第十章:入れ替わり
こちらを見据える操くんを、混乱しながら見上げる。
白い半袖シャツにネクタイ、スラックス姿で腕を組んでいる。
短髪で、細目の整った顔立ち。
一見すると女の子にはとても見えないけど……
「え? え……? ええ……」
その姿を何度も上から順に眺め、疑問の声を上げる。
操くんは額に手を当てて、ため息をつき、桜屋敷さんは口元に手を添えて笑っていた。
ぼくは魚のようにパクパクと口を動かし、声を絞り出す。
「え……あ……じゃ、じゃあ……なんでスラックス履いてるの?」
「女子用のだが?」
「あ……」
そ、そうだ……そう言えば今は女子用のロングパンツもある。
「お、おっぺーは!?」
「元々貧乳だが、ないわけじゃないぞ?」
「ふえ!?」
抱きつくと、柔らかい感触があったのは……そういうこと?
女の子みたいな良い匂いがしてたのも、単純に操くんが女子だから……?
「こ、こんなにイケメンなのに!?」
「あ?」
「それは、中性的な顔立ちだからじゃないかしら。細目の男装女子って、そう見えますわよね?」
操くんの顔を手で示しながら、解説する桜屋敷さん。
SNSで、イケメンキャラのコスプレをした女性を見たことがあるけど、確かにこういう顔つきの人もいた。
そのまま髪を伸ばせば、美人に見えなくもない。
「こ、声は……?」
「女性の低いハスキーボイスですわね。セクシーでしょ?」
なぜだか得意げに胸を張る。
でも分かる。操くんの声を聞いてるだけで、きゅんきゅんするし……。
「あのー、じゃあ『そんな趣味はない』って言ったのは……」
「それはもちろん、みさが女だからですわ」
つ、辻褄が合う!! で、でも……
「み、操くん……ぼくに対しても同じこと言ってなかった!?」
誘惑するたびに、そう言って引き離していたはず……。
「あー……」
目を逸らして頬をかく操くん。
「それはお前、優音は女の子にしか見えないからな……」
「え……?」
唇を尖らせて、恥ずかしそうに言う姿に、少しきゅんとする。
でも考えてみると、かわいい子が女の子にアプローチしているのは、ちぐはぐというか……。
「女の俺が、どきどきしてるなんて、おかしいだろ……」
もごもごと口を動かす操くん。
声量が小さすぎて、何を言っているのかは聞こえない。
「え? なに……?」
「なんでもねぇ!!」
聞き返すと、なぜだか不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。
その態度が少し気になるけど、今は疑問を解決する方が先だ。
「く、クラスのみんなは気付いてるの?」
「女子は気付いてるが、男子は馬鹿だから気付いてない」
だ、だからあんなに恨みの目を向けられているんだ……。
いや、ぼくも男だしおかしい気はするけど……。
「てか、鈴蘭先生は知ってるぞ」
「そうですわね。みさのことを、操『さん』って呼んでますし」
「え……」
指摘され、普段の先生との会話を思い出す。
『あら、操さん、優音くん、また明日ね』
ほ、本当だ……!!
深く考えてなかったけど、ぼくは女の子の格好をしているのに『くん』付けで呼ばれてる……。
「ってことは、操くんはやっぱり……」
「女だよ。まぁ、女っ気ないのは自覚してるし、男子とつるむ方が気は楽だけどな」
「えぇ……」
そう言われて、へなへなと崩れ落ちる。
ぼくは、操くんに恋をした――
男の人にそういう気持ちを抱くなんて、おかしいけど……
心から恋人になりたいと、そう思えたんだ。
だから、誰よりもかわいくなろうって、頑張った。
でも、ぼくが恋をしたのは本当は女の人で……
「じゃあ、ぼくが今までやってきたことは……」
呆然と呟いて……
「一体……なんだったのぉおおおおおおおおおおおおおおお!?」
全ての思いを吐き出すように、再び叫んだ――




