒魔法を他の騎士達にもどんどんかけていく。


 中には時間がかかった人もいたが、練習よりもスムーズに発動でき、傷を治した騎士達からお礼を言われたり、騎士になれるよう頑張れと言葉を貰った。


 ---- 何で私が光属性? と考えていたけど人の役に立てる属性で良かったとここに来て思う。


 そう思いながらコーサさんへ終わりを告げる為、セシルさんとコーサさんの所に向かっていた時、黒色の髪が目に映った。


 胸の音が大きくなり、鼓動が早くなる。


 あの人---- なの?


 「あ、バルト! 今日は助かったわ!」


 セシルさんはコーサさんの横にいる黒髪の人に近づきながら声をかけた。


 振り向いて---- 


 長いマントに立派な騎士服を身につけたその人は、セシルさんの声に反応したのか、こちらに顔を見せるよう振り向く。


 私は赤い色が目に映り呼吸が止まる。


 あの時見た、黒髪に赤い瞳の人---


 あの時よりも男らしく精悍な顔つきになっていたが、絶対に間違いない。


 「いえ、コーサから聞きました。部下は役に立ちましたか?」


 低いテノールの声が聞こえ、赤い瞳から目が離せずにいた。


 「えぇ、この子がシアよ。騎士になるらしいから宜しくね!」


 「そうか、私はこの第二騎士団の団長でバルトだ。宜しく」


 ---- 優しい笑顔は昔のまま。


 私は挨拶も出来ずに言葉を忘れて、ただただバルトさんの赤い瞳を見つめた。

やっとバルトさん出せました!

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