名残(レイモンド視点)
頭の中に先ほど見かけた騎士を思い浮かべ、リリアと似ている所を一つ一つ合わせていく。
「やはりあれはリリアじゃないか」
「閣下、ローウェルト嬢です。名前呼びはもうできません。婚約者様ではないのですから」
「あ……ああ、そうだな」
王太子の時から護衛として側にいるマーカス・ラベルは、私が公爵となった今でも護衛をしながら執事としても仕えている。私とリリアの事を側で見守っていた唯一の側近だ。そのマーカスも驚いていたのかいろいろ疑問に思ったことを話はじめた。
「髪が短くなっていてすぐには気づきませんでした。女王専属の近衛隊の服を着ていましたし、女王陛下のお側の護衛をしているのでこの国の騎士になったのは間違いないです。ローウェルト嬢は剣など持ったことはなかったはずです。剣術はどこで学んだのでしょうか。近衛隊への入隊は試験があるはずですのでそれなりに剣が扱えないと合格は出来ないです。どの程度の剣技なのか気になりますね」
「騎士になれるまで元気になっていて安心したよ。ずっと別邸で療養していると思っていたんだが、まさかこの国で会えるとは思っていなかった。騎士になるまでの詳しい話を聞いてみたいのだが、どうやって会おうか」
「女性騎士は専用の寄宿舎がありますが、食事は共同の食堂でとるでしょうから、そこに行けばいつかはお会いできるのでは」
「いつかとはいつだ。すぐにでも会って話したいのだが」
「あとは……訓練場ですかね。たぶん来るのでは……」
「はぁ……確実ではないな」
「少し聞いてみます」
今すぐ会って話したいのに、それが出来ないもどかしさと疑問の塊が頭の中にどんどん増えていって苛立ちを少し感じた。机の上をトントンと指で叩きながら考える事は、髪を切り騎士の服を着たリリアの姿だった。
それから数日、毎日のように食堂と訓練場へ行ってみたが会えず、面会を頼むが任務で忙しいと断られ、リリアを探す日が続いた。
「こんなに会えないとは……」
「閣下、今日の夕食時に食堂へ行けば会えるかもしれません」
「確かか?」
「はい、仲の良い方に聞いたところ今日の夕食はビーフシチューのようで、ローウェルト嬢はそのシチューがお気に入りで必ず食べに来るそうです」
「そうか、やっと会って話せるな」
「ふっ」
「なんだ?」
「嬉しそうですね。ローウェルト嬢が婚約者様の時はよく閣下の事を探しておられましたよ。今は逆にローウェルト嬢を探していますね」
「なかなか会えないのだから仕方がない。以前は頻繁に会っていたのに……」
「それはローウェルト嬢が閣下に会いたい一心で行動しておられましたからね。まぁ、それを煩わしいとよく避けてましたが、妃教育の忙しい中いじらしかったと思います。話す事ができましたら明日からは任務を思い出して下さればと」
「忘れてはいない。ただちょっとローウェルト嬢の事が気になっているだけだ」
「そうですか。探すのはローウェルト嬢ではなくニール・ワーバンですからね」
にこにこと話ながら語気を強めるところをみるとどうやらマーカスは怒っているらしい。何に怒っているのかよく解らないがそれを聞くと余計に言葉が返ってきそうでやめた。
(ローウェルト嬢を探すのがだめなのか? ニール・ワーバンを探す任務をあとに回したのがだめだったのか?)
考え事をしながら「ああ、解っている」と返した返事に気持ちが入っていない事がマーカスには解ったのか深いため息をされ肩を落としながら書類整理を始めていた。
夕方、食堂へ向かうと任務や訓練が終わった騎士達で賑わいを見せていた。
「混んでいますね。この中から探すのはひと苦労です」
「大丈夫だ。すぐ見つけられる」
「えっ……」
「あそこだ」
「はははっ、凄いのでは。考えようによっては」
マーカスの言葉に何故すぐ見つけられないのかと疑問に思いながらも彼女に近づいていった。美味しそうに頬張りながらビーフシチューを食べていて、一口ごとに笑顔をみせているのを見るとご機嫌なんだろうなと思い自分もなんだか嬉しくなっていた。
(そういえば久しぶりに笑顔を見たな)
「ローウェルト嬢」
名前を呼ぶと一瞬びっくりしたのか体を揺らし動きを止めた。
「少し話せるか? 聞きたいことがあるんだが時間を作って欲しい」
彼女は戸惑った顔をしながらも「食後に話しましょう」と近くのガゼボで待ち合わせることを伝えてきた。
「来てくれるでしょうか?」
「それなら大丈夫だ。彼女の性格なら必ず来てくれるはずだ」
「元婚約者様の事をよくご存じですね」
少しにやついた顔をしたマーカスに得意顔をすると何故か含み笑いをされた。
それからしばらくしてこちらへ向かって来る姿が見えたが、笑顔を見せず無表情な顔をしている彼女に困惑したが久しぶりに話せる事に心が跳ねた。
(前は笑顔でこちらへ向かって来ていたのに……)
「こうして話すのも久しぶりだな」
「手短にお願いします」
「えっ……」
目の前に座る彼女を見ながら昔の姿と比べて落胆のあまり黙っているとマーカスに呼ばれた。
「閣下?」
「あ、ああ。そうだな。何から話そうか……」
聞きたかった事はすべて話そうと質問するように話した。
昔のように楽しくおしゃべりしたかったが……。
尋問するような会話に一度も笑顔を見せることなく話す彼女は、リリアであって時々否定する気持ちが湧きあがり、昔の笑顔を余計に思い出させた。話し終わると「これで失礼いたします」と一礼して颯爽と去っていく後ろ姿を見ながら、どこか心の中に空白ができたように感じ無意識に出たため息をマーカスに見られていた。




