10.-城へのお誘い-
4月1日に1話から全体的に文や流れがおかしかった部分を修正しました。読んだ方には申し訳ないです。
宜しくお願いします。
「さて、改めて自己紹介するね! 僕はシュバルトだ。皆宜しくね!」
食堂にいる人達から色んな思惑の目線が投げられる。縮こまりながらご飯を食べていたら、シュバルト殿下が楽しくないと言い出したので、セバスの提案でシュバルト殿下の私室に行きお茶を飲む事となった。
「こちらこそ宜しくお願いします。私はカイといいます。こちらがマリとシアです。セバスがいつもお世話になってます」
「世話してるよー。でも僕も楽しんでるから安心して。カイとマリとシアだね。もう十分緊張したよね。普通に話して良いから、ね?」
「殿下、緊張はしょうがないですよ、初めて話すのですから。--- カイ、私とか使わなくても殿下は気にされないから。」
セバスの砕けた態度に、少しずつ私達も緊張を溶かしながらシュバルト殿下と会話をしていく。穏やかな空気になった頃、シュバルト殿下は今回の目的を明らかにした。
「そうそう、それで2属性持ちなのは確かシア、君だよね? 印を見せて貰えないかな?」
どうするのが良いのだろう。肩に力が入る。
セバスから聞いたのかな---- それとも違う誰かから?
分からず無言のまま目を泳がしているとセバスが口を開いた。
「殿下は神官様から聞いていたそうだ。だからシア安心して大丈夫」
セバスの柔らかい表情と、神官様という言葉を聞いて安堵し肩に入れた力が抜けた。
セバスに一度頷いてから、腕輪と服の袖を肘の方に寄せてシュバルト殿下に見えるよう手首を前にだす。
「へぇ、本当だ。父上と同じように丸い線がある! 父上以外で目にしたのは初めてだよ!」
殿下は私の手首を食い入るように見て、満足そうに笑う。
「それで、魔法の勉強は出来てるの?」
城に勤める医師1人しか光属性を持つ大人がいない為、学園長からの指示を受けて騎士課の教官から魔法の基礎を学ぶしかなかった。
私は教官から習っている魔法の基礎を、シュバルト殿下に詳しく説明する。
まずは魔法を発動させる為に必要な条件を確認。
次に魔法を発動させるまでの時間を出来るだけ短縮させるよう、何度も繰り返し発動させ体に慣れさせていく。
魔法を発動させる為の必要な条件は私の想いだった。
火や水、風の属性は、頭に思い浮かべる事で発動されるようで、想像が具体的であるほど魔法の精度が上がるとカイやマリから聞いた。
思い浮かべるのではなく想いなので、心から願わないと発動するのが難しい。魔法を発動させる事は出来るようになっていたが、時間の短縮が難しくなかなかスムーズとは言い難かった。
説明を聞くと、シュバルト殿下は顎に手を添えながらなるほどっと呟く。目線を天井に向けて考えているようだったが、顎から手を外すと思いついたように胸の前で手を叩いた。
「決ーめた! シアさ、明後日僕と一緒にお城へ行こう!」
「えっ!」
両手で口元を隠し何でと言う言葉は飲み込んだが、驚きすぎて思考が追いつかない。
今日シュバルト殿下に会ってから驚く事が多すぎて、頭の中が整理出来ないままどんどん話が進んでいく。
マリに助けを求めようと横に座るマリをチラッと見たが、マリも驚いているのか珍しく口を開いたまま固まっていた。
「殿下、それは難しいのでは? 誤解されるのも嫌ですし、ましては孤児ですよ? シアだけ行かせるのは私も不安です」
セバスはいつもの事なのか、驚く事なく殿下に淡々と言葉を返している。
「また孤児っていう、何だかんだ貴族の遊びが楽しくなかったのかな? しかもさ何でシア1人なの? 君達も来るんだよ?」
えっ、と言いながらセバスは面を食らったような表情になり、口元がわなわなと動いた。
---- セバスでも焦るんだ。
セバスの初めて見る表情にシアは目が離せなかった。
「もー、悪い事は考えてないよ! 魔法の指導を受けに城の医師に合わせてあげようって思ったんだよ。珍しい属性は条件が異なるからね、僕は精霊属性で条件は涙なんだよ」
殿下の目が閉じたと思うと左目の端から一粒の涙が流れた。その瞬間、私達の周りを包むように薄く虹色をした膜が現れる。
殿下が指を鳴らすと、膜は弾けて見えなくなった。
「ね? 僕も涙を流す訓練は大変だったよ。ただ僕の場合は母上が同じ属性だったから、発動させる条件は違ったけど上達させるコツは同じみたいだったから、シアも会ってみると良いよ」
会いたい--- 行きたい気持ちになったが、城に行っても大丈夫なのだろうか。
今のままでは何かあった時、魔法を発動させるのに不安が残る。発動の短縮が出来るようになるならば医師に会って直接学びたい。
だけど--- 城に行けば注目され秘密がバレる可能性がないわけじゃない。
貴族達から何か言われて、マリやカイが傷ついたり皆に迷惑をかけるのは嫌だ。
行きたい気持ちと、行けない理由が気持ちを充満して正解が分からず、自分の気持ちなのに迷子になる。
「シア、行きましょう? 魔法学びたいんでしょ? シアが毎晩練習しながら辛そうにしてるの知ってるのよ。学べる機会があるなら行くべきよ」
「そうだな。悩んでてもしょうがない。どうしたら行っても大丈夫か考えよう」
-- マリとカイは私を見て心配してくれていたんだ---
「良い-- の?」
マリとカイの姿は涙で歪んで見えたが、私を見て微笑みながら頷いてくれた。二人に甘えるよう私はマリの首に腕を回し抱きつく。
「しかないな。殿下、城に行く件お願いしても良いでしょうか? 出来れば学園の他の生徒に分からないよう行きたいのですが、お願い出来ますか?」
セバスの問いに、シュバルト殿下は大きなため息を吐きながら眉間にシワを寄せて腕を組んだ。
その様子に私達は動けずにいると、シュバルト殿下が口を開く。
「あのさー、僕が何も考えてないと思う? セバスはまだまだ甘ちゃんだなー。僕泣いちゃうよ? 大丈夫だっていってるじゃん。」
セバスをシュバルト殿下は軽く睨んではいるが、口の端は意地悪そうに上を向いている。
セバスとシュバルト殿下のやり取りが大丈夫なのか分からず、マリの首に腕を巻き付けたままオロオロしているとセバスがシュバルト殿下を肘で突いた。
「意地悪はそこまでです。シア達が困ってますよ。殿下もそこまで言うからには、か、な、ら、ず、無事に城へ連れてって下さいね」
するとシュバルト殿下が声を出して笑いだした。
-- シュバルト殿下はこんな風に笑うんだ、これが素なのかな?--
見かけていたシュバルト殿下の姿からは想像出来ず、いつも作り上げた姿を皆に見せているのだと思った。
セバスとの関係が良いから、素を私達にも見せてくれてるのかもしれない。
セバスの今までの頑張りが見えて、私はまだまだ頑張らなきゃいけないと唇を噛んだ。
「あは、ごめんね、セバスって面白くてさ! 僕にこんな口聞くのセバスぐらいなんだよー、まあそれは一旦置いといて、シア、城に行くでいいよね?」
「はい、むしろ私からお願いしたいくらいです。提案して頂き有難うございました、宜しくお願いします!」
--- 皆の気持ちを無駄にしたくない。
私のやる気が伝わるよう、声に力を入れながらシュバルト殿下に伝えた。
「じゃあ、私達はこれで失礼します」
セバスはソファから立ち上がり殿下に頭を下げたので、私達もソファから立ってお茶のお礼を口にした。
「セバスはまだ残ってよね。明後日の打ち合わせをしないと。じゃあ皆また明後日、宜しくね」
セバスの事が気になったが、止まる事なくシュバルト殿下の私室からカイとマリに続き退室した。
扉を閉める際、シュバルト殿下のひらひらと手を振る姿が目に入ったので慌てて頭を下げる。
「セバスってやっぱり凄いわね。私疲れちゃったわ、シアは大丈夫?」
マリは歩きながら息を深く吸い込み、吐きながら片手で肩を揉んだ。
セバスがシュバルト殿下の従者として過ごしていると食堂で聞いた時にはよく分からなかったけど、先程のセバスと殿下のやり取りを見て、ニヵ月合わなかった間に誰よりも奮闘していたんだと感じた。
孤児院で従者になると決めていたセバスだったが、王族の従者になるとは想像しておらず、セバスが真剣に勉強を取り組んでいた姿を思い出す。
セバスから努力する事が先にどう繋がるか見せられて、尊敬よりも何だか悔しくなる。
自分の努力はまだ努力とはいえない----
マーサが言っていた生きろ! って言葉は、息をしているだけじゃない、きっとセバスのように奮闘しながら未来を作っていく事なんだ。
長く一緒にいたセバスには感謝しかない。私に生きるって事、改めて教えてくれたんだ。
後ろを振り返り先ほど閉めた扉を見つめる。言葉には出さず、セバスに向けてありがとう、と口を動かした。




