巡り合わせ
「お呼びですか? 隊長」
「リリア、急で申し訳ないが今日の配置を変える。陛下の謁見時の護衛を頼む」
「はい、解りました」
「ギリニア国のフォンス公爵なんだが、大丈夫か?」
「隊長は知っているのですね、大丈夫です。元婚約者というだけですので。私はただ任務を遂行するだけです」
「そうか、よろしく頼む」
少し心配そうに配置変えを伝えたイザベラ・アーカイズはカーラ伯母様の後任として近衛隊の隊長についた方だ。剣技も隊員をまとめる力量も隊長として申し分ないとカーラ伯母様がよく言っていたが確かに剣を交えた時はかなわなかった。
心配そうな上司に一礼をして任務へ向った。
「女王陛下にお目にかかります」
「久しいな。今はフォンス公爵として兄王を助けているそうだな」
「はい」
「ギリニア王も頼もしい右腕がいて、安心して王冠を頭上にのせていられるだろう」
「陛下には戴冠式の儀に温かい祝辞を賜り、我が王も光栄だと申しておりました。王に代わり心よりお礼申しあげます」
久しぶりに会ったレイモンドは、女王へ堂々と感謝をのべ、フォンス公爵として王のことを日々支えているのが窺えた。姿を見たらどんな気持ちになるだろうと不安はあった。案外、心の中はざわつかず冷静でいる自分がいる。過ぎ去った時がそうさせているのか、騎士としての心情からそうなっているのか解らないけれど、無表情で見守ることができた。終わり際、視線を感じた方へ目先を向けると、目が合ったのかフォンス公爵が一瞬驚愕した顔をした。
(気づかれたかな? 髪型が違うだけだからなぁ)
入隊してすぐに長い髪を切った。
女王に剣を捧げ、新たな気持ちで向っていきたいと思う自分の志に容姿を伴った形にしたいと考えていたからだった。
謁見時の護衛の任務を終え、隊長への報告へ行こうと一礼して女王の執務室を出ようと扉に手をかけた時、女王に呼び止められる。
「ローウェルト嬢、少し話せるか?」
「はい」
座りなさいと言われ目の前のソファに座ったことを今さら後悔している。
緊張からか背筋が伸び、膝の上に置かれた手は自然と拳を作っていた。
「そんなに硬くならずにちょっとしたおしゃべりだから」
「はい」
「さて、回りくどいのはどうも好きにはなれないから思った事を聞くとしよう。婚約破棄をした経緯を教えてもらえるか」
「陛下はご存じなのですね」
「周辺国の王族の婚約は把握しているつもりだ。だが破棄をしてから我が国の騎士として側に仕えている元婚約者については、衝撃を受けたと同時に理由を知りたくなってな。無理にとは言わないが……話せるか?」
「はい」
真剣な顔で話す女王陛下は、ただの興味本位で聞いているのではなく、王族として知っておかなければならないという気持ちが真っ直ぐ見つめる眼差しから伝わってきた。ある程度要点をまとめつつこれまでのことを話していると「そうか」と相槌を打ったりしながら最後まで聞いてくれた。
「ここまで頑張ったな。カーラの導きも良い方に向かったものだ」
「カーラ伯母様には感謝では足りないくらいです。元近衛隊長のように、この国で騎士としてやっていきたいと思っています」
「そうか、ローウェルト嬢なら素晴らしい剣士になるだろう」
「ありがとうございます。陛下の盾となれるように日々鍛錬します。そしてこの身を挺してもお守りします」
跪き陛下の手の甲に忠誠の口づけをした。
顔を上げ陛下の顔を見ると優しく微笑まれ「ローウェルト嬢、あなたもいつかは幸せになって欲しいものです。カーラのように」とお言葉を頂き、じんわりと温かくなった気持ちを持ったまま感謝の意を伝え任務へと戻っていった。




