思いもよらない尋問
「お疲れ様、リリア」
「お疲れ様です」
「今日は食堂?」
「もちろんです。ビーフシチューの日ですから」
仕事終わりにまっすぐ食堂へ向かう日は、私の大好きなビーフシチューが夕食で出される時だ。よく煮込まれていて柔らかくなったお肉は口の中で溶けて、初めて食べた時は思わず感嘆の声をあげたほど感動したのを覚えている。覚えているけれどお肉の塊をスプーンの上にのせると期待が膨らんで喉を鳴らすほどの生唾を飲んでいた。
「んーやっぱり、美味しい」
スプーンで掬うごとにシチューの香りが鼻から入り、口の中で広がる味わいに一時の幸せをかみしめていると、耳に入ってきたある声で動けなくなった。
「ローウェルト嬢」
聞き覚えのある懐かしい声で近づいて来る存在に一瞬慌てそうになる。
「少し話せるか? 聞きたいことがあるんだが時間を作って欲しい」
「申し訳ありません。今、食事中ですので食後でよければ話しましょう。近くのガゼボでよろしいでしょうか?」
「ああ、いいだろう」
冷静に答えられたことに少しほっとして食堂から去って行くレイモンドの後ろ姿を一瞥してから急いで食べた。
「はぁ……行きたくないな」
途中から味がしなくなったシチューを思い出して満足しなかった食後の気分と、これから向き合う事への不安からか大きなため息が出ていた。聞きたい事の予想は大体つくし、特に話せない事もないから聞かれた事だけ答えようと引き返したい足を前へ進めた。
遠くに見えるガゼボにはすでに人影がありこちらへ向ける視線を感じた途端に自分の顔が強張っていくのが解った。
「お待たせして申し訳ありません」
「こうして話すのも久しぶりだな」
「手短にお願いします」
この場所から早く離れたくて咄嗟に出た言葉と素っ気ない態度は、今の素直な気持ちの表れなんだと納得して次の質問を待つ。
「療養していると思っていたんだが?」
「はい、別邸にて療養していました」
「何故、この国にいる?」
「伯母から会いたいと手紙をもらいこの国へ来ました」
「この国へ来て何故騎士になった?」
「伯母が元女王専属の近衛隊隊長でした。剣技を見た瞬間に自分でもやってみたくなり、お願いして教わりました。この先の事を考えて近衛隊に入隊を進めてくれた伯母には、とても感謝しています」
「ギリニア国へは戻らないのか?」
「はい」
「そうか……しばらくは滞在する予定だからまた話せるだろうか?」
「……時間が合えば、ですけれど」
「ああ、また話そう。久しぶりに話せて嬉しかったよ。時間をとってくれてありがとう」
「いえ、これで失礼致します」
早歩きでガゼボから離れていくにつれ安堵していったけれど、自分の顔がどんな表情をしていたのか推し量れなかった。




