あなたをずっと守りたい
文字で埋め尽くされた書類を一通り読んだあと、机にそっと置くとレイモンドがこちらを見る。
「全部読み終えた?」
「はい、それにしても罪が多すぎます。酌量の余地は一つもないですね」
「そうだな。この罪を一族みんなに背負って貰うことになった。ある者は辺境地の修道院、ある者は爵位と領地返上、ニール・ワーバンは極刑に決まった」
「そうですか、やっと終わるのですね。罪の洗い出しに時間がかかってしまうなんて」
「サラニト国の隣の国が関与していたから時間がかかってしまったんだ」
「隣の国ですか……」
二人で話していると強めのノックをして入ってきたマーカスが私達を見る。
「あー良かった。いちゃいちゃしてなくて」
「マーカス! 私の執務室でするわけないだろ」
「あなたの執務室だからです。新婚のお二人だからこっちは気を遣っているのです」
「さすがに執務室ではしない!」
「そうですか、それは良い心がけです」
レイモンドとマーカスの言い合いに笑う。
「丁度仕事が一段落しているならお茶でもいれましょう」
「そうだな」
マーカスの提案ににこやかに答えた。
ギリニア国に戻ってからレイモンドの側で国王を支えるべく政務を手伝っている。
政務の合間にお茶を一緒に飲もうと言われ、それが毎日の日課になって楽しい時間になった。
「そういえば、最近の噂を聞いたのですが」
「リリーの噂?」
私の噂だと思ったのかティーカップをすぐに置いて不満そうな顔で聞いてくる。
「レイの噂よ。婚約破棄された王子が諦めが悪くて隣国まで元婚約者を追いかけたっていう噂。しかも、元婚約者の足元にひれ伏してもう一度やり直したいと懇願したという事実とは全く違う噂よ」
「へえーそうなんだ」
「もう、へえーじゃないでしょ。その噂を直さないと」
語気が強まり少し怒っている雰囲気になる。
「そのままでいいよ」
笑顔で返事をしたレイモンドになんで?という疑問から黙ってしまう。
「私が我妻リリーを溺愛しているというのがみんなに伝わっているからね。しかも追いかけ回したというかなりの溺愛具合が解る感じで尚更いいね」
溺愛という言葉を連呼された私は照れてしまい下を向く。
「顔真っ赤で可愛いリリー」
「もう、レイったら」
「はいはいはい、そこ甘ったるい空気の中でいちゃいちゃしない。お茶の時間を早めに切り上げて仕事しますよ」
「まだ飲み始めたばかりだぞ。リリーだって好きなクッキーを食べてもいないんだからもう少し休ませたい。リリーもまだ休みたいよな」
「はい、もう少し休みたいです。今日は何だか刺された腕がきしんでいますし」
「リリー大丈夫? 痛いの?」
心配したレイモンドが駆け寄り私の体を何処が痛いの?と触りながら世話を焼こうとする。
「あーもう、甘い! この雰囲気耐えられません。しばらく席を外すので思う存分いちゃいちゃして下さい。では、失礼します」
そう言ってマーカスは足早に執務室を出て行った。
「リリーお言葉に甘えていちゃいちゃする?」
「えっと……」
「また顔が真っ赤になったね」
「レイがいちゃいちゃするって言うからです」
照れながら言ったら、レイモンドは軽く笑い、私の隣に座った。
「あまり左側を動かしていないから体が固まっているのかな。軽くマッサージしてあげるよ」
「ありがとう、レイ」
レイモンドの手は温かく動かしづらかった腕が楽になった。
「毎日少しでも動かした方がいいかもしれない」
「それなら、また毎日剣を持とうかな」
「リリー、剣は無理だよ」
「剣は剣でも短剣なら?」
「短剣か、片手でも攻撃出来るしいいかもしれない」
「近々カーラ伯母様が会いに来て下さるわ。その時に指南して貰おうかしら」
「リリーの顔が何だか生き生きしているね」
「短剣を使えるようになったら、レイの事を守れるもの。強くなりたいわ」
「私の奥さん、あまり無理はしないようにお願いします」
レイモンドは優しく囁きながら顔を近づけて来たから、私も答えるようにゆっくりと目を閉じる。
あれだけ執務室ではいちゃいちゃしないと言っていたのにと思いながら。
レイモンドの噂は広がり、その思いに答え、ずっと側にいる私の献身的な愛に憧れる女性が増え、夫を守ろうとするちょっと強い妻がギリニア国に増えたという噂がのちに隣国まで届いていた。
最後まで読んでいただけたこと、とても嬉しいです。
ありがとうございました。




