幸せを掴みに
目を閉じここに立っていると、騎士達の鍛錬の情景とともに聞こえるはずのない剣がぶつかる金属音が頭の中に響いてきた。早朝の訓練場はいつものように誰もいない。ただ一人、私だけがいる。
「朝の訓練場……好きだったな」
ぽつりと独り言を言って辺りを見渡した。
今日でここを後にすると思うと寂しい。
自分でも納得のいく処分だったはずなのに、今までの事を思い出すだけで心残りがあるのか、ここを去る足は訓練場に向かって行き、誰もいない好きな場所に佇んでいる。
(お別れをしないと……気持ちを残していっては駄目よね)
大きく息を吸って思いっきり叫ぶ。
「騎士になって良かった! とても楽しかった! 今までありがとうございました」
頬から伝い流れ落ちた涙と私の言葉は、訓練場の床と空間に染み渡り、吸い取ってくれるような感覚に笑みがこぼれていた。
「ローウェルト嬢」
久しぶりの声音に心が跳ねて自分はとても会いたかったんだと実感し、レイモンドに向き直る。
「閣下……いつこちらへ?」
「昨日着いたばかりだ。早く会いたくて来てみたら、やはりここだった。君が最後に行く場所はきっと好きな所だと思ってね。君のドレス姿、久しぶりに見た」
「処分の事……聞いたのですね」
「陛下からすべて聞いたよ。騎士として生きる人生を私が奪ってしまった。君にしてきた事を思い出すと嫌われることしかしていないのはよく解る。陛下にも小言を言われたし……。今さら私の気持ちを言っても遅いかもしれない。愚かな事だと解っている。でも、どうしても言えずにはいられない。リリアの事を愛していると」
「……遅いですよ、ほんとにもう……。会わない月日が思い出の人になってきていたのに。まさかこの国で会うなんてね。人が変わったように私の事を追いかけ回すし、戸惑いしかありませんでした。でも、私も閣下のことを追いかけ回していましたね」
「似たもの同士か、ははは」
「ふふふ、そうみたいですね」
軽く息を吐いてからレイモンドの目を見つめる。
「婚約破棄は私から申し出たこと。刺されてしまったのは私があなたを守りたいと強く思ってしたこと。あなたを避ける行動をとってもあなたを思う気持ちは消えなかった。レイモンドを愛していると思う気持ちが、騎士として守りたいと深い愛情に代わった」
「リリア……」
「レイ……私……あなたの側にずっといたい……。戻ってもいい?」
「戻っておいで、リリー」
両手を広げて笑顔で待つレイモンドに向かって泣きながら飛び込むと、私の耳に優しく囁く。
「ありがとう、リリー。愛しているよ。嬉しくて……ぐすっ」
「レイも泣いてる?」
うれし泣きをするお互いの顔を見て笑う。
「似た者同士か」
「似た者同士ね」
同時に言った言葉に笑いながら抱き締めあった。
騎士を辞め、ここを去る悲しさも寂しさもあったけれど今は幸せな気持ちで覆い尽くされ笑顔でこの国、サラニト国を去ることが出来る。
(陛下、幸せを掴み取る事が出来ました)
心の中で呟き、愛しい人の温もりに包まれたあと、お別れを言って訓練場をあとにした。
「サラニト国ありがとう、そしてさようなら」
これから一緒にギリニア王を支えていく新たな使命もできたけれどレイモンドのことも支えていけたらと思う。
「レイ、これからずっと支えるからね」
「リリー、まずは二人で幸せになろう」
「そうね、とても素敵なことで嬉しい」
「一緒に国に帰れる事が私は嬉しいよ。幸せにするからね」
握っていた手に力が入ったのが解り、レイモンドの気持ちが伝わってくる。私も同じだと伝えたくて握り絞めると「帰ろう、ギリニアへ」と言ってずっと手を離してくれなかった。




