王命 (レイモンド視点)
向かい合う二人の静けさの中に、侍女がお茶を注ぐ音だけが響いている。
大事な話があるのか侍女に下がるように指示を出す兄は、神妙な顔つきをしていた。
「陛下、お話とは何でしょう?」
「レイ、今は二人だけだ。兄と弟として話そう」
「ではロイス兄様、何のお話ですか?」
「ローウェルト嬢と婚約を破棄してからだいぶ経ったけれど、詳しくは聞いてなかったから気になっていたんだ」
「破棄に関してはリリーの願いでもあったし、そのことは……その……」
「何だ、言いにくいことか?」
「正直に言います。追いかけられて付きまとわれてうんざりしていました」
「幼い頃からの気持ちに素直に動いていただけだと思うが……レイも時間を忘れて楽しそうに話していたように見えたぞ」
兄からの言葉にため息を吐いてから答えた。
「それが困るのです。話が尽きなくていつの間にか時間がかなりすぎてしまうのです。私にとって政務が滞るお茶会が煩わしくなりました。だからなるべくはお茶の時間など、ともにしないように避けていました」
「レイ……それは……」
「なんですか?」
「ローウェルト嬢は聡明で博識であったと思う。レイには話しが合う良き妻になるだろうなと……いや、もう決めた事だったな。何も言うまい」
何も解っていない弟を兄として複雑な表情で見つめた。
「王宮内で噂になっている令嬢がいるようだね」
「数人の令嬢のお茶会に参加しているのですが、あるご令嬢に頻繁に誘われるので行っているだけです」
「気に入った令嬢を見つけたということかな?」
「いいえ、気に入ってはいません。ただ短時間ですむ、それだけです。話していても短い会話で終われるし、すべて私の意見に従うようです。自分の意見は言わずいつも、殿下の仰せのままにとばかり言うのは主体性がないなと考えてしまうところもありますが」
「レイはかなり従順なのがタイプ? 私は違うな。今の妃は対等に話せて時には叱ってもくれる良き理解者でもある。そういうところも気に入っていて好ましいと思う一つだ。気持ちが伴わない結婚は虚しい。だから愛されていることは幸せな事だと思うよ。よく考えてから婚約者を選んだ方がいい。兄としてレイには幸せになってほしいからね」
「ありがとう、兄上」
微笑みながらお礼を言うと、頷きながら微笑み返された。
「ところであの件はどうなった?」
急に顔色が変わり、王としてのオーラが全身から放たれたように感じて、こちらも緊張感のある顔になって王からの質問に答えた。
「あれから追ってはいるのですが、まだ見つかりません。もうこの国にはいないのではと思います。隣国へ範囲を広げて探すのがいいのではないかと考えています」
「サラニト国か……。ワーバン侯爵が身を潜めるのにはいいのかもしれないな。確か自分の宝石店もあったはずだ」
兄が王に即位する際に粛正を行い、捕まえた者がかなりいた。元からあった国の中枢を担う者達を一新した。その際に国庫の不正取引を行ったとされる元外務大臣のニール・ワーバン侯爵を取り逃がし、今も国中を探しているが足取りさえ掴めず、兄に良い報告が出来ていない。
「エリザ女王の在位五十年の式典がある。その式典に私の代理で参加してもらいたい。女王へは書簡を送っておく。サラニト国に向かいワーバン侯爵を見つけ次第捕えるように」
「はい。式典までは日数がありますが、しばらく滞在し陛下にいい報告ができるよう務めます」
「よろしく頼む。くれぐれも油断しないように。レイの事を良くは思っていないと考えられるからね」
「はい」
兄が書簡を送り次第サラニト国へ立てるように執務室を後にし、準備の為に館へ戻った。
戴冠式のあとに叙爵によりフォンス公爵となり、王宮の近くの館に住まいを構え、日々兄を支えるべく通っている。
ワーバン侯爵を捕え兄の期待に応えたい。
兄から預かったサラニト国の地図を広げ、夜が更けるまで眺めた。




