予想外な襲撃
星々の光が霞むほどの月明かりが地上を照らし、夜の闇の中に隠れているものさえ暴こうとしているのか、いつもより大きく輝いて見える頭上の天体を眺める。
「満月か……眩しいくらいに綺麗……」
ここ数日、開かれている夜会にて城の周辺、主に外の警備を任されていた私は、同僚との合流地点まであと少しの所で足をも止めてしまう月明かりに見入っていた。
「今日も何も起らなければいい」
私の願いを聞いて欲しいのか、祈るような気持ちを月に向かって囁く。
「リリア!」
呼ばれた方を見ると合流地点で待つ同僚が大きく手を上げている。いつもとは違った顔つきに胸騒ぎを感じ走って向かった。
「敵襲だ、かなりの人数だ。応援に向かおう」
状況説明を聞きながら走り、会場内には入っていないことで陛下の安全を知り、ほっとする。必ず食い止めなければと剣がぶつかる音の方へと進むと、戦場のような光景に一瞬足が止まってしまった。
「リリー、矢を打ってくる者もいるから気をつけて」
私にアドバイスしながら応戦しているジェイは、次々と向かって来る敵を倒している。思っていたよりも敵の数が多すぎて、私も休む事なく剣を交えなければならなかった。
「リリア、大丈夫か?」
「はい、制圧までもう少しです」
「動きがおかしい、何故城の中まで向かって行かない。足止めしているはずなのに踊らされているようだ」
イザベラ隊長の言葉に、隙を見て辺りを見回す。これだけの人数で襲ってきて誰一人城の中に向かって行かない様子を見ると目的は違うのではと疑念が湧いた。
(私達が足止めしている? いいえ、私達が足止めされているのだわ)
脳裏をよぎった想像が私の顔面を蒼白にさせ、今遂行しなければならないことさえ忘れさせた。
「隊長、この場から離れる事を許して下さい。私達が足止めされているのです」
隊長に叫びながら伝え、足先は既にこの場から離れようと走り出している。
「リリア、待て!」
「この処分は受けます」
イザベラ隊長の制止する声も聞かず、ただひたすら走って行く。
そう、レイモンドが滞在している城の東側へ。
どうか違って欲しい、その人物がいなければいいと思っていたけれど、争う声の方を見ると想像した最悪な人物が立っていた。
「閣下」
「ローウェルト嬢、来るな」
「ほう、気づかれるとは。知性のあるやつは嫌いだ」
「ニール・ワーバン、狙いは閣下か」
「何が粛正だ! 国の為にやってきたこの私を潰すとはな。国政の事を解りもしないくせに出しゃばりおって」
あきれた顔をしたレイモンドがすぐに真面目な表情になり、ワーバンに問う。
「お前がやってきた国政は、悪事を働くことか?」
「うるさい! 若造が! まともに政務さえ出来なかった奴が何を偉そうに」
「お前から見たら出来が悪く見えただろうが、善悪の区別はつく常識人なんだよ」
「うるさい口を黙らせてやる!」
怒りが溢れた形相のワーバンは、レイモンドめがけて剣を振り下ろしている。
(陛下ではなく、レイモンドの暗殺だったのか。今までの事件は陛下の暗殺だと思わせるためのものだったのか。このままじゃレイが危ない)
助けたい一心でワーバンへ向かって行くが、それを阻止しようと束になって私に向かって来る。
「閣下の護衛が少ない!」
陛下の方へギリニア国の護衛をまわしたせいで少人数になった閣下の周りは、敵の人数に向かって行くのには心許なくなっている。
(死なせないから、絶対に守るからね。守るものがあると人は強くなれると言うけれど本当ね。周りの敵は、私が倒すわ)
ただひたすらに剣を振り下ろし、敵を倒していく。
「きつくなってきたわ」
荒い息を吐きながら小さな弱音を言った時、遠くから声が聞こえた。
「リリー」
「ジェーイ、こっちよ」
これで制圧出来ると安心した私は、ワーバンを確認した。
激しく剣を交えるレイモンドに向かって不敵な笑みを浮かべている。
(嫌な予感がする……)
不安な気持ちはワーバンを捕えれば収まるだろうと、レイモンドの方へと剣を振りながら急いで向かった。
「あっ!」
ワーバンと向き合い戦っているレイモンドの背後から剣で向かって行く者がいる。
心の中で間に合ってと叫び、レイモンドの背後に入り剣を振り下ろす事は出来たが、まさか横からも狙われているとは思わなかった。私からは死角になっていたとは。
「レイ! 危ない!」
私の体の左側に剣が刺さっている。
一瞬見えた直後の鋭い痛みに叫ぶ。
「まだ、死ねない!」
叫びながら右手の剣を下から上へ振り上げ、襲ってきた敵を倒し、そのまま膝をついた。
「リリー」
私の名を呼び、ワーバンへ背後を見せようとしたレイモンドに叫ぶ。
「王命を全うせよ!」
私の言葉で我に返ったのか、もの凄い勢いでワーバンへと剣を振り下ろすのが見える。
見届けなければと剣を支えにして、今にも倒れそうな体を起こした。
「……制したわ」
ワーバンが倒れたのを見届けると、安心からか力が抜け落ち、私は倒れ込んだ。
「リリー!」
(抱き起こしたのは誰?)
うっすらと瞼を開け見上げるとレイモンドの顔が見えた。
「泣いている顔……初めてね」
「リリー……どうして私を庇った……なんで……」
「なんでかな……ふふっ」
「リリー! リリー!」
(意識が段々と遠くなるにつれレイモンドの声も小さくなっていくわ。守れたわ……良かった)
意識が途切れた後、私の名前を叫んだ声は王城に響き渡っていた。




