背中を押してくれる親愛
今日は風が強いのか先ほどから医務室のレースカーテンをふわりと何度も舞い上げ、窓際のベットで上半身を起こす私の目線に入ってくるので、物思いにふけながら見つめる。風の音が聞こえるくらい静かな医務室にいると、遠くの足音まで耳に入り、今こちらに向かって来るのが誰なのか解るようになってきた。
「ふふふっ、ジェイが来るわ。もの凄い早足、ふふふっ。さすがに医務室だから名前を叫びながらは来ないわね」
部屋の扉を見つめどんな顔をして入って来るのかと想像して待つと、いつもなら扉を勢いよく開け放ち入って来るジェイが、そっと少し開け隙間から顔だけ覗かせた。
「ジェイ」
「……リリー、今日は起きてる。良かった」
「今日は? もしかして会いにきてくれてた?」
「何回も会いに来たけど、いつも眠っていて起こしては駄目ですとお叱りも受けた」
少し寂しそうにしているジェイに、会いに来てくれてありがとうと言うと嬉しそうにベットサイドの椅子に座った。
「リリー、痛い?」
「時々ね、薬が効いているから大丈夫だよ」
「凄い出血でさ、左側が刺されていてさ、もう……」
「心配させちゃったね、ごめんね。肩の近くを刺されたみたいなの」
「急所じゃなく肩の近くを刺されても危なかったんだからね」
「そうみたいね、閣下から聞いた」
みんなに心配をかけてしまったと思うと罪悪感からくる反省なのか黙ってしまう。下を向いたまま黙ってしまった私の手の上にそっと自分の手を乗せて、落ち込まないでと言っているような気持ちをジェイの手の温もりから感じた。
「ジェイ、あのね……私……」
「解ってる」
まだ何も話していないのに、返された返事に戸惑う。ジェイの方を見ると眉毛が今までにないくらい垂れ下がり、困っているような、泣き出しそうな表情から、推し量れないジェイの気持ちに言葉が詰まる。
「……ジェイ」
「あんなの見ちゃうとね、あの場にいた誰もがみんな同じ事を思う。きっとね」
「……」
「今思う事は、リリーには幸せになってほしい。誰よりもそう思うよ。だから、ジェイお兄ちゃんから一言、言わせて貰う。リリー、素直になりなさい。心の中の思いを彼に伝えなさい。以上!」
「……ありがとう、ジェイ」
「あーもう、泣かないの。泣いている顔より笑った顔が可愛いんだから」
「……うん……うん」
ジェイの優しい思いに触れ出てきた涙は、どんな感情から溢れたのか自分でも解らなかった。止まらない涙が落ち着くまで、ずっと頭を撫でてくれたジェイのおしゃべりに時々泣き笑いながら言葉を返す。
「式典が終わったら一度家へ帰ろう」
「そうね、カーラ伯母様に会いたい。式典出たかったな。女王陛下のお姿を近くで見たかった」
「解るよ、でもリリーは治すことが優先だからね」
「はい、当日の警備、頑張ってね」
頑張るよと言ったジェイは、次に来る時はリリーの好きなお菓子を持って来るからねと楽しみな思いを私に作ってから仕事へと戻って行った。
数日後、開けられた窓から教会の鐘が鳴り響き渡るのを聞く。
女王陛下在位五十年の式典が無事に執り行われた事を嬉しく思った私は、ベットから届かない祝辞を述べていた。




